過去編

第17話 嫌われ者の私

 この子は呪われた子だ。黒髪が産まれるのは呪われている証拠。きっと悪魔でもついてるんだわ。気持ち悪い。近づかない方がいい。


『ごめんなさい。私がこんな子に産んだばかりに……。あのとき子供を産むなんて言わなければ……』

『お前は悪くない。悪いのは呪われているあいつだ。自分に責任を感じなくていい』


「うっ……」


 頭が痛い。なぜ私がこんな目に遭わなければならないの。辛い、苦しい。

 お母様、お父様までが、私を蔑んだ目で見つめる。暗く、光の通らない牢獄のような部屋での生活。ご飯は硬いパンひとつ。泣きたくても涙が出ない。

 そんな希望も光も全くない生活をしていた。外に出るのは自由だけど、外に出れば周りからゴミを見るようにこっちを見ながらヒソヒソと話をする人ばかり。


 どうして、どうして私だけがこんな目に遭わなければならないのだろう。


 ……そうか、私が呪われているからか。

 呪われているから、酷い扱いを受ける。

 呪われているから、大事にされない。

 呪われているから、全て私のせいになる。


 これも全部、この黒髪のせい。私が呪われた子だから、こんな気持ち悪い黒髪に産まれたから。

 いつか命を絶つことができるようにと、残っていたガラスの破片。正直、こんな小さな破片で死ぬことなんて出来ないと思うけど。


 ……庭に出よう。


◆◆◆


 庭は静かだ。外に出ても人がいないし、誰かになにか言われることも無い。


「……誰?」


 聞きなれない女の人の声が聞こえた。

 ……私だと気づいたら、きっと冷たい目で見られる。そう思って私は早足でその場から去ろうとした。


「ちょっと待ってください、そんなボロボロでどうしたんですの……!?」

「……来ないで」


 私は後ずさりしながら拒絶する。


「? あなたもしかしてリゼア……」


 女性は私だと気づいたように目を丸くして言った。


「や、やめて……。近づかないで」

「大丈夫、何もしませんわ。リゼアミス様ですわよね、ちょっとこちらへ来てくださいませ」


 嫌、怖い。この人は人目のつかないところで私をいじめる気だ。


「見たところ私と同じ年齢くらいですわね。……もしよければ私の部屋に……」

「……何がしたいのよ、私は呪われた子で、皆から必要となんてされてない、そんな私になんで声をかけるの、笑いなさいよ……遠くから冷たい表情でこっちみてたんでしょ」

「黒髪が呪われた子だなんて古い言い伝えですわ。私はあなたを本気で心配しているんですの。……信じてくださる?」


 彼女は私を真っ直ぐじっと見つめる。


「……信じれるわけないでしょ」

「あ、そういえば名乗っていませんでしたわね。名前も知らない相手を信じれる訳ありませんから。こんにちは、エミリ・スフィルアと申します」


 その名前に聞き覚えがあった。部屋にずっといる私でも、部屋の前にいるメイドたちの話し声くらいは聞こえる。


「エミリ、ってあの研究してる……」


 そう呟いた私にエミリはパッと顔を明るくさせた。


「そう……! 知って頂き光栄ですわ。そろそろ打ち切られそうですけどね」

「え、どうして……」

「私のような貴族が研究をするだなんておかしい話なんですのよ。……でも、私は研究を続けたいんですわ。そのためなら、なんだって……」


 ……この人は、信用してもいいのかもしれない。心を固く閉ざしていた鎖が、少し解けたような気がした、この人なら私を認めてくれる。そんな気がして。


「……部屋、行きたい」


 私は小さく呟いた。


「来て下さるんですの!? ありがたいですわ……!!」


◆◆◆


「あれはファルミア家の……? どうしてエミリお嬢様と一緒に……」

「このままでは、お嬢様にまで呪いが……」


「……一段と騒がしいですわね、メイドたちは」

「私がいるからでしょ……。やっぱり来なかったらの良かったのかしら」

「いえ、来てくださって嬉しいですわ。周りの目なんて気にしてられません」




「さて、お話でもしましょうか」


 私の部屋とは違う、明るく飾り付けられた部屋出エミリはベットに腰かけ私に言った。


「話……?」

「ええ、ずっと部屋にいたんですわよね。話すことなんてあまりなかったんじゃありませんこと?」


 バカにしているのかしていないのか。確かに部屋にひきこもってばかりで人と話なんて全くしてこなかった。言葉を発することさえ独り言をつぶやく以外にはしない。


「そうだけど、私話したいことなんて……」

「好きな人はいませんの?」

「……?」


 急に何を言い出すのかと思えば、エミリは興味津々な様子でこちらを見つめていた。


「好きな人が出来たら人生が明るくなるんじゃありませんこと?」


 エミリの言葉に私は小さくため息を漏らした。


「ここまで色んな人にずっと呪われてるって言い続けられて、好きになれる人なんていると思う……?」

「……あ、ごめんなさい」


 私の問いかけにエミリは表情を暗くして俯く。

 それもそうだと笑えばいいものの、どうしてそんな表情をするのだろうか。


「……まぁ、そうね。強いて言えば、あなたになら心を開いてもいいと思ってる」

「え……?」

「そりゃ、最初は信じられなかったわ。私に、こんなに優しく手を伸ばしてくれる人がこの世にいるはずがない、って」

「そんなことありませんわ。私以外にもいつかきっと……」

「いつかっていつ……? それが分からないから今あなたの手を掴んでるのよ。信じさせてもくれないの? 私はあなたを信じたい。やっと見えた光なんだから」


 これでエミリに裏切られたら、私は今度こそ……。

 だから今だけは、あなたを信じていたい。

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私へ紹介された婚約者は、銀髪の美少女でした 天良みーや @amai_miyabi41

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