第21話 悪役の俺、一回戦の相手が弱そうで笑い転げる
武闘会が始まった。
模擬戦とは別で殺す以外のこと、と余りにダメージが大きい攻撃以外のことは基本的には許されているのが武闘会。
参加は任意だが、殆どの学生が参加する。
それは、日頃の成果を見せつけるため。
「カイン。おはよう」
そう言っていつものようにフィオネが近付いてきた。
「トーナメント表貰ってきたが必要か?」
「必要などないさ。フィオネ、お前を含めてこの学園の人間は雑魚ばかり。吹けば飛ぶ。そんな奴の名前なんて見たって俺は嬉しくとも何とも思わない」
「随分な自信だな?」
「当然だ。俺が優勝するに決まっている」
原作では俺はフィオネにボコボコにされて負けてそれ以降出番が無くなる訳だが、俺は違う。
原作と同じにしてもらっては困る。
「ドラゴンを素手で殴り殺せない雑魚共に興味は無い」
「カインだってそれは無理だろう?そもそもどうせ魔法使うじゃないか」
「口の減らないヤツだな」
そう答えて俺は宣言してやる。
「フィオネ、決勝戦まで負けるなよ。お前を叩きのめすのはこの俺だ」
お決まりのセリフを言ってやるが。
にしてもこのセリフ。開始数試合で負けてそうな奴のセリフだな、と改めて思う。
「決勝戦は無理だぞ?私達同じサイドだから、準決勝で当たるぞ」
「ふん、そうか。では準決勝まで負けるなよ」
「そちらこそ負けるなよ?カイン」
「俺が負けるわけがなかろうよ。余り見くびるなよ?」
そう言ってやると頷いてフィオネは準備をしにいった。
「さて」
俺も次の次くらいに試合が始まるのでそろそろ待合室に行くか、と思い向かう。
「はぁー」
盛大に溜息を吐きながら待合室の椅子に座った。
「あなたがカインさんですか?」
そうしていると俺に話しかけてくる男がいた。
メガネ程では無いが、体が細く弱そうな奴だった。
「そうだが?待合室に何の用だ?ガキ」
「ま、まさかトーナメント表確認していないんですか?」
「知らんなぁ。見てないわ」
「あ、相手の傾向とか戦術とか探ったりは?」
「するかよ、ばーか」
「ば、ばか?」
気に触ったのか知らんが拳を震わせ始める男。
もっと言ってやろう。
「傾向、戦術探ってどうするわけ?頭の悪いお前に聞いてやろう」
「さ、作戦立てたりとか出来るじゃないですか」
「作戦立ててどうするわけ?」
「え?」
俺は作戦という物について話してやることにする。
「作戦というものは同じくらいの実力のヤツらが戦う時に立てて初めて効果を発揮するものだろう」
「そ、それはどういうことですか?」
「お前作戦一つでアリがドラゴンに勝てるとでも思ってんの?」
「ま、まさか僕がアリだとでも?」
「そのまさかだよ。雑魚が。はーはっはっは」
盛大に笑ってやると切れ出す男。
「や、やってみないと分からないじゃないですか?!」
「やらなくても分かるんだよ」
そう言って立ち上がると一瞬で男の後ろに移動する。
男はまだ俺が座っていたベンチに目をやったままだった。
「反応すらできないお前が、この俺に勝つ?笑わせんなよ雑魚」
「なっ……は、速すぎる……」
「こんだけ差が開いていてまさか作戦一つでどうにかなるとでも思うくらい頭の中にお花畑でも広がってんのかよ?」
そう言いながら今度は目に見えるような速度で俺はベンチに座ってやった。
「分かったら棄権してこいよ。お前じゃ俺に勝てん。後悔するだけだぞ?くくく、これは優しさだ。俺の慈悲だよ」
「や、やってみないと」
「踏み潰してやるよ、チンケなアリが。せいぜい死なないように頑張りな」
その後に挑発するように口を開いた。
「それにしてもまさか、一回戦の相手がこんなに弱そうな奴だなんて思わなかったな。こりゃ余裕だなぁ?ふははははは」
腹を抱えて大笑い。
ここまで笑えたのも久しぶりだな。
「い、言ってられるのも今のうち……ですよ……」
先程の移動で既に戦意が喪失しつつあるらしい。
原作のカインの力ならここまで差は開かなかっただろうが、
「先に行けよ。俺が開始時刻に遅刻して不戦勝するかもくらいの期待はさせてやる」
そう言ってやると、その時女の声が聞こえた。
そちらを見ると男に声をかける女がいた。
「だ、大丈夫だよ。あなたがやってきた事を信じれば、この人にだって」
女の言葉を遮ってやる。
「なに?まさか勝てるとでも?現実ってやつを教えてやるさ。何処までも現実ってのは非常なんだよ。その希望を摘み取ってやるよ今日」
女に向かって宣言する。
「今日、その男は俺に惨めに負ける。分かるか?それは決まりきった運命なのさ」
そう言うと女に慰められて男は出ていった。
会話を聞くに幼なじみ同士らしいが。
「面白い。その絆という奴をズタズタに引き裂いてやろうか」
そう言いながら俺は時間が来るのを待った。
そして開始時間5秒前。
「カイン選手?試合開始5秒前です!まだですか?!」
審判の口からそんな言葉が聞こえたので俺は風魔法による加速で移動スピードを何倍にも引き上げて、待合室から舞台に降り立つ。
目の前の男はそれでも俺を睨みつけるように立っていた。
「はっ。逃げずに来たことは褒めてやる」
「に、逃げたって何にも始まらないんだ」
剣を抜く男。
それを見て笑う。
「ふふふ、お前の泣き叫ぶ顔、あの女に見てもらおうか」
「ぼ、僕は勝つ!」
その時開始の合図が鳴った。
一気に距離を詰めて男の足を狩って地面に組み伏せる。
「どうするよ?こっからまだ逆転の目があると思ってるわけ?」
「め、目で追うことすら……できなかった……」
「立ててきたご自慢の作戦とやらは、役に立ったかよガキ?言ってやったよなぁ?無駄なことに頭使う前に棄権しとけって」
そう言って俺は笑いながら聞いてやる。
「なぁなぁ、どんな作戦立ててきたわけ?聞かせてくれよ。ギャハハハハ。お前の作戦の通り決闘が進めばどういう結果になってたの?!はははははは」
「……」
喋れなくなった男を放置する。
とっくに審判は勝敗を告げていたので俺は舞台から降りる。
入れ違うようにあの男の幼なじみの女が駆け寄っていたがその間男は動く様子もなかった。
「やっと悪役っぽくなって来たものだな」
しかし、悪役になるのも気持ちいいな。
あの男の負けた時の顔。
最高だったな。
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