密室ナマズ

 ツリーレベルが進化したことにより、再びスキルツリーにスキルが実った。

 スキルツリーにスキルが実ることの良い点は2つある。

 

 1つ目は未知のスキルが手に入るということ。

 2つ目は『』が実質的に増えるということ。

 

 逆に悪い点もある。


 それは未知のスキルが手に入ること。つまりメリットと表裏の関係だ。

 複数のスキルを持っているいまならわかるのだが、スキルのなかにはいわゆる”雑魚スキル”が存在する。使い方次第では化けたり、練度を高めることで出来ないことができるようになったりするが、逆にいえば、そうでもしないと使えない。


 世の中には”強スキル”もある。

 その名の通り強いスキルだ。最初から。

 スキルは練度によって、その表情を変える。

 

 雑魚、悪くない、良い、最高、チートみたいな区分けがあるとしよう。

 雑魚スキルは100の努力を積めば、雑魚から悪くない、になれるかもしれない。悪くないスキルから、良いスキルと思えるようになるには、さらに200の努力が必要だ。その先も同様に険しい道が待っている。


 強いスキルは最初から最高だ。

 評価がさがることは基本的にはない。

 序盤、中盤、終盤、ずっと強い武器みたいなやつだ。

 

 俺にも雑魚スキルがある。

 ステータスに奇妙なやつが混ざっているだろう。

 

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【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 99,800 / 100,000

 魔力 30,700 / 100,000

 防御 100,000

 筋力 100,000

 技量 100,000

 知力 100,000

 抵抗 100,000

 敏捷 100,000

 神秘 100,000

 精神 100,000


【Skill】

 『スキルトーカー』

 『スキルエナジー』

 『スキルオーバードライブ』

 『完成体力』

 『完成魔力』

 『完成防御』

 『完成筋力』  

 『完成技量』  

 『完成知力』

 『完成抵抗』

 『完成敏捷』

 『完成神秘』

 『完成精神』

 『筋力により形状に囚われない思想』

 『くっつく』

 『筋力の投射実験』

 『第六感』×3

 『瞬発力』×3

 『筋力増強』×3

 『筋力による圧縮』

 『ペペロンチーノ』×4

 『毒耐性』

 『シェフ』

 『スーパーステップ』

 『浮遊』

 『めっちゃ触手』    

 『筋力で金属加工』

 『手料理』

 『放水』

 『学習能力アップ』

 『熱力学の化け物』

 『下段攻撃』 NEW!

 『拳撃』

 『近接攻撃』

 『剣撃』

 『ハンバーグ』

 『聖属性付与』

 『闇属性付与』

 『黒い靄』 

 『再現性』

 『遠隔攻撃強化』   

 『触手生命体』

 『菜園』          

 『ハンバーガー』   

 『覇王の構え』    

 『示現解放』

 『自己復元』

 『マッサージ』

 『脚撃』

 『粘液』

 『静電気』

 『赤スモーク』 

 『セグウェイ』

 『ベタベタ』

 『もうひとつの思考』

 『フリッカージャブ』

 『高密度化』

 『怪力』

 『超人』

 『膂力強化Ⅱ』

 『怪力』

 『怪力』


【Equipment】

 『スキルツリー』

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 そいつらの名は『菜園』と『セグウェイ』。

 いろいろと使い道を見出してきた俺でも諦めるスキルだった。

 戦いに運用するのが難しいスキルだ。


 『菜園』は植物を育てる時にボーナスが発生するというスキルで、果実をつくったり、野菜を育てたりすると、豊作を期待できるというものだ。

 『セグウェイ』のほうは、セグウェイに乗る際、走行能力に強化を施すというもの。面白いスキルだが、俺にはちょっと……戦闘に使うヴィジョンが見えなかった。


 こうした能力は『スキルトーカー』で外部から手に入れるスキルでは、まず選択肢にはいらない。スキルツリーのランダム性だからこそ手に入るものと言える。


 スキルツリーは未知のスキルをくれる。

 それは俺のアイディアの外からの来訪者だ。可能性を突破するパーツにもなるし、たまにマジで意味ないスキルもくる。

 

 スキルツリー産スキルには、こうしたある種の”ガチャ感”があることを踏まえて、もう一度『密室ナマズ』を見てみよう。うん! ハズレ臭ぇ……!!


「んだよ、『密室ナマズ』って……」


 俺は首をかしげながら、ツリーウィンドウを指で操作。

 スキル『密室ナマズ』を解放した。


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『密室ナマズ』

アクティブスキル

凶悪な召喚獣を呼び出す

【コスト】MP1000


この淡水魚はとても臆病です

よく訓練し 可愛がってあげましょう

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 むむ? 【コスト】MP1000だと?

