第二十二話 第一章エピローグ
「くそっ。逃がしたか。」
あのまま戦っていても負けている可能性が高かっただろう。だが情けで見逃されたのも癪だし、ブレイブとダラットを殺したのも許せない。あいつは次会ったら倒そう。絶対に。
そう思いながら一歩踏み出すと、少しめまいがした。俺は思った以上に疲れていたようだ。まあ攻撃がいくら遅いって言っても集中しながらあれだけ動いてたんだ。そりゃ疲れるよな。
「とりあえず町に戻るか。」
そして俺が踵を返して墓地から出ると、そこには陽太と…ダラットがいた。
「生きてたんですか!ダラットさん!」
「ああ、おかげさまでな。俺としたことが恩人の姿に惑わされちまった。まだまだ修行が足りないな。
それと…なんだ。お前のおかげで俺は死ななくて済んだ。ありがとな、恐。」
「いいえ。いろいろお世話になりましたし。」
「じゃあ俺はもう一度ブレイブさんを供養してくる。お前たちは先に帰っていてくれ。」
「わかりました。それじゃあまた。」
先ほどディスクを倒したときに人骨みたいなもの出てきたから、おそらくブレイブのだと思うから墓の前に置いといたけど…まあいっか。
そこでずっと黙っていた陽太が口を開く。
「なあ…俺のこと忘れてない?」
「ソンナコトナイヨ」
すまん。正直忘れていた。
そして俺たちは一緒に街まで歩きながら話す。
「へー。俺が墓に入れなかった間にそんなことがあったのか。それにしても本当にお前はトラブル体質というかなんというか…もう慣れたがな。
確かネームドボスとかまだ数体しか確認されてなかったような…まあ気にしないでおくか。」
俺が一通りあった出来事を話し終えると、陽太がそんなことを言ってきた。
ネームドボスとはよくわからないが…
「墓に入れなかったってどういうことだ?確かに霧は深かったが、入れないって程でもなかったぞ?」
「あー。入れないって言うと語弊があるかな?表現するなら霧の結界?みたいなものが出来てて音が聞こえるんだがその場所までたどり着けなかったんだよ。
おそらく幻覚の類だろうが…どちらにしろ強敵だったんだろ。」
「まあ確かに強かった。本来の体じゃないのに100回斬らないと倒せない敵ってかなり無理ゲーなきがするが。攻略法とかあるのかな?」
「フィールドボスでリッチはいたけど、そいつの弱点は確か聖属性魔法と、継続ダメージとかだったな。」
俺どっちも持ってないんだが?継続ダメージは必殺技の毒で与えられるとしても、聖属性魔法とかかなり覚えるの難しそうだ…
「聖属性魔法ってどうやって覚えるんだ?」
「確か教会に行って任務をこなすか、悪魔退治とかをすると習得条件を満たしてた後、教会に行ってお祈りとお布施をするとかいうかなりめんどくさい条件だったぞ。」
「へぇー。とりあえずは教会に行ってみてから考えるか。」
依頼を受けるにもまず教会に行かなければならないようだ。教会は古ぼけた奴なら一度行ったがあれはノーカンなのか?
「それがいいと思うぜ。それにしても今回の戦闘でお前もかなりレベルアップできたんじゃないか?」
「まだ確認してない。ちょっと待ってくれ。」
そういえばまだ確認していないと思いだした俺は、急いでメニューを開き、報酬を確認する。
「うわっ。」
すると一気にたくさんのメッセージが流れてくる。とりあえず×ボタンを押してみる。すると一つだけウィンドウが残った。
『ネームドボスとの戦闘を、ほかのプレイヤーたちのために投稿してみませんか?Yes/No
※あなたの個人情報が入っていると思われる会話、単語、その他一般的にあまりにも倫理感から外れていると思われる言動はカットしますがご了承ください。この動画の収益は、ある程度の再生数となった場合後日ご相談します。』
なんか出てきた。目立つことに興味はないけど、これを見て攻略考えてくれる人がいるかもだしな。物は試しに投稿してみよう。どうせそんなに見る人もいないだろうし。そう思い、俺はYesを押した。
「どうした?」
「いやなんか戦闘動画を投稿してみないかって言われてな。見てくれた人が助言くれないかなーって思って投稿した。」
「もう少し考えろよ…まあメリット多いしいいんじゃないのか?俺も公開されたら見させてもらうわ。お前がどんな風に戦ってたのか気になるし。そういえば恥ずかしいセリフとか言ってないよな。さすがに。」
「待って、そういわれると結構ヤバいこと言ってたような気がしてくるんだが…」
考えないでおこう。幸いにもVRでの恐=俺だと知ってるのは陽太ぐらいだし。もし言われてもしらばっくれればいいしな。
「何はともあれ、町へ戻ろうか。」
「そうだな。」
■■■
俺たちはそのままゆっくりと町へ戻った。
ログアウトする前にギルドに行って報告をしたら、追加で報酬がもらえることがあるのでがいいと陽太が言ったからだ。
そしてギルドの扉をくぐると、まさかのダラットがいた。
「よう。お前たち。また会ったな。」
「戻るの早くないですか?」
いくらなんでも早くないか?もしすぐに戻ってくるにしても俺たちとすれ違うはずなのに…
