第35話 「ごめん。すること確定なの?」

「コウ、おべんと食べよ。これ、コウの分だから」

「あ、あぁ。ありがと。どこで食べようか?」

「それなら考えてあるから。私についてきて」


 昼休みが始まるや否や、白亜は俺にお弁当が入った包みを渡してきて、空いた手で俺のことを引っ張りどこかへ連れて行こうとする。一体、どこへ行くというのやら‥‥。


「さぁ、ここだよ」

「え、学食? お弁当あるのに?」


 白亜に連れてこられた場所は、生徒全員が利用することのできる学食だ。本来は、食券機で注文したものを受け取って食べるという目的でつかわれる場所なのだが、なぜわざわざここでお弁当を食べようというのだろうか。


「すぐにわかる。とにかく今は席を探すべき」

「お、おう」


 白亜に引っ張られながら、少し学食内を見回してみる。どうやら、持参したお弁当を学食で食べるというのは、珍しいことではないようで、俺たち以外にも、同じことをしている生徒をチラホラと見かける。


「席がすぐ見つかってよかった。早く食べよ」

「お、おう‥‥」


 ちょうど二人で座れる席を見つけたのだが、学食が人気なこともあって、学食内の真ん中辺りの席しか空いていなかった。学食の席は、端っこ側が人気が高いようで、真ん中の席は空きがちだ。なんでなのか理由はよくわからないけど。


「コウのお弁当の中身は、オーソドックスなものばっかりだけど、味とか調理法にはこだわってる。私のママ直伝」


 そういえば、白亜のお母さんってかなりの料理上手だったな。中学生の頃に料理を教えてもらうのは、白亜のお母さん――美雪さん――が一番多かった気がする。だとすると、白亜が言うように、かなり味にこだわってそうだし、美味しいのは間違いないな。


「それは楽しみだな。開けさせてもらうね」


 そう言って俺は白亜から受け取った包みを開き、中に入っていた二段重ねのお弁当箱の蓋を開ける。


「おぉ‥‥これは‥‥」


 蓋を開けた瞬間、思わず感嘆の息を漏らしてしまうほど、綺麗で色とりどりなおかずが目に入る。

 唐揚げ、タコさんウインナー、卵焼き、ミニハンバーグ、ポテトサラダに、プチトマトと、白亜が言ったようにオーソドックスなものがほとんどだが、そのどれもが、俺には輝いて見える。これが白亜のこだわりの強さを表しているのだろう。

 お弁当箱の下段には、たまごのふりかけが振られていて、シンプルながらも、王道といった感じだ。


「結構上手く出来たと思ってる」

「うん。すごく美味しそうだよ。さっそく食べても良いかな?」

「ん。感想聞きたい」


 俺は、最初に卵焼きへと箸を伸ばす。俺がお弁当のおかずで一番好きなものというのもあるし、水無月家の卵焼きの味付けが純粋に気になったからだ。


「ん! 甘い! 俺の好みの味付けドンピシャだ!」

「もちろん。その辺はちゃんとリサーチ済み」


 ドヤ顔で胸を張る白亜。そのせいで、小柄な体に似つかわしくない胸が強調されて、目のやり場に困るし、若干頬が熱を帯びるのを感じる。

 俺は、それを誤魔化すようにして、再びお弁当へと目を下ろす。


「コウ、ストップ」

「え?」


 さらなるおかずへと箸を伸ばそうとしたタイミングで、何故か白亜に待ったをかけられる。顔を上げて、白亜の顔を見ると、いつものように無表情で、何を考えているかわからない白亜の顔があるが、その琥珀色の瞳には、なにかしらの圧を感じさせるものがある。


「まだあーんしてない」

「ごめん。すること確定なの?」


 真顔(だと思う)でそう言われ、俺も思わず真顔で聞き返す。確定事項のように言われても、俺は困るし、むしろ避けたいところなのだが。


「当たり前。私もするし、コウもする」


 あーんと言いながら、俺の前に卵焼きを差し出してくる白亜。いや、ほんとにしようとしてるし!


「白亜、落ち着いて。ここ、学食だよ? 周りの視線とんでもないことになってるから‥‥ヒッ!」


 白亜を落ち着かせようと、周りに視線を動かしたのが間違いだった。今、俺たちは、学食にいる生徒全員の視線を集めているといっても過言ではないくらい見られていた。

 男子生徒は「アイツ‥‥殺す」とか物騒なこと言ってるし、女子生徒は頬を赤らめて、なにやらキャーキャー騒いでいるしで、もう混沌と化していた。


「むしろ好都合。ここでやれば私とコウの間に既成事実が生まれる。朱莉とか蒼ともやってるんだから、私ともやるべき」


 んっと言いながら、より箸を近づけてくる白亜。なんでこの場面でもこんなに無表情でいられるのだろうかこの幼馴染は。‥‥いや、ちょっと頬が赤くなってる気がする。やっぱり、多少の恥ずかしさは感じているらしい。


(くそ‥‥やっぱり可愛いな俺の幼馴染‥‥!)


 普段とのギャップがありすぎて、余計可愛く見える。つくづく美少女だということを実感させられる。


「ほら早く食べる。腕疲れてきた」

「わ、わかったよ」


 俺は白亜に根負けし、口元へと差し出された卵焼きにパクつく。その瞬間、学食内では、歓喜と絶望の叫びが響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ただの幼馴染だと思っていた美少女たちは、全員幼馴染では満足できない! 海野 流 @kai0319

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