第51話 戸惑い
「それで……政府との口裏合わせがどうとかって件はなんですか?」
蝶の値段交渉が終わり、話を次に移す。
すると黒岩薙獲は懐から何やら紙を取り出し、それを境界線の上でピラピラとさせる。
『此処に今夜の記者会見で久井首相が話す内容が載ってる。君にはそれに目を通し、内容に不備が無い事を了承して欲しいんだと』
了承して欲しい、ねぇ。
仮に俺が『いや、この内容は駄目です』とか言っても通るのかな。
に、してもまだあのオジサン……久井首相が日本国の代表なんだ。最悪、奥多摩の件で辞任とかしてるかもと思ってたよ。
まぁ、別に無駄に反抗するつもりは此方も無い。
政府に異を唱える時はもっと重要な場面にしたいし、今は素直に従って信頼度を高めていくのが吉だろう。
と言うわけで、この話は了承しておくか。
「はい、分かりました。どれどれ……ん?」
ヒラヒラと揺れてた紙を此方が掴むも、黒岩薙獲は紙から指を離さない。
「何してるんすか? 離してくれないと……『君を感じてる』……はい?」
黒岩薙獲は紙を掴んでる此方の手を凝視しつつ静かに言う。
『だってダンジョンの境界線の所為で君とは触れ合えないじゃん? だからこうやってこの紙を通して君の動きを感じてるの』
ちょっと待てよ、レベルが高すぎるぞコイツ。
一体どういう思考回路をしてたら、こうした考えを思い付けるんだ……。
「何を馬鹿な事を言ってんすか……。ほら、離して下さいよ」
言いながら少し力を込めるが、それでも彼女は離さない。それ所か逆に向こうが引っ張って紙を渡さないようにすらしてる。破けるぞ。
『ん……ヒトリ君ってば強引だね』
と、少し艶やかな声すら漏らす変人。
俺が強引ならお前はイカれてるだろうが。
俺はもう堪らず叫んだ。
「いや、こっちの台詞ですけど!? もういいです、そのまま握ってて下さい! このまま読むんで」
下手に紙の取り合いなんかしたら駄目だ。その動きでこの変態が喜んでしまう。
故にそのままジッと紙を眺めようとするが、黒岩薙獲は甘えた声で叫ぶ。
『あ~ん! つまんなぁい! もっと互いを感じ合おうよぉ~!!』
「感じてたのはアンタだけですからね? 俺まで変態にしないで下さい」
頼りになる時は本当に頼りになるんだが、駄目な時はとことん駄目な人だな。
俺はそう呆れつつ、あらためて紙に目を落とす。
其処には今夜の記者会見で久井首相が話す内容が書かれており……ん?
「あの……所々内容が間違ってますよ、これ? 俺がダンジョンに向かう時期だとか、俺からダンジョンに向かいたいと言い出したとか、その前に訓練したとか、諸々変です」
伝言ゲームでもしたのか、って位に噛み合ってない内容だ。
しかし、黒岩薙獲は事も無げに言う。
『そりゃそうだよ。だって君の行いをそのまま発表する方が政府的にはマズイんだからさ。だから口裏合わせが必要なんだよ。それに君もそのまま発表すればヤバイ事とかあるだろ? 探索者カードを持たないままダンジョンへ潜ったりしてた時期だってあるんだろ?』
確かに俺は山口さんを通して政府から『ダンジョンに興味あるやろ? 潜ってみない?』的な囁きを受けてたが、そんなの世間に発表はできないだろうな。
それに彼女の言う通り、最初の俺は探索者資格のカードも所持してなかった。資格も無しにダンジョンヘ潜れば明確な違法だ。
まぁ、ダンジョンの入り口を占領してる時点で違法なのかもしれないが。
「それは分かりますけど……。なんつーか、もう……世間で叩かれそうで嫌だなぁ」
『安心しなよ、君はもうとっくに叩かれまくってるから。そして今夜の発表でそうした奴等を見返すのさ!!』
「あ、やっぱ叩かれてたんですね……」
この内容を見た世間の反応が容易に想像できる。
と言うか、俺が無関係だったらそんな反応してたかも、って言う想像だけど。
ともかく、俺は資料に目を通してその内容を承諾する事にした。
俺だってバラされたらヤバイ事をしてるし、変に躊躇して政府との関係を拗らせるのはマズイ。
むしろ事前に『こうなるから、よろしく』と知らせてくれるだけ優しい方なんだろう。
俺が久井首相の話す内容の資料から手を離し、了承の返事を飛ばす。
「分かりました……。この内容でいいですよ。はい、返します」
『あっ』
俺が紙から手を離すと黒岩薙獲は小さく声を漏らし、そのまま俺が掴んでた部分にそっと指を乗せる。
『少しだけヒトリ君の体温を感じる……へへ』
この人マジで何なの?
男と女の立場を入れ替えたら『精神的苦痛を受けました!!』と訴えれば、余裕で賠償請求できるぐらいキモイ行動だぞ。
流石にそれはスルーできず、俺は遂に言葉でツッコム。
「あの、自分が物凄いキモイ事をしてる自覚あります? マジでヤバイっすよ。自衛隊の人達もドン引きしてますから」
『あん? 見世物んじゃねぇぞォ!』
俺の指摘を受けると黒岩薙獲は素早く背後を見て恫喝の声を出す。
すると自衛隊員達は瞬時に明後日の方向へ視線を向け、知らん顔だ。
そして視線を此方に戻し、彼女は大きく溜め息を零す。
『本当に参るよねぇ。此処じゃ満足に逢引もできないよ』
「例え何処だろうとチエさんと逢引はしませんけど」
この人の中では俺と一体どういう関係になってるつもりなの? 怖くて聞けないよ。
俺としては師匠と弟子みたいなイメージなんだけど、この人は違うの?
そして、俺の辛辣な言葉を聞いても黒岩薙獲は怯まない。
『恥ずかしがんなってぇ、もう!! こっちの気を惹くのが上手いんだからさぁ、このプレイボーイ!! ったく、女をどれ程泣かせてきたんだよ!?』
「最近だと、二回程泣かせましたね」
主にミルキーさんと言う人に酷い事をした所為でだが。
『え……其処からどうやって?』
黒岩薙獲は俺の返しに驚愕し、困惑していた。
それもそうだろう、こんなダンジョンの入り口から女性を泣かせるとか、幽体離脱でもできないと不可能である。
「さぁ、想像にお任せしますよ」
『えぇ……?! 直接触れ合わずに一体どういうプレイをしたの?』
「アンタは一体どんな想像をしてんだ?」
頭ピンクなのか、この人。
駄目だ、この人に付き合ってると話が進まない。
其処で俺はふとさっき彼女が口にした『俺がネットで叩かれてる』と言う件が気になったので、それを聞いてみる事にした。
「そもそも、俺ってどんな風にネットとか世間で叩かれてるんすか?」
『そりゃあもうねぇ。君の苗字を皮肉った多田飯食らいだとか、不法占拠者とか、躊躇が無い狂人だとか、ネットで色々言われてたよ』
「躊躇が無い狂人はチエさんの感想でしょうが」
そう言ってた事を忘れてないぞ、俺は。
すると黒岩薙獲は小さく舌を出して『てへ』っとウィンクした。こいつやべぇな。
予測してたけど、世間の反応はそんなもんだろうなぁ……。
むしろ俺だって逆の立場ならそうしてたかもしれないし、何とも言えない気分だ。
そうやって悶々としていると、黒岩薙獲が予想外の事を口にした。
『でも――そうしたネットの反応を何時までも野放しにしておくのは政府にとって、宜しくない状況になったんだ』
「……え?」
『そりゃそうでしょ? 君は日本政府と直接契約を結んだ相手だ。そして今夜その事を発表する。だから、そんな底辺共に君が舐められてる状況は日本政府のお得意の言葉で例えるなら、遺憾って事さ。私だって面白くないし』
「底辺って」
凄い言い方するな。
でも、この人が珍しく笑ってない。
つまりこの話は冗談とかではないのか?
そう戸惑っている間にも話は進む。
『とにかくネットで騒いでる奴等に政府が開示請求を送る。更に過激な奴等……それこそ君やご家族に対する行き過ぎた書き込み、危害を仄めかす様な書き込みをした奴等には警察に被害届を送って対処する必要があるから、この紙に記入してね』
すると黒岩薙獲は懐から被害届を取り出し、境界線上に差し出してきた。
あ、あまりに用意がよすぎる!!
つまりこの件は事前に行う予定だった事なのだ。
けれども俺としてはあまりの急展開について行けず、動揺が隠せない。
「え、えぇ!? ま、マジでそこまでするんすか?」
『そこまでやるよ? 死ねって言葉は軽いけど、ネットだからと言って人を名指しして、そんな言葉を連呼する様な輩を野放しにしとくのも駄目っしょ? 言論の自由ってのは大切だけど、行き過ぎた言動は駄目って事さ』
「いや、まぁ……話は分かりますけど」
確かにこうしたネットでの誹謗中傷は、俺がダンジョンに閉じ込められる少し前に厳罰化されたみたいな話は聞いたが、こんなの可能なのか?
けれどそんな俺の困惑も無視し、黒岩薙獲は話を続ける。
『とは言え、流石に全部の書き込みに一度で対処するのは無理だ。だから、最初はある程度を狙い打ちにするだけだけど。あ、被害届を書くのは一枚だけでいいよ。後は政府の裏技を使って、君の筆跡を真似て同じ被害届を書くからさ』
「え、最初はって何すか?」
『ん? 後は細々と開示請求を送り続け、ネットで君に対する過激な書き込みをするとヤベーって事実を継続して知らせる形にするんだ。最初に大々的に動いても、馬鹿共は直ぐに忘れるからねぇ。面倒だけど、ペチペチと頭を叩いて危機感を常に抱かせる形にするのさ』
マジかよ、結構本格的に対処してくれるんだな。
別に俺としては困らないし、それでいいんだけど。
「それと政府の裏技がどうとか言ってましたけど、それって違法なんじゃ……?」
そもそも被害届って警察署に行ったり、警察官に対して自分で提出しないと駄目とかじゃないの? それとも代理人に任せて届けさせるとかアリなの? そういう知識が無いから分からんな。
けれども俺の指摘を受け、黒岩薙獲は歯を向いた獰猛な笑みを浮かべた。
『ヒトリく~ん、君は政府の力を舐めてるねぇ? 法ってのはさぁ、お上の解釈次第で好きに利用できたり、無視できるんだよ?』
「……わぉ」
其処でようやく俺は政府と契約を交わした、と言う影響力の大きさを知った。
アレは一見すると俺に首輪着けるソレでもあったのだが、日本政府が俺を保護する契約でもあったのだ。それこそ、俺に対する世間の悪意からもだ。
俺は予想外な展開になったなと戸惑いつつ、境界線上の向こうから差し出された被害届を受け取り、黒岩薙獲のアドバイスを受けながら被害届に必要事項を記入する。
「てか、こんなの書く位なら、アンタの息子さんの件で被害届を出したいんですが……」
『お~う、確かにそれもアリだねぇ。どうする? もう一枚いっとく?』
俺の問いを受け、黒岩薙獲はもう一枚の被害届を差し出してくる。
その呆気ない態度に、俺は思わず溜め息を零して首を振った。
「いや……いいです。変にまた世間が騒いだら、チエさんも長官を辞任したりする必要があるかもしれないでしょ?」
『え、何? 私を心配してくれてるの!?』
「いえ、貴女のアドバイスは奥多摩の攻略に役立つので、貴女が長官を辞めて此処に来なくなると色々と困るんですよ」
実際、蝶との戦いでは黒岩薙獲のアドバイスが無ければ死んでたと思う。いや、それ所か彼女の指南も受けていなければ、あんな立ち回りは不可能だった。
だから、彼女を今此処で失うのはマズイ。
故に俺は黒岩剛の事で下手に騒げないし、騒ぐつもりは今の所ないのだ。そもそもの話……奥多摩に閉じ込められてる俺が騒いでも無駄だと思ってるし。
俺のそうした言葉を聞くと、黒岩薙獲はニンマリと笑う。
『アハハ!! なるほどね!! 冷静な判断の結果ってわけか!! いいよ~、狂ってる割に頭は冴えてるよねぇ、君って』
「俺は狂ってないです」
『そう言える事自体が狂ってるのさぁ。そして今、被害届の事を口にして私を試したよねぇ? あんな対応、狂ってないとできないって』
「さて……どうですかね」
確かに、俺は黒岩薙獲が此方の言葉にどう対応するかを見極め様とした。けれども結果はご覧の通りである。
俺のちょっとした『脅し』なんぞ、ダンジョン混迷期を潜り抜けた英雄には通用しない可愛い抵抗だったみたいだ。
と言うか、実際に俺が黒岩剛への被害届を書いたとしても、政府がそれを素直に警察へと届けて受理させる訳もないだろうし。
とは言え、その脅しが通じた所で俺もどうこうするつもりは無かったし、特に思う所は無いのだが。
そんなちょっとしたやり取りを軽くしながら、俺は被害届の記入を済ませ、それを提出した。
「はい、どうぞ……。ってか、この開示請求と、被害届で具体的に何をするつもりなんです?」
『ん? そりゃこの件をニュースで流し、今後こうした不快な出来事が起こらない様な抑止力にするのさ。で、底辺共からやり過ぎない程度に金を巻き上げ、君の探索資金にする。政府が後ろ盾になるからまず負けないよ。勿論、言及はしないけどね。けど、言葉に出さないだけで政府が君を手厚く扱ってる事実は愚民共もそれで感付くだろうね』
それって俺がネットで叩かれなくなるけど、裏では『政府の飼い犬』だとか言われる形になるだけじゃない?
まぁ、政府の飼い犬ですとアピールしとく方が面倒事も少なくなりそうだから、別にいいんだけど。
つーか、この女の発言はヤベーぞ。リアルで愚民とか言わないだろ、普通。
そのままスルーしようかとも思ったが、少しは人らしく生きて欲しいので俺は一つアドバイスを飛ばす。
「あんま人前で愚民とか言わない方がいいですよ……?」
『そりゃ人前では言わないよ~。でも、君の前ならオッケーでしょ?』
「俺も人ですし、そういう発言にはドン引きするんですが」
『君はもう超人だよ? その他一般人とは格が違う存在になったんだよ?』
「あの、ナチュラルに差別的な発言をしないで貰えます? 価値観の違いが凄すぎて付いていけないんですが」
宇宙人と会話してる感じだわ。
それとも超人の価値観ってこれが普通なの?
確かにそうした人達と接した機会はこのイカれた女以外には無いが、流石にそれは無いよな……?
そうした不安を抱いていると、黒岩薙獲は小首を傾げながら言う。
『差別じゃないよ、区別だよ? 私達は命を危険に晒して特別な存在に成れたんだから、少しは偉そうにしたって誰も文句言わないって~』
「少し……?」
大分偉そうにしてるだろ、本当に狂ってる女だな。
そう呆れていると、黒岩薙獲は何も気にした様子を見せずに話を軌道修正した。
『この件は君だけじゃなく、ご家族も守る事に繋がる。だからまぁ、特に気にしなくていいよ。君はダンジョンの制覇に集中しな』
「はぁ……至れり尽くせりですね。できれば、もっと早くにそうして欲しかったですけど」
俺は両親の憔悴した姿を思い返しながらそう告げた。
けれど黒岩薙獲は小さく微笑み、右手の人差し指を向けてくる。
『ヒトリく~ん、政府は慈善団体じゃないんだよ? 今回の件は君が頑張ったから、政府がその苦労に報いる為に行動したのさ。要するに君の行動で世間の奴等に一泡吹かせたってことだよ。その事をよ~く自覚して、底辺共の今後にお祈りしておきな』
「そんな奴等に祈る予定はないですね」
『アハハ!! そうだねぇ、確かにそれが正しい!! やっぱ君はいいねぇ!! 話してて最高に楽しいよぉ!! 堪んねぇ~!!』
何故か俺の返答を聞くと黒岩薙獲はテンションを爆上げさせた。
狂人の価値観は分かんないな。怖いぜ。
けど、この件が広がれば確かに両親も大分気が楽になるだろう。
俺はその事実にそっと安堵の溜め息を零し、心が軽くなった事を実感する。
やはり俺としても『世間の反応』的な考えは脳裏を偶に過ぎってたし、結構なストレスになってたのだろう。
俺は其処でようやく話の流れを無理矢理に戻し、『今後に向けての話し合い』に移ろうと努力する。
「それで、チエさんが此処に来た最後の目的である今後に向けての話し合いってのは何なんでしょう?」
『そうだった。えーと、君の事は既にGD9の各国に通達してある。それと同時に奥多摩が新種のモンスターしか出ない事もね』
記者会見すると言う事は既にGD9に話を通していた事、それがイコールなのは理解していたので、特に驚かない。
「そうですか、それで?」
『んでまぁ、当然ながら各国の興味は新種モンスターに向くわけよ。君が特殊な超人化をした事にも大層な興味は持たれてはいたけど、まぁ君は外へ出れないからね。其処は流すしかない。つーか、自国の超人達の身体能力や異能の内容は基本的に他国に教えないしね』
超人は最悪『戦争行為』に駆り出される事も有り得る為、超人の詳しい身体能力や、異能の限界値などを他人や他国が探るのはタブーとされており、良好な関係を築くGD9の間でも気安く自国の超人の能力を明かさない。
