決意の夜

「にゃん(訳:スキルツリーに選ばれた者として、聖地への巡礼をするのにゃ。私と一緒に。そして聖地を封印してほしいのにゃ。未来永劫に。崩壊論者もダンジョン財団も手の届かない完全な地にするのにゃ。これは赤谷くんにしかできないことにゃ)」

「俺にしかできない、か。聖地へいったとして、どうすれば封印とやらはできるんだ」

「にゃん(訳:いくつか手順が必要にゃん。その時が来たら私がやってあげるにゃん。だから、私を聖地へ連れていってほしいにゃ)」


 聖地への巡礼。選択肢は2つある。

 1つ目はダンジョン財団の収容員、怪しい男と巡礼を目指す。裏では「にゃごにゃご」言う変態。表裏どちらの人格も感情ではあまり信用したくない稀有な存在。

 2つ目はツリーキャット。モフモフな親友。恩猫。ニャンニャン。こんなに可愛い猫のお願いを聞いてあげなければ、きっと地獄に落ちる。


 俺は『血に枯れた種子アダムズシード』を握りしめる。

 

「お前、いろんな記憶を取り戻すことができたっていうけど、13個の種をもってた訳とかも思い出したのか?」

「にゃん(訳:13個の種。それは聖地にある神樹──『祝福の樹』が落とした種にゃん。『祝福の樹』の種子を植えて、発芽させる。それが私の使命だったのにゃ)」

「『血に枯れた種子アダムズシード』は祝福の樹の種……祝福の樹こそが、お前がたびたび口にしてた”神樹”なのか」

「にゃーん(訳:そのとおりにゃん。そして、私は古い獣にゃん。ツリーガーディアンが神樹そのものを守る”戦う者”ならば、私は”繋ぐ者”にゃ。新しい『祝福の樹』を育てること。それこそが使命だったのにゃん)」

「新しい祝福の樹……それがスキルツリー?」

「にゃーごん(訳:その通り。でも、私は使命を果たせずにいたにゃ。神話の時代が終わったあと、私はすっかり力を失って、知性を失っていたのにゃ。この時代になって己を思い出したのにゃ。いま種は赤谷くんに託すことに成功したにゃん。樹も成長しているにゃん。満足にゃん。あとは見届けるのみにゃあ。けれど、ここに来て人間は愚かな選択をしようとしているにゃん。私がなんとかしないと。ツリーキャットの使命には、神樹を守ることも含まれているのにゃ。たとえ私に戦う力がなくとも。赤谷くんがいれば、この神樹を守ることができるはずにゃん)」


 ツリーキャットの鳴き声には、懇願するような色合いがあった。

 俺がいてやらねば。俺が手伝ってあげねば。

 そう思わせられる。


 なんという旅路なのだろう。

 こんなにモフモフした友人にそんな使命があったなんんて。

 この子は困っている。いまこそ恩に報いる時だ。


「聖地への巡礼、成し遂げよう」

「にゃーん(訳:赤谷くん、ありがとうにゃ。──これでようやく使命を果たせるにゃ)」

 

 ツリーキャットは俺の腕のなかで甘えたように頭をこすりつけてきた。

 

「にゃん、にゃん(訳:そうと決まれば早い方がいいにゃん。聖地への巡礼をするためには、まだ種子が足りないにゃん)」

「種子が足りない? もっと必要なのか?」

「にゃごん、にゃあん(訳:多ければ多いほどいいにゃん。最低限、あと2つは回収したいところにゃん。十分に成長したスキルツリーを聖地にもっていくことで、私たちは神樹の保護を真の意味で成し遂げることができるのにゃん)」


 神樹保護活動には足を運ぶだけじゃダメみたいです。

 

「でも、種子を回収するたってどうするんだよ? シードホルダーのアテはあるのか?」

「にゃん(訳:赤谷くん、私がなんのために長期任務にでていたと思っているにゃん。種子を間近で見て、感じることで、匂い付けをおこなったのにゃん。いまの私にはどこに『血に枯れた種子アダムズシード』があるのか手に取るようにわかるのにゃん)」

「おお、流石はインテリジェンス猫。すでに作戦は展開されているのか!」

「にゃあん♪(訳:当然にゃん。でも、赤谷くんに負担を強いることになるにゃん。なんせ残りの種子があるのは、崩壊論者『蒼い笑顔ペイルドスマイル』一派のアジトにゃん。回収しようとすれば、やつらと衝突する可能性が高まるにゃん)」


