第8話(最終話)「そして二人は」
「カトリーナ様、魔王様は初夜にカトリーナ様に言ってしまった暴言をかなり反省してます。
魔王様は人間黒界の常識に疎かっただけでして……。
だから婚初夜にカトリーナ様に『お前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!』って言ったのは何と言うか……言葉のあやって言いますか」
やはり謝るなら、人間界から同意なく連れ去ったところから詫びるべきだろうか?
「ふふふ」
カトリーナ様は口元を手で隠しくすりと笑った。
この状況でこの笑みは何を意味するのか?
「ラード様とおっしゃいましたね?
私は初めから怒っていませんよ」
「えっ?」
「私、あの方と再会したときすぐに気づきました。
あの黒曜石のようにきらめく汚れなき瞳は、子供の頃に飼っていた犬のレオと同じだって」
「ええっ……!?」
ひと目見ただけで、「魔王様=子供の頃に飼っていた子犬」だって気づいてたんですか? 洞察力とハンパねえ!
「レオとは数年間共に過ごしましたが、あの子はずっと子犬のままでした。
初めは小型犬なのかと思いましたが、その割にはレオの足は大型犬の子供のように太かったので、なぜ成長しないのか不思議に思ってました。
だからレオが普通の犬ではないことには、当時から気づいていました」
ずっと成長しない子犬……それは不気味だよな。
気づいていて、そんな得体の知れない犬を何年も飼ってくれたのか?
前公爵夫人もカトリーナ様も、女神のように優しい心の持ち主なんだな。
魔王様がメロメロになるわけだ。
「魔王様の瞳はあの頃と変わらず汚れなく、表情は人なつっこくて愛くるしく、とても美しいです」
カトリーナ様はほんのり頬を赤く染めた。
その様子はまるで恋する乙女のようだった。
「えっと、魔王様との結婚は……カトリーナ様にとって望まないものだったのでは??」
人間界から連れ去られ、状況を飲み込めないままウェディングドレスを着せられ、魔王様の圧力に負けて結婚の誓いをしたのかと思っていた。
「そんなことありません」
カトリーナ様が首を横に振る。
「貴族だったときは家の為に政略的な結婚も仕方ないと思ってました。
ですが私は身分を剥奪され国外追放された身。
貴族というしがらみから開放され自由の身になれたのです。
望まない相手にどんなに脅されても結婚したりしませんわ」
「えっと、ということは?」
「レオとは望んで結婚したんです」
「へっ?」
「それから、レオは新婚初夜に私に言ったことを随分と悔やんでいるようですが、どうか気にしないように伝えてください。
レオが人間界の風習を誤解したのは、子供の頃に私が彼に読み聞かせた小説のせいですから」
「小説の読み聞かせですか?」
「はい。
子供の頃の私は政略結婚したヒロインが初夜に、
『お前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!』
と言われ、最後になんやかんやあって夫と愛し合うお話が大好きだったんです。
レオには途中のなんやかんやの部分をすっ飛ばして、冒頭部分とエンディングで二人が結ばれるところしか読み聞かせていなかったので、レオの知識が偏ってしまったんですね」
魔王様が人間界の結婚について、フワフワした知識しかない理由がよく分かった。
「だから気にしていないでと、レオに伝えてください。
私はレオと結婚できてとても幸せですから」
カトリーナ様はそう言ってふわりとほほ笑んだ。
魔王様の初恋物語はハッピーエンドになりそうだ。
―終―
もしよければ★から評価してもらえると嬉しいです!
【完結】「せっかく助け出した初恋の人に、新婚初夜に『お前を愛してないし、これからも愛することはない!』って真顔で言うとか、魔王様はアホっすか!?」 まほりろ @tukumosawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます