ゲームセンターにやってきた

「久しぶりに来たなぁ」


 眩しすぎる光と騒音で包まれる。

 ゲーセンなんて三ヶ月ぶり。

 休日によく音ゲーの筐体で遊んでいたっけ。

 

「何をするの? 私、なにも分からなくて……」

「あぁ、大丈夫ですよ。えーと……」


 何をしようか。

 いつもの音ゲーは志乃さんが楽しめるか怪しいし、病み上がりの身体を動かすのはしんどい。

 ならゲーム初心者で興味が惹かれ、楽しめそうな……


「クレーンゲームとかどうです?」

「ん……わかったわ」


 クレーンの中には様々なジャンルのフィギュアやぬいぐるみがある。志乃さんの好みは分からないけど、一つくらい気になるのがあるといいな。


「優馬くんはクレーンゲーム、よくやるの?」

「たまに、ですかね。一度やり出すとのめり込んじゃうので」

「なるほど? 優馬くんって意外とお金使いが荒いのかしら?」

「んーどうでしょう? 一応、使う金額は決めていますが」

「ちゃんと管理できているのね、えらい」


 俺の頭に手を伸ばし、撫でられる。

 なんというか子供を相手にする親のようだ。

 別に嬉しいからいいけど。


「何か気になるものとかありました?」

「んー……」


 美少女系、有名アニメ系、キャラもの

 色んなフィギュアやぬいぐるみの入った筐体を見てはスルーしていく。

 

「あ……」

「?」


 一つの筐体の前で志乃さんの足が一瞬止まる。

 

「やってみますか?」

「……うん」


 気になったのは、そこそこ大きいうさぎのぬいぐるみ。

 かわいいもの、好きなんだ。

 志乃さんは投入口に100円を入れると、慣れない手つきで操作を始めた。


「えーと、確か横を見て……うーん」


 ぐいーっと身体を筐体の横に伸ばし、一生懸命取ろうとしている。

 かわいい、とてもかわいい。

 本人は真面目にやっているけど、いつも真面目だからこそ、慣れない遊びをする姿がとても微笑ましい。


「よし、アームがついて……あっ」


 クレーンのアームは確かにぬいぐるみを捉えた。

 だが持ち上げようとした瞬間、アームからぬいぐるみが離れ、元の位置へと戻ってしまう。


「……もう一回」


 あれ? 意外とムキになりやすいタイプ?

 これは長い戦いになりそうだなぁ……



「またダメ……」


「あ、さっきより……あれっ?」


「うぅぅぅぅ……」


 もう十回目くらいだろうか。

 何度も挑戦するが結果は同じ。


「きゅう……」


 最後の方は筐体のボタンがある位置でうつ伏せになっていた。


 ……そろそろ俺の出番か。


「俺、やってもいいですか?」

「? 取れるの?」

「何回かやれば……多分」



 久しぶりにやるから自信と不安が半々。

 俺は500円程いれ、クレーンを操作し始めた。

 多くお金を入れたのは勿論、プレイ回数を一回多くする為。


「え、そこなの?」


 クレーンの爪をぬいぐるみの中心……ではなく端に置く。

 もちろん、これでは持ち上がりこそしないが


「あ、動いた……」


 中心を掴むより、取り出し口にぬいぐるみを近づけやすい。

 これを四回程繰り返すと、ぬいぐるみは取り出し口とクレーンの爪で挟みこまれ、勝手に持ち上がって取り出し口の上部に引っかかる。

 後は残りの二回で取り出し口に引き寄せるよう、操作をすれば……よし

 

「あーよかったぁ」

「え、すごい……」


 取り出し口からぬいぐるみが落ちていく。

 久しぶりにやるからもう少しかかるかと思っていたけど、上手くいってよかった。

 俺はぬいぐるみを取り出し、志乃さんに手渡す。


「いいの?」

「ちょっとしたプレゼントです。欲しかったんですよね?」

「うん……ありがとう」


 受け取ったぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。

 見た目こそ大人だが、幼さを感じる志乃さんの仕草に思わずドキッとしてしまう。


「志乃さん、ぬいぐるみ似合いますね……かわいい」

「……」

「あっ、ぬいぐるみで顔隠さないでくださいよ」

「やだ、恥ずかしい」


 隠しきれていない耳元が真っ赤に染まっていた所から、照れているのだとわかる。

 でも志乃さん、ぬいぐるみで隠そうとする所も凄くかわいいですよ。

 なんて指摘した結果、今度はぬいぐるみでボフッと押し付け攻撃をされてしまった。


 しばらくし、落ち着いた志乃さんと共にゲームセンターの中を歩いた。

 勿論ぬいぐるみは抱きしめたまま。

 いつもとはまた違う可愛らしい姿にドキドキしつつも、俺たちはゲームセンターを楽しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る