第10話 悪役の俺、パーティをギスギスさせる

俺がギルドで依頼を探していると声をかけられた。


「あんたまだ依頼は決まっていないのか?」

「あ?あぁ」


声のかけられた方を見ると男が立っていた。


「良かったら俺達に付いてこないか?うち今人が足りてないんだ」

「そうなのか」

「あぁ。今見ているのはBランククエストだろう?俺たちも同ランクの依頼を既に受けていて人が足りてなくてな」


と自分のパーティの紹介を始めた男。

ふむ、いいだろう。


「OK。参加するよ」

「そう来なくっちゃな」


俺はリーダーである男に付いていった。

目的地は最近できた、Bランクダンジョンだった。


「わ、私の名前はミーナと言います。よろしくお願いします!」


その時ミーナという少女が俺に挨拶してきた。


「俺はカイン。覚えなくてもいいぞ。どうせ今回限りの関係だからな」


ミーナにそう答えて俺は進んでいくリーダーについて行く。

しばらく進んだその時


「くそ!モンスターだ!モンスターのウルフが出たぞ!」

「ウィンドカッター」


俺は奴らがそれ以上何か言う前にウルフを魔法で粉微塵にした。

何もはぎ取る事が出来なくなるくらいにぐちゃぐちゃにする。


(あはははは。これで奴らはウルフをはぎ取れない)


こういう小さな嫌がらせをすると俺は満たされる。


はぁ……気持ちいいなぁ、人に嫌がらせするのは。


ほら、見ろよ。ミーナが怒りで拳をプルプルと震わせている。

ほら言ってみろよ。粉々にしやがって、くらい。


「か、カイン!せめて剥ぎ取るところを残してくれ!」


我慢できずにリーダーは文句を言ってきた。

待ってたんだよこの瞬間、そう思って口を開こうとしたその時、ミーナが口を開いた。


「リーダー。本当に剥ぎ取りたかったのですか?」

「ど、どういうことだ?」

「ここをよく見てください」


そう言ってミーナがしゃがんで死体を確認する。


「ここ、モンスターに寄生モンスターが付いています」

「うわっ、ほんとだ。体の中に隠れていたんだな」

「剥ぎ取っていれば次の寄生先を探して、私たちが寄生されていたかもしれません」

「ゴクリ。寄生されては最悪死ぬこともあるもんな」


最悪のパターンを想像したのか顔から色がなくなっていくリーダー。

そしてミーナは俺に近付いてきてお礼を言ってくる。


「ありがとうございました。あなたのおかげで私達は助かりました。あなたは命の恩人です」

(……)


なんで?

そうなるわけ?


俺はただ嫌がらせをしていただけなのに。

俺に文句を言うって行為がそんなに難しいのかい?


俺は悪役なんだけど?そう思っていたら、またリーダーが歩くのでついていく。


「休憩をしようか」


しばらく歩いて疲れただろう?ということでリーダーが俺たちを休憩させた。


(何か……ないか?悪役になれる何かは。俺は悪いのだ、悪い子なのだ)


自分に言い聞かせて俺はミーナに話しかけることにした。


そうだ。このパーティの仲をめちゃくちゃにしてやろう。

ギスギスにしてやるのだ。

名案だな。


「なぁ、ミーナ」

「は、はい。何でしょうか?」

「結婚しよう」

「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!!!!」


驚くミーナの目を見て続ける。


「一目惚れしたんだ。俺と結婚しよう」

「わ、私よりいい人いますよ?!絶対に!」

「君じゃないとダメなんだ」

「ほ、本当に私なんですか?」

「あぁ。君がいい」


そうしているとリーダーが近寄ってきた。


「あ、あのさぁ、カイン」

「どうしたのだ?」

「そういうのは終わってからしてくれないか?迷惑なんだ」

(ぷぷぷ。イライラしているのが丸わかりだぜ)


はぁ……と溜息を吐いて続ける。

更にイライラさせにいく。


「休憩時間なんだ、何をしてもいいだろう?ダメなのか?告白してはいけないとは聞いてないぞ」

「常識というものを知らんのか?」

「知らん。俺がルールだよ。ばーか。マイルール押し付けたいなら一から十までちゃんと説明しろ」


前世にもいたよなぁとか思う。

マイルール押し付けてくるやつ。


俺はただ決まりを守ってやってるだけなのに、どうのこーのと抜かし出すアホが。


「お前の説明不足だよ、リーダー?特殊ルールがあるなら事前に説明しておけよ無能。そんなんだから何時まで経ってもBランク止まりなんだろうがよ。ふははは」

「い、言わせておけば!」


殴りかかってこようとするリーダーと俺の前に立つミーナ。


「み、ミーナ?!どいてくれ!こいつは!」

「何を言ってるんですか?カインさんは口が悪いですけど間違ったことは言っていません」

「だ、だが」

「そうやって暴力で解決しようとしてるのは口では言い返せないと思ったからでしょう?」

「う、うぐ……」


そう言われて手を引っこめるリーダー。

いい感じにギスギスしてきたなぁ。


俺はウザったらしく聞こえるように話す。


「ところでよぉ?リーダーさんよぉ?何時まで休憩してんのぉ?早く行こうぜ?」

「そ、それもそうだな」


頷いたリーダーについて行きながらも俺はミーナの横に立って話しかける。


「返事、聞いてなかったよね?君の宝石のような美しさに俺は心を奪われてしまったんだ」

「ほ、本当に私でいいんですか?私たち今日出会ったばかりですけど」


顔を赤くして聞いてくるミーナに頷く。


「うん、君がいいんだよ。愛にも恋にも時間なんて関係ないさ」

「う、嬉しいです。カインさんみたいに強くて素敵な人にそう言って貰えて……よ、よろしくお願いします」


そう言って手を繋いでこようとするミーナの手を取る。

それからわざとらしくリーダーにも聞こえるように口を開いた。


「ミーナ。このパーティを抜けてこれからは俺と暮らそうよ。俺は貴族だから君を十分に養えるよ」

「き、貴族だったのですか?」

「うん。君もこんな危険な冒険者なんてしなくていいんだよ」


そう言ってリーダーが見ている前で頬を撫でる。


「俺は、君の傷つく姿なんて見たくないし、こんなところに送り込みたくないんだよ。こんな3K(汚い、キツい、危険)な仕事なんてしなくていいんだよ。こんなの奴隷がやる仕事さ」

「で、でもカインさんはどうしてしてるんですか?」

「俺は強くなりたいからだよ。この環境でこそ自分を鍛えられるって思ってるからね」

「そ、そうなのですね。自分を追い込んでまで強くなりたいなんて素敵ですぅ!」


そんな会話を垂れ流しながら俺たちは進んでいく。


やがてもう少し進んだところでリーダーがまた話しかけてきた。

モンスターを倒して文句を言われたので手を抜いている。


「カイン。真面目に戦闘に参加してくれ」

「してるんだが、文句言わないでくれますぅ?これが全力なんですぅ。それよりもリーダー、もっと頑張ってくれよぉ」


パーティの中の空気は最悪に近くなっていた。

特にリーダーはブツブツ文句を垂れながら俺へのヘイトを隠しきれていない。


最高だ。

最高に悪役って感じだ。

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