第16話 異世界で元・嫌われ美少年の犬になりました

「鳥、知ってる? 俺って案外俺、気が短いんだよ」


 代り映えしない、退屈な空を見て虚無になる。


「知らないし、興味もないわよ」


 俺は今日も、神界の草原で寝転がり、大の字になっている。

『今日も』とは言ったが、神界にいたら日にちの感覚なんてほぼない。

 見飽きた……もう見飽きたよ、この空……。

 草も花も、大自然はもうお腹いっぱいだ!


「リアムが! 呼び出してくれない!」


 神界に強制送還され、もう五年経った。

 五年だぞ? 五年! 寝太郎も起きて、とっくに活動してるぞ!


 待っている間に俺は、人化の際に服を着ている技を習得した。

 ドリアードが作ってくれたローブを参考にして作った服を、召喚する感じだ。

 それに、犬の姿でも人の言葉を話す術も得た。

 TPOをわきまえて、人の世で生きていけるように準備はばっちりなのに……。


「それにしても鳥よ……お前が妖艶美女じゃなかったことが悲しい」


 隣にいる人化した鳥は、深紅の髪のエキゾチック美人だ。

 たわわな妖艶美女だと思っていたのに、まさか中性的な感じだったとは……。


「あなたね、この五年言い続けているけれど、まだ言うの? 元の姿に戻るわよ?」

「やだ」


 鳥はやはり人の姿を嫌悪をしているのだが、俺が人恋しくて人化して欲しいと頼んでいる。


「スレンダー美人が悪いって言っているんじゃない。ただ、お前の声のイメージとは違ったんだよ。たわわ詐欺だ」

「……あなたを時折、空に放り投げたくなるわ」

「放り投げられた先にリアムがいるなら、喜んで投げられるさ。リアムゥ……会いたいよー!」

「……はあ、今日はやけにぐずるわね。あやすのが大変だわ」


 赤ちゃん扱いするな。

 俺だってリアムを信じて、クールに待っていたいさ。

 でも、もう限界なんだよ!


 リアムはちゃんと食べているだろうか。

 誰にもいじめられていないだろうか。

 一人で寝るのは寒いと凍えていないだろうか。


 ああ、心配だ……そばにいないと心配過ぎて、そろそろ毛が抜け落ちるかも!


「俺はもう、待ちくたびれたよ……リアム、もう俺のことなんて忘れちゃったのかな……」

「はあ、うざいわね」

「誰がメンヘラ神獣だ」

「そんなこと言ってないでしょ。……あら? ねえ、犬」

「お前、『犬』って言ったな!? 俺を犬って呼んでいいのはリアムだけだ!」

「そのリアムが呼んでるわよ?」

「そうだよ、リアムなら呼んでも――って、え? ええええ!!!?」


 鳥が指さしたのは、リアムがいる世界と神界を繋ぐあの泉――。


「はわ……」


 毎日ずっと、ずーっと光るのを待っていた泉が今……光っている!

 俺は焦りすぎて躓きながらも、犬の姿に戻って泉の淵に張り付いた。


「リアム!? リアムなのか!?」

『レ…………オ! …………レオ!!』

「…………っ!! 本物だ……リアムの声だぁ……うぅ……」


 嬉しすぎて思わず遠吠えした。

 久しぶりに聞いたリアムの声――。

 でも、なんだか違う……もしかして、声変わりした?


「泣いている暇があったら、さっさと行きなさい!」

「え? わああああっ」


 そわそわしながらタイミングをはかっていたのに、鳥に尻を蹴られて泉に落ちた。

 こら、鳥~!!


「……まったく。しばらくは神界もさみし――静かで快適になるわね」




 ※




 三年前と同じように、高いところから落ちた感覚がした。

 目を閉じて身を任せていたのだが、俺はすとんと綺麗に着地することができた。


 瞼を開けると、見覚えのある四角い部屋の中だった。

 そして、待ち受けていたのは、俺を召喚した人――。


「……レオ。やっと、また会えたね」

「リア! ……ム?」


 俺を見て微笑んでいるのは、確かにリアムだ。

 でも、記憶にある美少年ではなく、長身のイケメンだ。

 しかも、愛犬家イケメンの玲央さんとそっくり!

 少し違うのは、髪が長いところだ。

 昔は自分で切るし、栄養も足りていなかったため、艶がなくてボサボサだった銀髪が、今はシルクのような素晴らしい輝きを放っている。


 リアム……五年で超育った?

 別れたときは中学生くらいだったのに、今は大学生くらいに見える。


 更に、リアムが今纏っている服は威厳に溢れている。

 黒を基調とした生地に美しい金糸の刺繍が施された軍服風の正装に、立派な毛皮の縁取りがある青のマントを纏っているのだが、これはどう見ても――。


「リアム……王様になったのか?」


 恐る恐る聞いてみると、超絶かっこよくなったリアムが微笑んだ。

 微笑み方まで、どこか色気がでたというか、レベルが鬼上がりしている……。


「実は、そうなんだ」

「ええええっ!!」


 驚きで叫ぶ俺に向かって、ゆっくりとリアムが近づいて来る。


「レオを絶対に守れるようになってから召喚する、って決めていたんだ。……だから、五年もかかっちゃってごめん」


 目の前に来たリアムが、しゃがんで俺を抱きしめた。

 腕も以前とは違い、筋肉もしっかりとついていて逞しい。

 俺が小さくなってしまったのかと思うくらい、リアムの体が大きくなっている。

 ……立派になったなあ。

 俺を呼ぶためにたくさん苦労もしただろう。


「……待ちくたびれたけど、リアムだから許してやる」


 そう言って、人の姿になる。

 リアムがびっくりしていたが、ちゃんと服も着ているし、大丈夫だろ?

 この姿になったのは、しっかりとリアムを抱きしめたかったからだ。


 両手を大きく広げて、リアムを抱きしめる。

 レオニーさんが俺にしてくれたように、頭を撫で、背中をぽんぽんする。


「リアム、がんばったな」

「……うん」


 少しすると、リアムのすすり泣く声が聞こえた。

 泣き虫なのは変わっていないようだ。


 ……そんな泣き虫なリアムには、アニマルセラピーが必要だろう。

 それに、やっぱり俺はこっちの方がいい。


 リアムから少し離れると犬の姿に戻り、改めてリアムに飛びついた。


『ご主人様、ただいま!』




 俺は無事、異世界で嫌われ美少年の……いや、がんばりやな王様の飼い犬になりました。




※※※



◆あとがき◆

 加筆修正版本編はここで完結です。読んでくださりありがとうございました。

 ここからは青年になったリアムと犬の、恋愛に発展する後日談になります。

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異世界行ったら嫌われ美少年の犬になりました 花果唯 @ohana

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