屈折する自転車
@yanadamiuchi
屈折する自転車
屈折する自転車
彼氏がいない女性のすることといえば、
せいぜい、同性の友達と三人程度でお茶をしに行ったり、ショッピングをしたりするようなもの。お金を使えばまた今度、いつものアルバイトへと繰り出していくのだ。しかし、今月の私はいつもとは違う。
なぜなら先日見つけた路地裏の大型工場で、屈折する自転車を買ったのだから。
屈折する自転車!待望の新発売!!
「やったぁー!」すごい!これはぁ!
たのしいなぁ!この商品の良さはどこにあるでしょうか?
今日はそんな自転車を取材に、屈折自転車製作委員会副取締役会長の渡部圭吾さんのいる工場にお邪魔させていただいています!
渡部さんこーんにちはー!
渡部
こんにちは。
あぁーー!渡部さんだー!誰かわからないぃー!渡部さん今日はありがとうございますぅ!(ピヨまるも嬉しそうだね!)
TV広報担当37代目マスコット「ピヨまる」
凄いピョ〜〜ところで今日は渡部さん、この新発売の自転車のどこが凄いピヨか〜?
渡部さん
そうですね。なんと言っても乗り心地ですよね。
普通の自転車は、真っ直ぐなサドルと、タイヤに合わせて鉄筋が使われていました。
しかし、現代の生活には、電子機器が普及し、丸腰や猫背での長時間労働が増えました。
背筋もそれに合わせて、歪んでいたりしますよね。
インタビュアー
確かにぃ!僕もこの前運転した時は、サドルが90°に曲がっていました!いやぁ、お恥ずかしい限りですけどぉ!(会場笑)
わかります。わかります。
そこで、私たち製作委員会は、サドル、バランス感覚の補助装置であった鉄筋に光のプリズムを配合して、お客様の背筋に併せて、意図的に自転車が曲がる機能をつけました。
ええ〜〜〜!!なにそれーー!
ピヨまるもすごいと思うっピ!
ハハ、ピヨまるなんであんなに売れてるのか解らんなぁー!笑いくら可愛いからってインタビュアーさんの話遮るなよなー。うぜぇー!
インタビュアーのなるヘソ質問ポイント〜〜〜!!
サドルの下側にブラックライトを当てると...
うわぁすごいキラキラ光ってますよ!
すごいですねぇ〜〜〜!これが安全で快適な乗り心地の秘密なんですねぇ!
副会長
そうなんです。この光に合わせて、先端のタイヤ部分を見てみてください。
ブラックライトを傾けると....
わぁ!先端が曲がった!すごぉ〜い!
なるヘソ!
使用者が乗り心地が悪いと感じると、微粒な乗り心地の悪さが意識の表層上に現れますよね。それが大気中に浮遊します。例を出すと、インターネットなどで発生する集合的無意識ですね。そして、センサーが浮遊したその微弱な感覚を感じ取って、プリズムへと変換されます。この間0.03秒。粒子も細かく刻めば、存在しているのかしていないのかわからない量子力学的な世界にいるということですね。なるヘソリポーターの目の前にも、観測できないダークマターの世界が広がっております。
でも、ブラックライトを当てると、なんで自転車の先端が曲がるのですか?
それがまだ解明されていないんです。実は偶然発見したんですよね。ブラックライトの部品製作を委託されたときに、作る時は、自分の意識がブラックライトに反映されないように無心で作らないといけないんですが、会長が隣で、バレーボールの練習をしていて、工事現場でですよ?本当におかしくて笑っちゃいますよね。僕はその時徹夜で疲れていているのに、何やっているんだって思ってしまって、それでそんな会長への怒りとも戸惑いともいえない感情が、ブラックライトに反映されてしまったんですよね。
死ぬほど怒られました笑。もう散々な日だなって思っていたのですが、偶然となりでプリズム業をやっていた友人が、これ、使えるんじゃないかって...
それでこのブラックライトの光と想念の当たり具合から逆算して、屈折する様にしました。
本当に偶然の産物ですけど、会社の僕たちが作ってきた今までの技術の集大成です!
理由はわかりません!すごいなぁー!
なるほど〜〜それはすごかったっピねー。
今日のなるヘソポイント!
35なるヘソ!!
会長が会社にいませんでした。これは何かの陰謀に違いありません!!
今日はこれでなるヘソコーナーを終了させていただきます!ありがとうございました!
東京芸術大学局長
なるほど...つまり、副会長は何か隠しているということですね。リポーターの方、ありがとうございました。一旦コマーシャルです。(ここで銃を構える。)
TVはいつも通りの日常。肝心なところをいつもごまかす。私もこの前まではそうだった。屈折する自転車。工場に来た時もそうだった。これは単純に自転車を曲げるだけの話じゃない。
プリズムにおける変化ではなく、変換されたものなのだ。それは代替えとする能力。それは変わりがいるということ。自転車の首根っこは変化しているわけでも、屈折しているわけでもない。この90度に曲がった私の骨と自転車の骨組み、本質は同じである。体を支えるという概念は同じである。プリズムはブラックライトを当てられ、さらに変換される。私の体もこの自転車も本質は相対して変わらない。私の目的と、この自転車の目的が噛み合った。時間は進み続ける。私には目的がある。目的地は自分で選ばなければいけないのだ。
「じゃあ、目的のない奴がこの自転車に乗ってみたら?」
何を言っている?人間はなから目的は存在しない。私が今作った目的だ。
大きく屈折された自転車は天に昇って行くだろう。君の願いは大きくずれているよ。光の角度を変えれば、君は全くの別人なのだから。
でも君は、この自転車を人間だとは思わなかった。君には良心がある。それはありのままに、存在だけが残っているよ。
5日後、あの自転車が発売された。
あの自転車は、たまたまほんのわずかな確率で、プリズムとの接続部位が人間になるらしい。首根っこから手足が生えた報告が何度もニュースになっていた。そんなのは陰謀論かもしれないが、こいでいる彼の存在が薄らと消えていくのがわかった。私は疑問から確信に変わったのである。
ただ、それからというもの私は恐ろしくなって、散歩に行く時は必ず行く場所を決めてから家をでている。寄り道が少なくなった。自転車は、10年は経ったが、未だに壊れていない。
屈折する自転車 @yanadamiuchi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます