第7話 悪役の俺、配下を作る

今日は珍しく学園に来ていた。

理由はもちろんフィオネに嫌がらせするためだ。


実技演習が始まったので俺は隅っこに引っ込む。

前世でも体育の時間はこうして過ごしていたのを思い出すが


(あー、まぁでもこっちの世界じゃこいつらのやってる事全部できるからなぁ俺)


必死に魔法を使ってる生徒達の姿が目に入るが全て俺にできる事だった。


ファイアボールはもちろん。

ファイアソード、アイスアロー、全て習得済みの魔法。


俺は幼い頃に寝る間も惜しんで練習したから当然のように今もできる。


そうして授業をサボっているとテクテクとフィオネが歩いてきた。


「またサボっているのか?」

「俺がサボってて何かお前に迷惑かけてるか?」

「迷惑ではないが」

「いい加減もう絡むなよ」


今日もクラスメイトの女子に目をやるが、もう見飽きてしまった。


「私はお前に絡んでいない。話しかけているだけだろ?」


それを絡むと言うんだよ、とか思いながら右足でフィオネの足を払ってやった。

ドテッと転けて寝転ぶように体勢を崩したフィオネを見て内心で笑う。

いい気味だな。ふふふ。


「な、何をする?!カイン!」


いいか?!これ以上こういうことされたくないなら俺に関わるんじゃねぇよ!この真面目ちゃんが!


その時


「危ない!」


ヒュン!

注意する声と共に白黒のボールが飛んできていた。


それは見覚えのあるボール。

サッカーボールだった。


「ちっ!」


俺の顔にボールが当たる手前で避けると後ろの壁に当たって、ボールがバインバインと跳ねて転がっていく。


危なかった。

俺が訓練していたから避けれただけだが、


「誰だ、蹴ったのは!ぶっ殺すぞ!」


俺は立ち上がって言ってみたが


「や、やめてくれカイン」


立ち上がって俺の顔を真正面から覗き込んでくるフィオネ。


「やかましい!マトにされて黙ってられるかよ!」


俺はフィオネを突き飛ばして続けようと思ったが、直ぐにフィオネがまた口を開いた。


「カイン……お前私にボールが当たりそうになってそんなに怒ってくれているのか?」

(は?)

「私は気にしていない。どうか許してやって欲しい。彼らもわざと蹴ったのでは無いのだから」


もう流れるようにこういう展開になるの何でなの?とか思いつつこれ以上言っても無駄なので俺は黙って見学する場所を変えることにした。



そうして庭園に植えられた木の下で座っていると、少し離れた所に


「ぴよぴよ」


と、鳥が泣いているのが見つかった。


「お前怪我しているのか?」

「ぴよぴよ」


鳥の言葉は分からんがどうやら羽根を怪我しているらしい。

後はもう俺のような絶対的捕食者の餌食になるだけだろう。


「死にゆくだけの哀れなお前の命。俺が救ってやろう」

「ぴよぴよ」

「感謝しろよ。俺の国には助けてやった鶴が恩返しに来るという昔話がある。お前も恩返しにこい。そうだろう?お前も俺に恩返しができて嬉しいだろ?お礼に金貨1000枚持ってこい」

「ぴよぴよ」


相変わらず何を言ってるのか分からんが俺は地面に魔法陣を書いていく。


魔法を使うのに魔法陣なんかいらないが、魔法陣を使えばより強力な魔法を使うことができる。


「ちなみに俺は救うとは言ったが回復するとは言ってないからな?お前を悪の組織に相応しいような見た目に進化させてやる」

「ぴよぴよ」


魔法陣の真ん中に鳥をセットする。


「あははは、お前を我が手下のブラックバードにしてやる。感謝したまえ」

「ぴよぴよ」


魔法を使うと黒い光が放たれた。

煙のようなモヤモヤが出てきて、やがて晴れたそこには俺と同じくらいの身長の黒い鳥がいた。


「フシュー」


口から出てくる鳴き声もぴよぴよなどと言う生易しいものではなく、カッコよくなっていた。


正に悪の鳥!


「ほう。俺好みになったな。気に入ったぞ」

「シュルルルルル」

「俺を乗せろ」


そう言って鳥に乗ったその時だった。


「探したぞカイン」


またフィオネが俺を探していたらしい。


「何の用だ。お前は本当に俺しか喋るやつが居ないのか?友達がいないのだな?かわいそうに」

「そんなんではないが、その、お前が鳥を助けているところを見てしまったからな」


そう言って近付いてきて黒い鳥に触れようとするフィオネ。


「やめておけ。こいつは我が配下の四天王、ダークマスターのブラックバードだ」

「?????」

「つまり強いということだ。お前のような雑魚の事くらいパクリと食えると言うわけさ」

「なるほど。分からん」


そう言いながら俺の後ろに乗ってくるフィオネ。


「話を聞いていたか?お前のような雑魚がこいつに触れると、こいつの体から吹き出す怨念の炎で火傷するぞ」

「してないじゃないか。熱くもないし」

「……」


はぁ。

俺は鳥から降りてフィオネも降ろした。


「ブラックバード。俺の家は分かる?術式に俺の情報は組み込んだが」

「シュルルルルル」


口から黒いモヤモヤを吐き出しながら答える鳥。


かっこいいいいいい!!!!!


「俺の家に帰って警備をしていろ」


俺の家にはサナちゃんがいるから


「あの子に傷1つ付けぬように頑張ることだ」

「シュルルルルル」


そう言ってブラックバードはバサバサと羽ばたいて飛んで行った。

番犬ならぬ番鳥だ。


原作カインはこんなことできなかったし、実力はもう既に俺の方が何倍も上だな。


「それにしてもカインにこんなに優しい一面があるとは思わなかったな」

「はぁ?」

「そう照れずともいい。あの子を助けてやったのだろう?私はお前の優しさに感動した。学園側にこの事を伝えておこう。死にかけの鳥を保護したと」


何をどう見たらあれを保護したように見えるんだこいつは。

どう見てもその辺にいた鳥を支配下にしたクソ野郎だと思うのだが。


「これでお前は動物愛護の精神に満ちた人物として認知されて大役を任されるはずだ。私も鼻が高い。友人のお前がこうして何かに優しくしているのを見てると自然と心が満たされる」


そうはならんだろ?

うん。そうはならないと思うんだけど。


そう思っていると授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。


「さて、次は何だったか」

「次はこの世界の神秘を扱う座学だったな」

「帰る」


そう言って俺は歩いていく。

1番つまらない授業だ。


「帰るのはなしだろ?」


そう聞いてくるフィオネに答える。


「俺の家が金を持ってるのは知ってるよな?いくら休んだって、授業出なくても学園長に金を握らせれば問題ない」

「お、おい。ワイロという事なのか?そ、それはダメじゃないか?」

「ふはははは、俺には許される事なんだよ」

「そ、そんなのはだめだ!悪役みたいじゃないか!そんなの!」


俺を止めようとしてくるフィオネを置いて今日はこの後の授業を全てサボる。

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