第8話 悪役の俺、令嬢の家で好き勝手する
「さてと」
街を歩くことにするが何故かフィオネが付いてきていた。
「お前はなんでいるんだ?学園に残ったらどうだよ?」
「今日はティナも欠席だったし、私も時間があるのだ」
可哀想に、友達が俺とティナしかいないようだ。
非常に哀れに思うよ。
そう思いながら来たのは
「ギルドに何の用なんだ?」
「久々に狩りでも行こうかと思ってな。お前のように学園しか行かない奴とは違うのだよ」
俺はそう言って適当な依頼に目を通した。
その中に……お?
「これいいな」
俺は依頼をビリッと引きちぎるように取って依頼を受けた。
そして、ギルドの前で待つ。
「何の依頼を受けたのだ?」
「お前は知らないで割り込み参加したのかよ」
「当たり前だ。お前が見せてくれないからだ」
なるほど。今度はより難しい依頼を見せないように受注してこいつだけ参加させる嫌がらせをしてやろうとか思いながら待っていると
「お迎えに上がりました」
と馬車で迎えに来た依頼人の執事風の男。
場所に乗り込むよう言われたので乗り込むと馬車は進み出した。
「到着しました」
何十分か馬車に乗っていると辺境の貴族の家についた。
庭に入れてもらい大きな館に目をやっていると、バタンと扉が開いて中からお嬢様が出てきた。
「まぁ、爺や、依頼を受けてくださった方はその方なのね!」
「左様でございます」
執事は家の中に向かって行って入れ替るように近づいてきたお嬢様。
「初めまして。私はリーゼロッテ。リゼと呼んでくださいませ」
と頭を下げるのだが俺は悪役だ。
貴族だろうが王様だろうが何だろうが傲慢で不遜な態度を取らせてもらう。
「ふむ。俺はカインだ。よろしく頼むよ」
「カイン様と言うのですね。本日はよろしくお願いします」
「くくく、感謝しろよ。俺のようなスペシャルな冒険者が来たのだ」
「はい!感謝致します。ところで横の方は?」
リゼがフィオネに目を向けたので説明してやる。
「俺以外に友達のいない奴でフィオネと言う。残念なやつだ、可哀想な目で見てやれ」
と、そう言いながら俺はリゼを連れて今日の目的を果たしに行く。
「では、本日の護衛よろしくお願いします」
そう言ってくるリゼに答えたのは俺ではなくフィオネだった。
「ご、護衛任務だったのか?!」
「そうだ」
「ご、護衛任務は最低限冒険者ランクがBは必要だろ?!カインってそれ以上なのか?!」
頷く。
「能ある鷹は爪を隠すってやつだぜ?」
「人間じゃなくて鷹だったのか?!」
ほんとに疲れるな、こいつと話してると。
ことわざも知らんのか。
「で、このクエストの目標はなんだっけ?」
俺はリゼに聞く。
「え、えーっと、そのですね。私はもんすたぁというものを見てみたいのです」
と、そう言ってくるリゼ。
基本的に貴族の娘なんかがモンスターを見る機会は無い。
命を張る職業である冒険者にならなくていいから、だ。
「なるほどな。モンスターは何でもいいのか?」
「はい!何でもいいです」
「そうか。なら俺の横にいるのがそうだ」
そう言って俺はフィオネに視線をやった。
「こいつはモンスターだ。スライムだな。人の形をしているが友達が出来なさすぎて怒り狂ったスライムがこうなったのだ」
「な、なるほど!もんすたぁだったのですね!」
「そうだ。ということで依頼は終わりだな」
「はい!」
良かった良かった。
俺みたいな大悪党の言う適当なことを信じてくれてよかった。
モンスターを見せたことだし俺はリゼを連れて帰ろうとしたが、フィオネがそんなことを許すわけもなく俺を引き止めた。
「ちゃんと見せてやれ」
「ちっ……」
舌打ちして俺はリゼを連れて草原までくるとその辺を跳ね回っているスライムを指さした。
「あれが、スライムだ」
「あれがそうなのですね!もんすたぁなのですね!」
俺はスライムを捕まえてきてリゼに見せてやる。
「危険は無いのですか?」
「触るだけなら問題ないと言われてるが触るなら自己責任でな」
「で、でも、怖いですね」
俺はリゼの細い手を掴んでスライムを触らせた。
「どうだ?気持ちいいだろ?スライムは?!」
「は、はい……気持ちいいです……」
「この快楽に身を委ねよ」
「さ、触りたくないのに……」
ついには俺が手を掴んでやらなくても自分からスライムを触りだした。
やっぱりみんなこのぷにぷにからは逃れられない、という事だな。
「これは持って帰ってもいいのでしょうか?」
「俺は責任を取らんがどうなってもいいなら持ち帰ればどうだ?」
「う、う〜ん……持ち帰ります!」
悩んだ挙句持ち帰ることにしたらしいリゼ。
「今日はありがとうございました」
とお礼を言ってくる。
どうやらこれ以上追加で何かを見たいということではないらしいので俺もリゼを送ることにした。
そうして帰ると報酬を用意するので待っていてくれと言われたので、俺はその辺でうろちょろしていたボアを捕まえてきた。
もう既に夕食の時間を過ぎていたし、お腹も減ったしボアを食うことにする。
「お前もどうだ?フィオネ。特別に食わしてやらんでもないぞ」
「ひ、人の家で勝手に許可なく焼肉をするな!」
怒鳴って止めようとしてくるフィオネを押さえつけてその上に座りながらボアを焼く。
「人の家で勝手に焼肉をするなど見損なったぞ!カイン!」
こいつが見損なってくれるなんて俺にとってはご褒美でしかないぞ。
そうだ。その調子だ、もう俺に絡んでくるなよ?!
