第86話 炎と永遠 7

 ゾフィーの元を辞した二人は城のバルコニーにいた。

 ここからは城下が一望できる。


「俺はお世継ぎを支えながら、この帝国が良い方へと向かうよう努力したい。貴族、平民ともに豊になれる国が理想だ。そして奴隷階級の無い国にしたい」


 エルンストは空に腕を伸ばす。そして広げた手の平で何かをつかむようにその手を閉じた。


 秋の訪れを告げる風がフィーアの髪を揺らす。

 夕暮れの光は街並みを赤く染めていた。


「是非そうして下さいませ。そして、ルイーザとギルベルトが結婚出来る世にしてください」

「ああ、二人は大切な恩人だ。ゾフィーに二人の婚姻の許可を願い出ているし、法改正も急がせている」


 エルンストはフィーアの腰に手を回した。


「ゾフィーはこれから様々な問題にぶつかるだろうし、再び宮廷闘争に巻き込まれるかもしれない。その時は頼むぞ」


 フィーアは微笑みで答える。


「――実は、一度聞いてみたかったのだが」


 口ごもる口調がエルンストらしくない。


「何ですの?」


 エルンストはためらいがちに口を開くと、


「ファーレンハイトに心を動かされたことは無かったのか?」

 

 フィーアは驚いた顔をする。


「まあ、何故ですの?」

「あいつは俺に勝るとも劣らない色男だし、俺より遥かに優しいからだ」


 クスっとフィーアは笑う。


「エルンスト様は絶望の淵から私を救ってくださいました。私の心の鎖をお持ちなのはどなたでしょう?」


 エルンストはフィーアを後ろから抱きしめた。

 フィーアはエルンストの手に自分の手を重ねる。


「俺たちの未来はまだどこにあるか分からないが、ついて来てくれるな」

「あなたとなら」


 二人の影はだいぶ長くなっていた。


「夜が始まるな」


 頬を赤らめるフィーアの甘く濡れた唇に、自らのそれをそっと重ねたのだった。



 終わり

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騎士団長は奴隷女を愛してやまない 月夜野楓子 @korokorokoron123

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