会えたら嬉しい。でも、会いたくない。

CHOPI

会えたら嬉しい。でも、会いたくない。

「つかれたー……」

 友人と遊んだ帰り道。駅から一人、自宅へ帰る途中に漏れ出た言葉は、久しぶりの再会をした後に出すにはどうなんだろう、という疑問が浮かぶ。だけど、漏れ出ているそれが本音なんだから致し方ない。


『久しぶりに、メシ行かね?』

 そうメッセージアプリで誘われて、前回の会話の履歴を確認すると、最後の日付は3年前を示していた。あれからそんなに、と最後に会ったあの日を思い返しつつ、了承の返事を返した。とはいえ、友人関係なんて『会えばあの頃の自分たちに戻れる』とはよく言ったものだ。自分たちもその言葉に違わず、待ち合わせた駅前で再開すると、あの頃の空気感にすぐに戻った。……だから少し、油断していた。


「そういえばアイツ、結婚したって」


 ……あぁ、そうか。そりゃそうだ。あれから3年。自分らももう、家族を持っておかしくない年の頃だ。自分の中で時がどこかで止まってしまっていたのかもしれない。こいつらに会えば、あの頃に戻れる、なんて嘘だ。確実に時は流れている、そう実感した。……あぁ、またこの感覚。イヤーな感覚だ。自分だけ、あの頃のまま、踏み出せずにいる、そういう感覚。


 時の流れに逆らおう、なんて思ったことは一度も無いし、流れに身を任せている、と自負している。……それでも時々、流れに乗りそびれている、と感じてしまう時がある。自分だけが“あの頃”に留まっている感覚。アイツらは自分を置いて、どんどん先へと離れていって。悔しくて、懸命に足掻いて、だけど全然進めないことにまた焦って。そうしてこうやって、たまにウワサ程度に聞くそれぞれの近状に、一段と開いてしまった差を勝手に感じて。いつから。どこから。自分たちの距離はこんなに遠くなっていったんだろう、なんて。


「またなー!」

 みんなの顔を見て楽しかったのも、嬉しかったのも本当だ。だけど、アイツらと交わした最後の『またな』が、またしばらく、だいぶ先まで来ないことを願ってしまうのもまた、本当の事だ。会いたくない訳じゃない、会えたら純粋に嬉しいんだから。だけど会ったら、考えなくていいことまで考えてしまう。だから会いたくない。それも本当だから。


 相反する二つの心を抱えながら生きるのは、本当にしんどい。考えるのを止めにしようと、ため息をつく。今日は悪い方に引っ張られているだけ。さっさとお風呂に入って寝てしまおう。明日になったら、きっとそこまで引っ張られることじゃないから。そう言い聞かせて家路を辿る歩調を速めた。

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