第16話 悪役の俺、王城へ向かう

翌朝。

家の外に出ると父上が門の前で待っていた。


「どうしたんだ?父さん」


もう完全に敬語で話すことはなくなった。

俺はもう、父さんと同じ貴族になったから、父さんもそれでいいと言っていた。


「いや、目的地は同じだから一緒に行こうかと思ってなカイン卿?」


おぉ……ゾクゾクするぞ。

このカイン卿という響き。


こうやって呼ばれると俺が貴族になってんだなっていう実感が湧いてくる。


それにしてもカイン卿か……なんか悪役貴族っぽい響じゃん?


「よし、行こうか」


俺は父さんに頷いて一緒に王城へと向かう。


「私はやる事があるからここで失礼」


そう言って父さんは王城とは別の方に歩いていった。


長らく貴族をやっているから色んなことを任されているんだろうな、とか思いつつ俺は会議室に向かうことにしたのだがその道中


「あ、あれがカイン卿なの?父上」

「そうらしい。立派だな。あの年で爵位を貰えるなんて。あの歳で貴族になる人間なんてほぼほぼいないだろう」

「すごいかっこいい……大人びてるなぁ」

「一応私の方が爵位は上だ。お見合いの約束を取り付けてやろうか?」


と会話する親子を見かけた。

ガッツリ見た訳ではなく横目でチラッと見た程度だが。


それにしても俺のことは噂になっているらしい。

これもチラッと小耳に挟んだ程度だが、ミーナの所属していたパーティリーダーの件が広く知れ渡っているらしい。


世間を騒がせていた悪党冒険者を制裁したとして。


(うぅ……俺も本当はその悪党のはずなのにぃ……)


そうして歩いていると


「カイン卿」


俺に話しかけてくる貴族がいた。

40代くらいの貴族が俺に話しかけていた。


「何だ?」

「以前お送りした手紙は読んでもらえただろうか?我が家の娘とのお見合いを申し込んだのだが」

「はっ。あいにく読んでいないなぁ」

「手紙を読む時間すら無いほどに忙しいと仰られるのか?!なんと素晴らしい方なのだ」


何か勘違いしているらしい貴族。

別に忙しい訳では無いのだが。


「貴族となれば忙しいのは当たり前ですからな。お時間を取らせて申し訳ない。また時間がある時にでもお目通し願いたい。では、失礼」


そう言って男は去っていった。


(そもそも名乗れよ。俺貴族の名前なんて婚約者の分くらいしか知らんぞ)


そう思いながら会議室に向かう。

中に入ると既に沢山の貴族がひしめいていた。


割り当てられた席に座ると頬杖を付いて偉そうにふんぞり返った。

俺の横にいたのはティナの家の当主だった。


「おはよう。カイン卿。まさかその年で爵位を貰えるなんて凄いものだね」

「おはよう」

「とてつもない努力をしたものと見える。さぞお父様の特訓は厳しかったのだろう」


そう言われて俺は父さんの育児を思い出した。


『息子よ、私から教えるものは一つだ。愛すべき女は胸の大きな女だ。それ以外にお前に教えることはない』


父上が俺に教えたのはこれくらいだったな。

だから原作のカインは弱かったし巨乳好きだったが、俺は変わった。


俺は貧乳を愛しロリを愛しノータッチノープレイという紳士っぷりを発揮し更には修行に励んだ。


この地位を手に入れたのはつまるところ全て俺の努力。

父上のおかげなどでは断じて


ない。


「ふん。それは違うぞ?男爵。俺がこの地位にいるのは全て自分の努力の結果だ」

「なっ?!自分一人でここまで辿り着く程の努力をしただなんて、私はそのひたむきな姿を見習いたいな」


ははは、と笑う男爵を見ながら俺は会議が始まるのを待った。


「遅いな王様」


俺たちが待てど暮らせど王様は中々こない。


「カイン卿?立ち上がってどちらへ?そろそろ来ると思いますが」

「トイレだ」


俺はそう答えてトイレに向かう。

ただのトイレではない。


上層に昇って王家の連中が使うであろう高級トイレを使いに行く。

のだが


(妙だよな)


俺は常に魔力を糸状にして垂れ流してそれから周囲の情報を集めている。


ちなみにメインの目的は王女様の着替えを糸を通して見たいから。


なのだが。


(この王城に入ってから上層の方は静かすぎるんだよな)


そう思いながら範囲を搾って糸から得られる情報をより細かくする。

糸が見ている情報は全て俺の頭の中へ入ってくるのだが。


(おいおい、これはどういうことだよ)


王様らしき人物が謎のテロリストみたいなのに襲われていた。


(だから来なかったのか)


そう思った俺はその部屋に向かうことにしたのだが、その道中。

杖を持った黒い男が通路に立っていたので素早く近寄ってナイフで殺す。


「痛みはないんじゃないかなぁ?即死だろうから」


そう呟いて死体を床にそっと置く。

魔法を使えば気づかれる恐れがあるため武器の方がいいだろう。

そうしながら歩いていく。

やがて王様が拘束されている王室の前に着いた。

中に入る前に


「凍てつけ、氷の牢獄」


氷魔法を使いテロリストらしき男達を鼻から下を氷漬けにしてから部屋の中に入る。

これだと魔法の詠唱も出来ない、というわけだ。


「お、お前は」


俺を見てくる王様。


「よう、王様、あんまりにトロイんで来ちまったよ」

「お、おぉ!!すごいぞお前!カインだったな?!噂通りの実力だ!」


そう言って俺の方に近寄ってくる王様に答える。


「どうでもいいんだけどよ。早く会議とやらを始めてくれんかね。俺も忙しい中来ているのだ」

「このお礼は後でする。お前の言う通り先に会議を始めようか」


そう言うと王様は近衛兵を呼び出した。

そしてテロリスト達の拘束を初めて行くのだが。


「王様。申し訳ありませんでした。我々の失態です」


と騎士団長の女が王様の前で膝を着いた。


「カインが助けに来てくれたからな。いつもなら処刑だが減給程度にしておいてやる。それからカイン」


と俺を見てくる王様。


「お前には子爵を授ける事にする。もっと上の爵位を与えたいのだが、他の貴族の目もある。とりあえず子爵で許してくれ」


なんか子爵になってしまった。


「しかし何故お前は私が拘束されているのに気付けたんだ?」

「ふははは。王女を覗いていたからに決まっておろう」


やべ……本音出ちった。


「王城を見ていたか。ふむなるほどな。お前ほどの実力者だ。常に王城全体の監視くらい出来るのだろうな」


と聞き間違えていた王様。

ふぅ、助かったぜ。

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