ご褒美と未来

「もうこんな時間ね」

「そうですね……」


 気づけばもう夜。

 辺りは真っ暗で、街灯や蛍光掲示板が光り出す。

 結構色んなことをしたのに、あっという間だった。


「優馬くんは……まだ未成年よね」

「え? はい……」

「……」


 妙な質問をした後、黙り込む志乃さん。

 今更年の差を気にしている?

 もしかしたら今回のデートも、若い俺に色々気を使ってくれたんじゃ……いや、ホラーとゲーセンで情けない姿見せてたからないない。


「その、大人な関係になるには早いから……」

「っ!!」

「ごめんなさいね……」


 そういう事か。

 確かに興味はあるけど、未成年と成人が交わるのは社会的にまずい。

 興味はあるけど、志乃さんは抑えている……真面目だ。


 と、志乃さんは俺の方に顔を向け、背伸びをしながら近づき


「だから……今は」

「っ!?」


 俺の唇に志乃さんの唇が重なった。


「……甘い」

「そうね……」


 柔らかく、果実のような味。

 同時に香った甘い香りは志乃さんのものだろうか。

 軽く触れ合った後、唇が離れる。


「そういえば……」

「はい?」

「優馬くん、この前の試験で学年一位だったわよね?」

「えぇ、そうですけど」


 急にテストの話?

 確かにあの試験の結果は俺が学年トップだった。

 色々ありすぎて、喜ぶ暇もなかったけどね!

 でもなんで急にそんな話をしたんだろ……


「ちょっとだけいいご褒美……覚えてる?」

「え? はい」


 教材室でのやり取りで、そんな約束をした。

 だけど、あれは俺がやる気を出す為の口実。

 どういうご褒美をくれるのか、なんて俺は考えてすらいなかった。


「今、あげる……」

「……っ」


 さっきと同じキス。

 だが、


「んっ……」

「!?」


 口の中に志乃さんの舌が入り込んだ。


「はぅ……」


 舌と舌が絡み合う。

 さっきよりも濃厚な絡みに俺の脳内が溶けていく。


「ぷはっ」


 やっと唇が離れた時、お互い腰を抜かしてその場に座り込んだ。

 今の……凄かった。

 先の先の世界を見せられた気分だ。


「どう?」

「最高です……」


 大人の世界だのなんだの言ってたけど、童貞ボーイな俺にはこれで十分過ぎた。

 だって大好きな人のディープキスだよ?

 嬉しくない訳がない。これ以上とか今の俺死んじゃう。

 

「本当に大人になったら、その時は……」

「はい……」

 

 大人になるのが楽しみ。

 そう思えたデートだった。


 ……それから何年か過ぎた。



「優馬くんおはよう」

「あ、おはようございます」


 起床後、志乃さんの顔が目の前に来る。

 一緒に住むようになってから少し経つけど、やっぱり大好きな人がいるのは嬉しいなぁ。


「まさか、優馬くんが先生になるなんてね」

「志乃さんの影響ですよ。志乃さんが俺の人生を変えてくれたように、俺も誰かの人生を変えられるような先生になりたいなと」

「ふふ、ありがとう」


 俺は大学で教職を取り、そのまま先生になった。

 志乃さんの影響で、先生という職に興味を持ったのがキッカケだ。

 慣れない事も多いけど、頑張りたい。

 

 ちなみに俺が通っていた高校は廃校になった。

 一度付いた悪評と有力な支援者を無くしたことは大きいようだ。

 そういえば陽太がどうなったかも知らないなぁ。

 生きてはいるんじゃない? 多分。

 

 志乃さんは別の高校で今でも数学教師をやっている。

 クールだけどどこか優しい雰囲気で、生徒からそれなりに好かれているとか。


「俺も志乃さんと同じ高校で教えたかった……」

「いつか、そうなれるわよ」

「はい……」


 なんで高校が別なんだ!!

 机に頭を付け、落ち込む。

 でもいつかそうなれるよう頑張ろう……


「じゃ、行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます」


 慣れないスーツを着て、俺は家を後にした。

 

 あの時、自殺をしなくてよかったと思う。

 色々あったけど、こうして志乃さんと結ばれた訳だし。

 

 また一つ、一つと新しい人生を歩む。

 この先、志乃さんとどういう人生を歩めるのか、俺は楽しみだ。

 

 これからもよろしくお願いします、志乃さん。


 END

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そうだ、自殺前に告白しよう~クソ陽キャ共のさらし者として追い詰められた俺、最後に地味系美人教師へ告白したら甘々で幸せな毎日が待っていた〜 甘なつみ @kasachi-raien

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