 俺は生唾を飲みこむ。

 再び崩壊論者たちとの死闘に挑むことになる。こちらから出向くのは初めてだ。単身で相手のフィールドに乗り込まないといけないなんて。


「大丈夫だ。俺は力をつけてる。『雨男レインマン』だろうが、『蒼い笑顔ペイルドスマイル』だろうが、暴力沙汰になれば退けてみせるさ」

「にゃん(訳:赤谷くんには苦労をかけるにゃん)」


 申し訳なさそうに告げる猫。

 

「それに新しい種子も手に入れたんだ。こいつでさらにパワーアップもできる」

「にゃーん(訳:新しい種子の力を解放するのにすこし時間がかかりそうにゃん。明日からは文化祭、スキップするには赤谷くんも惜しいと思うにゃん。1週間くらいは準備期間を設けたほうがいいかもしれないにゃん)」


 これまでの傾向からして、1週間あればひとつの種子に込められたスキルを解放しきることができるだろう。妥当な時間だ。まぁ手に入れたばかりの練度が低いスキルに戦術をゆだねることはないだろうけど。


「不安なのはニャンニャン病が完治してないことだな」

「にゃあ?(訳:ニャンニャン病?)」

「そうだ。こいつのせいでランダム周期で1/1スケールのリアル猫になっちまうことがあるんだ」

「にゃ、にゃあ~(訳:なんて珍妙な病気だにゃあ)」

「こいつが治るのも待ったほうがいいだろうな。敵の目の前で発症したりしたら敵わない」


 聖地への巡礼作戦第一段階種子回収。話し合いの末、それはニャンニャン病の症状が落ち着いてからということになった。


 そろそろ薬膳先輩も出所している頃だ。

 彼のもとに足を運ぶのもありかもしれない。


「さてと」


 俺は静かに胎動する種子を喉に押し込んだ。

 右腕が震えだし、血管が浮きあがり、肉が裂けて樹が飛び出してきた。

 勢いのあまり、窓を突き破っていってしまう。外からみれば男子寮の壁面に大樹が生えたように見えたことだろう。


 俺は慌てて樹の大きさを抑制した。

 赤く濡れた樹は収納されていき、数十センチほどの樹高になった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 99,800 / 100,000

 魔力 30,700 / 100,000

 防御 100,000

 筋力 100,000

 技量 100,000

 知力 100,000

 抵抗 100,000

 敏捷 100,000

 神秘 100,000

 精神 100,000


【Skill】

 『スキルトーカー』

 『スキルエナジー』

 『スキルオーバードライブ』

 『完成体力』

 『完成魔力』

 『完成防御』

 『完成筋力』  

 『完成技量』  

 『完成知力』

 『完成抵抗』

 『完成敏捷』

 『完成神秘』

 『完成精神』

 『筋力により形状に囚われない思想』

 『くっつく』

 『筋力の投射実験』

 『第六感』×3

 『瞬発力』×3

 『筋力増強』×3

 『筋力による圧縮』

 『ペペロンチーノ』×4

 『毒耐性』

 『シェフ』

 『スーパーステップ』

 『浮遊』

 『めっちゃ触手』    

 『筋力で金属加工』

 『手料理』

 『放水』

 『学習能力アップ』

 『熱力学の化け物』

 『下段攻撃』 NEW!

 『拳撃』

 『近接攻撃』

 『剣撃』

 『ハンバーグ』

 『聖属性付与』

 『闇属性付与』

 『黒い靄』 

 『再現性』

 『遠隔攻撃強化』   

 『触手生命体』

 『菜園』          

 『ハンバーガー』   

 『覇王の構え』    

 『示現解放』

 『自己復元』

 『マッサージ』

 『脚撃』

 『粘液』

 『静電気』

 『赤スモーク』 

 『セグウェイ』

 『ベタベタ』

 『もうひとつの思考』

 『フリッカージャブ』

 『高密度化』

 『怪力』

 『超人』

 『膂力強化Ⅱ』

 『怪力』

 『怪力』


【Equipment】

 『スキルツリー』

━━━━━『スキルツリー』━━━━━━

【Skill Tree】

 ツリーレベル:7 NEW! 

 スキルポイント:1

 ポイントミッション:完了

【Skill Menu】

 『密室ナマズ』 

 取得可能回数:1

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 『密室ナマズ』……? 俺は訝しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る