TVに出る元探索者の人達も、全力を駆使した異能を見せたりはしないしな。
ともかく、俺は黒岩薙獲の話に頷いて話を進めていく。
「なるほど、それで?」
『だから君には第一層で出るモンスターの全種類の死体を集めてもらい、その死体をGD9各国へ送る事に日本政府は同意した。あ、勿論限定種はもう居ないからスルーしていいよ』
「……ん? それってどういう事です?」
正直、その話は理解できていた。
ただ、その内容を信じられなくて聞き返しただけである。
けれども黒岩薙獲は無情な現実を俺に突き付けてきた。
『だから、日本を除くGD9の各国にモンスターの死体を送るんだよ。全種類』
「で、でもGD9って日本を除いても八ヶ国あって、それに全種類のモンスターを各国へ送るってなったら……」
『チキンロングレッグ、ビッグホーンビートル、フィンガーキャタピラー、Bマウス、ティースフィッシュ、この五種類の死体を各国へ送るから……四十体狩るだけでいいね』
「い、いやいやいや!! 何を軽く言ってるんですか!? 滅茶苦茶大変じゃないっすか!!」
俺の奥多摩での通算モンスター撃破記録がそれ位だ。
それをもう一度やれとの無茶振りである。ふざけてんのか?
『君は超人化したんだろぉ? なら大丈夫だよ! それに無報酬って訳じゃないからさ、一体に付き百万支払われるから。つまり四十体全ての死体を納品すれば四千万だから。あ、あと死体はなるべく綺麗に頼むよ?』
「い、いや、だけど持ち運びとか……」
次々と畳み込まれる様に言われて理解が追い付かない。
まるで詐欺を受けてる気分だ。
『大丈夫大丈夫!! 専用の道具が用意されっから!! お姉さんがまたそれ持って会いにくるから!! だから安心して、な?』
何処に安心できる要素があるのか分からない。
だが、既にもう各国へ伝えたらしいし、これはもう拒否できないのだろう。
俺は痛む頭を抱えつつ、黒岩薙獲に伝える。
「あんま無茶な依頼とかはGD9から受けない様に、日本政府に伝えといて下さい。俺に出来る事なんて少ないんですから。この程度なら超人化もしましたし、まだ一応やれると思いますけど……」
『うん、了解した。当然の要求だね、そりゃ。けど、日本政府も好きで受けた訳じゃないよ? 限定種の話を表に出す事と引き換えに、GD9から出された条件がコレだったんだよね』
「なるほど……」
確かに、限定種の話は今まで世界に伏せられてた情報の一つだった。
それを日本の判断で明かそうとしてるのだから、そうした取引もあるのは理解できる。
政治の世界は面倒な事も多いのだなと、ある程度は理解しつつ頷く。
「それで、今日の話はもう終わりですかね?」
『大事な話はそうだね。後は今日の夕方頃に君の身体能力を測る為、電子機器を使わない道具が用意されるからさ、そのテストが終わったら今日は休んでいいよ』
「分かりました」
色々と大変な事になってきちゃったな。
遂にGD9すら俺の行動に関与し始める様になるとは。
日本政府の顔色を伺うだけでも結構な苦労だったのに、今度はGD9かよ。
超人化すれば楽できると思ってたのに、何だか逆に忙しくなってきたぞ。
俺は超人化した喜びよりも、戸惑いの気持ちが強くなってきている事に気付き、溜め息を零した。
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