第5話
「ったくどんな
良八の手には木箱があった。
「たしかに家の中にはねえけどさ。家の庭に埋めて隠しておくなんて。まさに掘り出し物だな」
大和はため息をつく。
「おまけにやけに冷静だったしな。あのじいさん、さては全てわかってただろ」
「絶対師匠と繋がってやがったな……」
その時、カラスが空から降りてきた。
ポト、と良八の手に紙切れを落としていく。
ワナワナと良八が震えているので横から見るとやけに達筆な文字でこうあった。
「終わったならさっさと帰ってこい馬鹿弟子。洗い物が溜まっているぞ」
良八は歯ぎしりした。
「あんの野郎……。馬鹿にしやがってー」
「馬鹿だからな」
「事実だけど!そこは口に出して言うなよ」
一瞬の間の後、大和は何気ない口調で言った。
「大事に持ち帰ってもう帰ってくんなよ」
「ああ。いろいろと世話になったな」
ニカっと良八は笑った。
「ありがとさん。これで心置きなく戻れる」
「礼には及ばねえよ」
「そんじゃな」
軽く手を振ると良八は歩き出した。
「……来たときといっしょでいきなり来ていきなり帰るんだなあいつは」
のらりくらりと。
まるで猫のように気まぐれに。
「帰ってこねえよ。しばらくはな」
ん?
今なにか聞き捨てならない言葉を聞いた気がしたが。
まあ、言葉のあやだろう。
気にせずに大和はアパートに帰り、即刻寝た。
数日後。
「はー終わった終わった」
大学からの帰り道歩いていると、いきなり声がかかった。
「よっ」
ハッとする。
「大和クン、何が終わったって」
「おまえ……」
大和は絶句した。
知った顔。
でもその姿は若干違っていた。
髪は整えて少し伸びた後ろ毛を軽くしばってある。
服装もカジュアルな、そこらへんにいる若者の見本のようなものを着ている。
そう、会ったあの日のようなボロ布ではなく。
「な、ん、で、ここにいるんだよ!」
「おーいい反応」
にこやかに良八は言う。
「実は世間のことをちょっと勉強してこいってお前の大学に編入?することになってさ。俺って学校に通ったことがないからすごく新鮮っていうかさー」
マジか。
浮世離れしている理由がわかった気がする。
じゃなくて。
「なに帰ったクセにサラッと数日で戻ってきてるんだよ。あれから一週間も経ってねえよな」
「あーあと一つ頼みがあるんだ」
大和の話を全く聞かず、良八は続けた。
「こっちで暮らしていく家がねえんでさ。しばらく
「はあ?お前ふざけんのもたいがい……」
「あ、これ家の鍵?やりい、お邪魔しまーす」
「人の話を聞け!」
良八の懐には一枚の手紙が入っていた。
「拝啓 米蔵大和様。至らない弟子をよろしく頼む。ふと思った。
こうして二人は仲良く並んで歩いて行った。
行く先はしれず、この先どうなるかはわからないが。
ただいい未来があることを信じて。
「なんかいい感じにまとめるのやめろ」
良八が書いていたメモを放って大和は言う。
「なにがのらくらだ。うまくねえっての」
「せっかく字の練習してたのに」
「うるさい。住むからには家事全般やってもらうぞ。炊事洗濯ゴミ出しまでな」
「うえー、わかりやした」
万両丸はそんな二人の姿を見ながらベランダで丸くなっている。
空には明るく輝く月。
明日も晴れるようだ。
光あるところに陰あり。
忍という裏の世界を渡る日陰者ながら、二人はのらくらと今日を歩いていく。
完
のらくら 錦木 @book2017
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます