第13話 悪役の俺、騎士団と戦い
俺が待っているとガッチャガッチャと音を鳴らして騎士団がやってくる。
その数は30人ほどか。
(まぁ、こんなもんか)
そう思いながら俺は騎士団の反応を見る。
「何だこれは?水浸しになっているぞ?」
「ひ、卑怯な。このぬかるみで私達の動きを鈍くする作戦だ」
「だが、それは向こうも同じでは?」
「見ろ。奴は風魔法で浮いている。このぬかるみの影響をあいつだけ受けないんだ」
「な、なんて卑怯な奴なんだ。まるで悪役だな」
俺に自由時間を与えてしまったお前たちの落ち度だよ。
そう思いながら俺は伯爵が開始の合図を出すのを待った。
「では、開始だ!」
告げられたスタート。
俺はとりあえず騎士団の動きを見てやることにした。
「く、くそ!グチョグチョだぞ?!」
「あ、歩きにくい!満足に進めないほどグチョグチョだ!」
そう言って田んぼの中に足を入れているかのような足取りになっている騎士団を笑う。
「わーはっはっは!必死だなぁ」
そうしながら俺は地面に雷を流す。
「サンダー」
地面が含んだ水分が俺の雷をスムーズに運んでいく。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
バタり、バタり、と倒れる貴族の兵士達。
私兵などやはり、こんなものか。
そう思いながら俺は最後の一人に目をやった。
「生憎だな。小僧私は魔法に対する耐性がある」
ぬかるみに足を取られてはいるが、雷を受けて確かに倒れていなかった。
「小僧、提案がある。男ならば、正々堂々と戦わんか?」
「それもよかろう」
俺は地面から水分を奪い取るとその場に立った。
「随分と様々な魔法を使えるのだな」
そう言いながら騎士団長は俺に剣を投げ渡してきた。
受け取ろうとしたその時
「目を逸らすなよ」
既に団長が迫りきていた。
俺まだ剣を受け取っていないんだが?!
「ひ、卑怯な!」
「お前が言うな!」
しゃがんで剣を避けてそのまま俺は団長の足を蹴って払う。
(速いな……)
団長は流石と言えばいいのか、かなり鍛錬しているようで動きにキレがあるし、何をとっても動作が速い。
(やはり正々堂々とか言ってる場合では無いな)
もう一度魔法を使って空に飛び上がるが。
「撃ち落とす!」
(う、嘘だろ?!)
足の脚力だけで俺の高度まで飛び上がってきた。
地上からかなり高さがあるぞ?!
「ちぃっ!」
だが風魔法で加速できる俺の速度には追いつかないが、強いな伯爵が言うだけある。
また飛び上がってくる団長、だったが。
その剣が俺に届くことは無い。
「なっ!剣が!消えた?!」
「おいおいおい、俺に勝てるとほんとに思ってんのかよ。雑魚がよ」
俺は団長を殴り付けた。
そしてそのまま落下させると、倒れた団長の首筋に剣を向ける。
「俺の勝ちだろうが」
「なっ、そ、その手にあるのは……」
「そうさ。あんたの剣さ。斬れ味は分かるよなぁ?」
「く、くそ……私の負けだ」
負けを認めた団長から剣を向けるのをやめる。
その団長が走って伯爵の方へ。
そして土下座したのを見てから俺も伯爵へ近づいた。
「約束通り婚約者ではなく奴隷として迎える」
「ま、待ってくれ」
「なんだ?」
「こ、婚約者として迎えてやってくれないか?こ、この通りだ!」
そうして土下座してくる伯爵に首を横に振る。
「二言は無い。先にケチを付けてきたのはあんただろうが」
「そ、そんな……」
俺はその言葉を聞いてミーナの近くに寄った。
「お前を奴隷して迎えることに決まった。恨むんなら伯爵を恨むんだな」
やっと悪役みたいなムーブができてる!やった!
悪役ならこれくらいしないとだな!
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、泣いていいよ。あんな哀れな男の子として生まれたことを」
すると泣き始めたミーナ。
ははは、やっと俺は悪役として誰かを泣かせることが出来た。
これでこそ俺は悪役なのだ。
「さぁ、行こうかミーナ。今日から俺の可愛いペットだぞ」
「と、とても嬉しいです。ありがとうございますカインさん。これで毎日うんざりしていたお見合いをしなくて済むんですね。そう思うとカインさんはヒーローです」
あ?
今なんと?
ヒーロー?何かの聞き間違いか?
俺は悪役だぞ?
「毎日毎日、私はお見合いばかりをやらされていました。そんな日々にウンザリしていました。みんな、政略結婚で本当の私なんか見ていませんでした」
泣き止んで俺を見てくるミーナ。
「あなただけでした。私を心から愛してくれたのは。私の目を見て好きと言ってくれたのはあなただけだったんです!」
絶句する。
え?
「つい、嬉し泣きしてしまいました。これで私は好きな人と一緒になれるのですから」
う、嬉し泣きだってぇ?!!!!!
「私を奴隷として迎え入れるのであれば私はあなたの所有物になります。その場合私を取り戻すためには父上はカインさんに許可をとる必要があります。そこまで計算しての発言だったのですよね?」
そんな事を口にするミーナ。
一切考えてなかったよ?!そんなこと?!
俺は伯爵にムカついて奴隷として迎える宣言をしただけだぞ?!
「そんなにも私を自分だけの物にしたいと思って頂けていたなんて私は幸せ者です」
そう言って俺に抱きついてくるミーナ。
おいおいおいおい?!!!
またこの流れかよ?!!!!
俺のやることなす事全部予想外の方向に行くのは何なんだ?!!!
と思っていたら伯爵が飛んできた。
「み、ミーナ。そんなことを思っていたのか?お見合いがうんざりだって?」
「はいお父様。カインさんだけなんです。私をしっかりと見て私を愛してくれたのは」
「し、信じられん……」
俺をそう言ってみてくる父上、その時団長が飛んできた。
「伯爵。たった今ギルドから連絡がありました。ミーナ様が所属していたパーティですが、ここのパーティリーダーが学生の冒険者を引き込んで違法な労働をさせていたようです。学生はよく分かっていないので絶好の獲物だった、と容疑を認めているようです」
「な、何だって?!」
団長が俺を見てから続ける。
「カイン殿はそんなパーティに自ら飛び込み実情を確認してギルドに情報提供したようです。私はカイン殿に敬意を表します」
そう言って団長は俺に膝を着いてきた。
自分の仕える伯爵にしていた時と同じポーズだ。
「私はミーナ様の結婚相手に相応しいと思います。いえこれ以上の相手は国中、世界中を探してもいないと断言しましょう」
「うむ。娘を危険な目にあってまで助けてくれたものな。これ以上私も何か言うつもりはない」
そう言うと伯爵が俺を見てきて
「カイン君。娘をよろしく頼む。君のミーナを想う気持ちは本物だったようだね」
「あ、や、やっぱり婚約者として迎えるよ」
奴隷として迎えたらミーナが喜んでしまったので婚約者にすることにした。
俺は人の嫌がることをしたい。
「わ、私の無礼な行いを許してくれると言うのか?!な、なんと心の広い方なのだ?!まるで聖人だ!」
と、俺に感謝してくる伯爵。
「このような私をあなたの正妻にして下さるのですか?!わ、私には正妻なんて勿体ないですよ!」
ミーナもそう言ってくる。
何しても喜びそうだなこの人達。
なんで悪役の俺がどんどんいい人になっていってるんだよ。これじゃダメじゃないか。
そう思いながら伯爵に別れを告げて俺は家に帰ることにするが。
「カイン君。これを持っていってくれ」
そう言って俺にお金を渡してくる伯爵。
「家を買えるだけの金だ。是非とも、娘を幸せにして欲しい」
バタン、とそれ以上何も言わずに家に帰っていく伯爵。
ギュッと俺の手を握ってくるミーナ。
「私この前から住みたいなと思っていたら家があるのです。良ければ見に行きませんか?」
どうしてこうなる?
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