「ああ、それは近道を使っただけだ。仕事を急に休むと言ってしまったからな。一刻も早く戻って、仕事をしたほうがいいだろうと思ってな。」
「まじめですね。そういえば俺たちは一応報告をしに来たんですけど…」
「ああ、それはこっちのほうで済ませておくと言いたいところだが…如何せん俺は戦闘を見ていなくてな。どんな感じだったのか教えてもらえるか?」
「いいですけど…」
俺は内容を思い出せる限りすべて伝えた。
いやー。それにしてもこの人を殺されたと思い、怒って攻撃したはずなのに、本人が生きているっていうのもなんか感慨深いな。
「―――――――――って感じです。何かわかりにくいところありましたか?」
「いや、十分だ。だがネームドボスを素人が追い払ったとなると上が信じてくれないかもしれないな。まあいい。改めて俺を救ってくれたこと、礼を言う。」
「いいえ。少し気になったんですけど、敵のいなくなったところにあった白い骨はやっぱりブレイブさんのものだったんでしょうか?」
「ああ、おそらくな。」
「そうですか…」
やっぱり死んでしまっていたのか。誰も死亡は確認していないし、リッチのやつがまねただけっていう一縷の可能性もなくなった。
「そんな暗い顔をするな。ブレイブさんたちはお前にいろいろ助けられてるし、お前があそこにいたって何もできなかったさ。」
「そういってもらえる時が楽になります。」
確かに俺にはどうすることもできなかっただろう。でもそれをなじらずに言うダラットのやさしさが少し辛い。
「ってブレイブさん
「ああ。お前は知らなかったか。お前、湖で女の子に会わなかったか?」
「確かに会いました。確か名前はガーティアでしたっけ。」
「よく覚えているな。あの子は実はブレイブさんの娘で、俺が預かっているんだ。」
「そうなんですか。ってことはお母さんはもう…」
「ああ、少し前にはやり病で逝っちまった。だから恩義のある俺が預かっているのさ。」
「だから教会にいたんですね。」
「いや、違うあの子は親の形見のペンダントをあそこで落としてしまって、ずっとそれを探しているんだ。
ただ、最近はヤバい魚が住み着いて、湖に入れなかったようでな。もう半ばあきらめていて、今日で探すのは最後にするって言っていたんだが、そこでお前が現れて魚を取ったから、あの子は形見のペンダントを諦めずに済んだってわけさ。
だから言っただろ?ブレイブさんたちはお前に助けられたって。もちろん俺も含めてな。」
そういいながら、ダラットは怖い顔を歪め、笑って見せた。
俺のしたことは無駄じゃなかったんだな。よかった。
でも今の話を聞いて気になったのが…
「もしかしてそのペンダントってこれですか?」
そういって俺は湖でのドロップ品の『古ぼけたペンダント』を差し出す。
「おお!これだ。それにしてもなぜおまえが持っているんだ?」
「湖で魚を倒したときのドロップ品ですよ。見つかってよかったですね。」
「ありがとうな!本当にお前ってやつはどこまで…」
「いや、成り行きですし。」
「この恩は忘れねえ。困ったときには絶対に俺に連絡しろ。何かしら力になる。」
「ありがとうございます。」
本当にいい人だな。俺はただ偶然でやっていたことばかりで却って申し訳ない。
最後にあいさつして、俺たちはギルドをあとにした。ダラットは俺たちが見えなくなるまで手を振っていた。
そうしてログアウトする前、唐突に陽太が聞いてきた。
「なあ、恐。お前このゲーム楽しいか?」
本当に藪から棒な質問だったが、俺はありのままの感想を口にする。
「ああ、楽しいよ。これからもまだしばらくやろうかな。」
「それは良かった。」
「ただ趣味のホラゲーもたくさんやるけどな。」
「ははっ。お前らしいな。」
「さて、明日はなにしようかなー。」
「明日学校に行ったらもう冬休みだろ。」
「そっか。じゃあ早く宿題終わらせて遊ぶかな。」
「そうだなー。」
そうして、他愛もない話をしながら、俺たちはこのゲームをあとにした。
■■■
「ククク…恐よ。
待っているぞ。お前がいつか全霊を賭け、この儂を仕留めに来るのを…
お前はどんな風に成長するのか。楽しみでしょうがない。そして次こそ…血沸き肉躍る戦いを繰り広げよう…クハハハハハ」
深淵のような暗闇の洞窟に、いつまでもその笑いは響いていた。
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投稿遅れて申し訳ありません。ノロウイルスと風邪と花粉症とかいう命に別状はないけどかかったら嫌な病気Top3にかかっていました。
それと誤字報告ありがとうございます!
何はともあれこれで第一部終了かな?って感じです。
これまでたくさん評価やフォロー、誤字報告してくださった方々、誠にありがとうございました!(まだ終わりませんけど)
第二部も続けて投稿していきたいと思いますので乞うご期待。
ホラー大好き人間がVRMMOでネクロマンサーになったら。 @yuruouka
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