第6話 悪役の俺、貰った贈り物を即捨てる

翌日。


「えー、転校生を紹介します」


俺は珍しく朝早くから授業を受けに来ていた。

特に理由は無いが、何となく気が乗ったから来ただけなのだが、転校生が来たらしい。


(おっぱいの大きい子だといいなぁ)


とか思いながら見ていると、ガラッと扉が開いて女の子が入ってきたが……あれ、あいつ……。


先生が軽く紹介してから、少女が名乗った、


「ティナ・レイフォンです。よろしくお願いします」


そう言って頭を下げるティナ。

直ぐにそれを見た男子生徒から


「うわーすげえ可愛い」

「なっ!めっちゃ可愛い!彼氏とかいんのかなぁ?」


なんて声が上がるが、俺は今すぐ辞めておけと言いたい。

こいつはとんでもなく男に強い女だ。俺は既にこいつに負けているからこそ分かる。


それからティナは直ぐに歩き出して俺の席の隣に座った。

自由席だから何の問題もないが。


「よろしくお願いしますカイン様。父上に許可をもらえたので来ちゃいました」

(なんでいんの?!?!君は!)


ティナの手前授業もサボりずらくてずっと授業を受けていたのだが、ティナが1限から4限までずっと俺の隣に座っていたので、男子達からの殺意の視線が凄かった。


(何でこんな事になっているんだ。俺は悪役なのだからティナなど捨てるつもりだったのにぃぃぃぃ)


しかし今の俺にティナを捨てる勇気などなかった。

そんな事してしまえば家まで付いてきて俺の金の玉を握り潰される気がしてならない。

想像すると恐怖に背筋が凍る。


(ひぃぃぃぃぃぃ……)


めっちゃ最悪なことを言っている気がするが俺は悪役のキャラだから仕方ない。

好き勝手に生きるのだ。

そういう人格なんだもん。


とか思いつつ昼休みになったので屋上に向かうが付いてくるティナとフィオネ。


せめてどっちか1人にしてくれないか?とか思うが。どっちも付いてくるせいで男子達からの殺意の視線が更に強くなっていた。


屋上に上がってベンチに座る。


「カイン」

「何だよ」


俺はフィオネに声をかけられた。


「今日はチョコを作ったので持ってきたぞ」


と言って俺に箱を手渡してくるフィオネ。

受け取って、ベンチの横にあったゴミ箱に流れるように捨てた。


「え?」


絶句するフィオネ。


(そうだよ!その顔だよ!俺はその顔が見たかったんだよ!)


はははは、やっと悪者っぽい事が出来たぞ。


さぁ、俺に失望して俺に関わるな、お前は!

分かったな?!


「な、何故捨てたのだカイン!答えろ!食材にも、作った私にも失礼だと思わんのか?!」


フィオネの怒ってる顔を見るのサイコーだよぉ。

ひー、笑い死ぬ。


泣いて欲しいなぁとか思いながら見ていると、隣にいたティナがゴミ箱に手を伸ばしてチョコを拾い上げた。


「カイン様。婚約者である私がいるから他の女性からの贈り物を遠慮したのでしょうか?」

「え?そ、そうなのか?カイン、すまなかった」


と呆気に取られたような顔をするフィオネ。

いや、全くもって関係ないぞ、と思ったが。


ティナが箱を開けて包み紙を取っていく。

そんなティナの手にはやがて、とんでもない臭いを放つチョコが握られていた。


(これは……食い物なのか?)


俺はゴミ箱をちらっと見た。

ゴミは入っていないしめちゃくちゃ綺麗なゴミ箱だ。


だから元々このチョコらしきものはこういう匂いなんだろう。


(何だこの匂い。なんかとんでもなく辛いものをひたすら混ぜたような匂いを出している)

「な、なんですかこれは……」


その匂いにティナも驚いていた。


「た、食べ物なのですか?これは」


とティナですら口にする刺激臭。


「え?うん。チョコレート激辛味だよ。辛いものを砕いて溶かしてチョコ風の形にした」

(チョコ要素形だけ?!!!!!)


チョコは甘いとか苦いとかだろうが。

なんだよ激辛って。


「ひ、一口だけでいい?食べてみてくれないか?味見してバッチリだったんだ」

「食べるかよ!こんなにまずそうなもの、ばーか!!はーはっはっは!この俺様に食べさせたければ作り直してこいよ。こんなもの食えるか!」


俺が返事するとフィオネは予想外の行動に出た。


ティナからチョコを毟るように奪い取ると、それを手で砕いて俺の口の中に詰め込む。


(……なんだこれ……意識が飛んでくぞ……食べ物じゃねぇ!兵器だ!これは!)


俺の視界は真っ白になった。





俺の名を呼ぶ声で目を開けると、目の前にはフィオネの顔があった。


口になにか入れただけで意識が飛んだのは初めてだ。


「す、すまない。カイン。まさか意識が飛ぶほど辛いとは思わなかった」

「あー、辛かったな」


今もまたお腹がゴロゴロと鳴っている。

あー、これヤバいやつだ、とか思う。


「で、あのチョコと言い張った兵器はどうしたのだ」

「残りは私が食べたぞ?」

「食べたのか?あれを?」

「私は激辛が好きだからな」


なるほど。

それであんなにバカみたいに辛いわけなんだな。


それでもあれは人を殺せるレベルの辛さだと思うが。

やはりこいつは危険だ。


こいつと関わっていれば命がいくらあっても足りない。

俺は特別な訓練を受けているから問題なかったが。


「私は気付いたよ。ティナにも食べ物では無いと言われて。お前は受け取った段階で食べ物じゃないのを理解していて捨てたんだろ?」


違います。

ぜーんぜん違います。


だと言うのに


「やはりカインには特別な目があるようだな。流石だ。箱を開けなくても中身がどの程度危険なのかが判断できるなんてすごい」


俺はただこいつの泣き叫ぶ顔が見たくて捨てただけなんだが、とは言う気にもなれないくらいげっそりしていた。

あの兵器の破壊力がやばい。


「それで、今何時だ?」

「放課後だ。安心してくれ。お前を1人ここに残してティナと授業は受けてきたから」


何を安心すればいいのかは分からないがティナはちゃんと授業に出ていたんだな。


「はぁ……」


溜息を吐いて立ち上がる。


「ティナは?」

「今ドリンクを買いに行ってくれている」


彼女がそう言った時ティナが屋上に上がってきた。


「だ、大丈夫ですか?」


駆け寄ってきて水を渡してくれた。


「あぁ、何とかな。物食べて死にかけるなんて初めてだ」

「で、でも凄いですねほんとに。箱を開ける前に危険物が中に入ってるって分かるなんて」


とフィオネと似たようなことを言ってきた。


「ティナもそう思うか?私はカインが隠しているだけで鑑定スキルを持っているのだと思うのだが」

「私も鑑定スキルは持っているって思いますよ!カイン様はすごいので!」


勝手に鑑定スキル持ちにされたがそんなもの俺は持っていないが否定する力もない。


腹がやばい……。

そう思いながら俺は今日はもう帰ることにした。


あーこれ……。

数日間は激痛に襲われるパターンだなとか思いながら帰宅した。

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