その時、リゼが執事と共に報酬を持って戻ってきた。
「な、何してるんですか?!」
駆け寄ってくる2人。
「こ、これは……」
執事が口を開く。
どうだ。見ろ。
お前の家の庭で勝手に焼肉してやってるぞ!
俺がこのまま何もせず帰ると思ったかよ?
最後に迷惑かけて帰ってやるからな!
ついでに肉を焼くのに使っていた炭を庭に捨ててやる。
「お、お嬢様、これは」
執事が震える声でリゼと話し合う。
「はい。これは、近頃我が家の周りを荒らし回っていた迷惑なボアですわ」
「そろそろ私共も業者に駆除を頼もうと思っていたところなのに、カイン様は本当に気が利くお人ですな」
「そんなボアを駆除したどころか、その血肉の1片すらも無駄にしないというこの気概も本当に素晴らしいですわ」
俺を見てくるリゼ。
「あなたは聖人のようなお人なのですね。カイン様。命を無駄にしない。私はその姿勢に心を打たれてしまいました」
あ、あのぅ……?
俺嫌がらせしてただけなんだけど?
な、なぁ俺悪役なんだけど?
聞いてますか?
「だがリゼ、カインは炭を落として拾おうとしていない」
そこでフィオネがフォローを入れてくれる!
そうだ!俺の悪役っぷりをこいつらに教えてやれ!
「いいえ、一見マナーの悪い人のように見えますが、よく見てみてください。この落とした炭も理由があって拾っていないのですわ」
そう言ってお前には何が見えてるんだ、と思って俺は目を凝らしてみた。
近くにアリが群がっていた。
「このアリは当家の周辺に出没する希少なアリです。寒さに弱く熱を好む種類なのです。カイン様はそれを理解してこの小さな存在にも慈悲の心を見せているのです。そう、まるで聖人のように。自分が悪人になってまで他者に優しくするなど簡単にはできませんよ」
そう言ってきてリゼは満面の笑みで俺の手を取ってきた。
「あなたは本当に素晴らしい方です。是非、私との婚約をお考えになって下さいませんか?私は決めていたのです。婚約するならこのように心優しい方と、一緒になりたい、と」
は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!!!!!!!!!!!
すると執事がリゼに聞いていた。
「で、ですがお嬢様。カイン殿はフィオネ殿を椅子替わりにしているようにも見えますが」
「フィオネ様は友達が0人という話を聞いています。カイン様はそんな人に自分がいるという事を、遠回しに伝えているだけですよ」
お、おいおい……。
どうなってやがる。
「アリにも優しくしてあげる素晴らしいお人なのです。ほら、見てみなさい。フィオネ様はこうして四つん這いになっているだけで、体が鍛えられるのです。こうしてカイン様は食事をされている時でも他者を鍛えているのです」
「なっ……こ、この光景にそこまでの深い意味があったとは……私もまだまだ、ということなのですな」
「一見。ただのマナーの悪い人のように見えますが、行動一つ一つ、その全てにカイン様の心の優しさが垣間見える素晴らしい風景なのですよ」
そこではっ、と気付いたような顔をするリゼ。
「早く一流の画家を連れてくるのです。そしてこの風景を絵にさせるのです!この風景画はこれから未来永劫語り継がれる事になるでしょう!」
「か、かしこまりました!お嬢様!」
顔には出さないが内心でポカーンとしていた。
もうついていけないよ俺は。
この数日後、風景画は【一人で罪を背負う男】という名で売り出され、人々はその真意に涙を流し高値が付いたそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます