第18話 悪役の俺、大罪を犯す

食事会を終えた日の深夜。

俺は王城に忍び込んでいた。


(騎士団長、助けに来たぞ)


俺は捕まってしまった騎士団長を助けるために忍び込んだ。

反王家の集団を解き放った大罪人として扱われるだろうが俺は元々悪役だ。

なんの問題も無いし、むしろ絶対悪として扱って欲しいとすら思っている。


王城の地下に幽閉されているのは調べが付いているので黒いローブを身にまとって仮面を付けて来ていた。


(後で反王家が暴れ回った後に俺は悪の王として名乗り出る。ここからだ。英雄の座から一気に反逆者として俺は成り下がる!)


石造りの階段を降りて見張りを眠らせながら俺は進む。


「……」


鎖に繋がれた騎士団長がいた。

先程まで情報を吐くように叩かれていた。


可哀想に今助けてあげるからね!

俺は高温の火魔法を使うと鉄格子を溶かした。


「……」


虚ろな目で俺を見てくる騎士団長。

壁に直接付けられた鎖に繋がれているようで身動きが取れていなかったのでその鎖を同じように溶かした。


「わ、私を助けてくれるのですか?そ、そんな事してしまえば処刑されてしまいますよ?」


無言で頷いて俺は騎士団長を回収して王城を後にした。

そして事前に買い取ってあった一軒のボロ小屋に連れ帰ると仮面を外した。


「か、カイン殿?な、なぜ貴方が」

「助けに来た、と言っただろう?」

「わ、私をスパイだとして見抜いたのは貴方ではないですか?」

「あんたはこんなところで終わる人ではないだろう?俺はあんたを信じてるよ団長」

「は、話を聞いてくれますか?」


俺は頷いて飲み物を出して話を聞く。

さぁ、話してくれよあんたの、反王家派の野望ってやつをよ!


「私は反王家派の人間ではありません」

(は?)

「このタトゥーは偽物です。私は王家へのスパイではなく、反王家派へのスパイなのです」

(思ってた展開と違うぞ?!)

「私は王家へ忠誠を誓っているのです。本当です。信じてくれますよね?先程、信じると言ってくださいましたよね」


俺は頷く。

そのまな板に誓おう。


まな板に悪いやつはいない。


「ふむ。理解したぞ。しかし何故王様が襲撃された時そばにいなかったのだ?」


普通騎士団というのは近くにいるものだと思うのだが。

あの時にそばにいなかったから俺は悪役側だと思ったのだが。


「ハメられたのです。あの時我々は別の問題に対処していたからです」


と口にする騎士団長。


「別の問題?」

「はい。それは騎士団内部の反王家派に仕組まれたものでした」


なるほど。


「騎士団にまでスパイを送り込めるのなら貴族側にも反王家派がいるのだろう?」

「はい。名前を教えます。名をドラシル公爵といいます。それが反王家派のリーダーです」


よし、そいつに接触して仲間に入れてもらってこの世界に混迷をもたらそう。


「よく話してくれたね」


俺は騎士団長にお金とここの鍵を渡す。


「好きにしてくれていいよ」


俺はそう言い残してドラシル公爵の家まで向かっていく。




ドラシル公爵はゲーム内でも悪役で終盤に家に向かうことになるから家の場所は知っている。

呼び鈴を鳴らすと直ぐに出てきた公爵。


「君はカイン卿、だったかな?」


と聞いてくる公爵の前で俺は口を開く。

反王家派の中で使われていた合言葉。


「支配をこの手に」

「その合言葉は……入りたまえ」


俺は公爵の家に招かれた。


「君は反王家の人間ではなかったと思うんだがねカイン卿」

「はっ。俺は元々悪党だよ」


と今までにやってきたことを打ち明ける。


「なるほど。それを勝手に勘違いされてここまで成り上がってしまった、というわけか」


と口にする公爵。


「そうだ。迷惑している。俺も王女にあんなことしてこんなことして悪役になりたいのに英雄に一直線で困っている」

「ふむ。目的は同じなようだな。私が王になりこの国を支配することができれば君には王女を全てくれてやろう」


ありがてぇ!

王女にボロボロの服を着せて奴隷扱いするなど最高の悪行だろう!


「話しておこう。そろそろ我々は古代竜エンシェントドラゴンのコントロールに成功する」


古代竜、何千年もの間生き続けて成長してきた竜。


「そいつに国外で暴れさせて王城と国の戦力を減らし

一気に王城を攻め落とす。それが我々反王家の狙いだ」


いいじゃんいいじゃん。この会話。

凄い悪役っぽくなってきた!


そうだよ俺が求めていたのはこういうものだ。


「我々がこの国を支配出来れば、全ての民は我々の奴隷となる。その未来が楽しみだなカイン卿。ヌハハハハハ!!!!!」


俺も悪役っぽく笑うことにする。


「そうだなぁ!楽しみだなぁ!ヒャーハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!」

「お主も悪よのう、カイン卿」

「いやいや、公爵には敵いませんよ」


と、その時だった。


「話は聞かせてもらいました」


ガシャーーーーーン!!!!!

窓が割れて、騎士団長が突撃してきた。


「な、何?!」


俺がボケーッとしている横で公爵が驚いていた。


「よくやってくれました。カイン殿。自らを悪役だと偽り公爵に情報を喋らせる。お見事な手腕です。見入ってしまうほどの演技力でした」


そう言って騎士団長は公爵を捕縛した。


「な、何をしている?!カイン卿!早く助けろ!」

「あぁ?助けろだぁ?人に頼む時は助けてください、だろうがよ」

「助けてください!」

「言い直したからって誰も助けるだなんて言ってないから、そこんとこよろしく」

「は、はぁぁぁぁ?!!!!!この腐れクズ野郎が!!!!」


あぁ、罵倒が気持ちいい。

俺は悪役なんだから罵倒されないとなやっぱり。


それで悪役なんだから常に自分の立ち位置をコロコロさないとな。


「カイン殿」


俺に話しかけてくる団長。


「その、一緒に王様の所に向かって貰えますか?きっと、私一人では信用されないと思いますので」

「いいよ」


俺はつい先程まで反王家側だったけど俺は常に君の味方でいる事にするよ騎士団長。


俺の中の悪役になりたいという欲が性欲に負けた瞬間だった。

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