 スキルパワー”は”めちゃくちゃ高くないか?

 

「にゃーん(訳:どうやら召喚獣の一種のようだにゃ。私が思うにきっとこれは強力なものだにゃん。いい武器を手に入れたにゃ)」

「そうかな? ナマズだぞ?」


 有識者キャットが言うのならそれなりのスキルではありそうだが。

 

 翌朝、俺は久しぶりにツリーキャットをお腹のうえに乗せた状態で目覚めた。

 首を横に向ければ、早朝の容赦ない寒気が室内を冷やしきっていた。

 

「窓が割れてると流石に寒いな……」


 俺は黒猫を撫でながら上体を起こす。

 ツリーキャットは「にゃぁぁ」とか細くないて、両の前足で頭を押さえこみ、まだ寝足りないアピールをする。優しく撫でてやり、布団の抜け殻にいれておいてあげた。しばらくは温もりが残っているはずだ。もうすこしお休み。


「よし、いくか」


 支度をして部屋をでる。

 午前6時。男子寮はまだ静まりかえっている。

 ただ、チラホラと起床した者たちの気配は感じた。


「おや、赤谷ボーイ、このような朝にもトレーニングにいくのかね」

「当然ですよ、ダビデ寮長。鍛錬は探索者見習いの本懐でしょう?」

「まったく模範的な生徒だよ、君は。トラブルさえ起こさなければ、だが」


 俺は第一訓練棟へ足を運び、学園アプリから予約しておいた訓練場にやってきた。

 ガシュン。機械的な音。扉がロックされ、訓練場の外と内が隔たれた。


 トランクをそこらへんに置いて、開いておく。なかにはアノマリースフィア2個と鋼材キューブ12個が整頓されて収納されている。形状が球体と立方体で違うのは、形状から判断しやすくする意図がある。


 屈伸したり、身体を伸ばしたり、ぴょんぴょん跳ねる。

 十分にほぐしたあと、宙へ手をかかげた。


「スキル発動──『密室ナマズ』」


 空に断裂が生まれた。

 亀裂の向こう側から水が漏れだす。

 まるで水槽をトンカチで叩いたみたいな、蜘蛛の巣状の亀裂である。

 

 すぐのち断裂が破れた。

 勢いよく飛び出してきたのは魚影だ。


 素朴な黒瞳、長いニョロッとした髭、パクパクする口。ヌルッと光沢を放ち、赤と金色の無駄に荘厳な鱗を有するそれは──もしかしなくてもナマズであろう。


 かないデカい。体長は8mはある。ジンベイサメとかシャチだとか、そういうスケール感、あるいはそれらを上回っている。


 このナマズは宙を泳ぐ能力があるようだ。水とともに出て来たが、断裂から継続して水が溢れだすことはなく、必然、周囲が水中世界になることもなかった。


 空を泳ぎ続けている。

 特殊だ。特殊なナマズである。


「プワプワ~」

「変な鳴き声だしやがって。なんでよりによってナマズなんだよ」

「プワァ~」


 ナマズが人懐っこく近づいてくる。

 きっとご主人様である俺に撫でてほしいのだろう。

 ええい、仕方のないやつめ。もっと近くによるがいい。


 そう思って俺は手を伸ばした。

 にょろにょろの髭の間、ヌメヌメした鼻頭を掻いてやろうと。


 パク、否、ガブッ! 俺の肘から先はナマズの口のなかに消える。

 ミチミチ! ミチミチ! すごい嫌な音。感触。焼けるような痛み。


「ッ! なにして──!?」

「プワ~!」


 ナマズは腕をくわえたまま俺を振り回し、訓練場の横の壁にぶん投げる。

 ──というビジョンを『第六感』により獲得した。


 撫でようとする俺。食べようとするナマズ。

 俺は素早く手を引っ込め、スナップを利かせた迅速な拳を放った。

 

 『フリッカージャブ』+『瞬発力』+『拳撃』+『近接攻撃』+『膂力強化Ⅱ』


 ──『速攻の解決策インスタントソリューション


 シュパパンッ!


 ナマズの鼻頭に素早く拳が突き刺さる。

 拳が音速を破ったことで、衝撃波と炸裂音が響いた。

 浮遊していた巨体が吹っ飛び、訓練場の奥に激突してバウンドした。


「なんだァ? てめェ……」


 もう怒った。

 自分のペットだろうと関係ない。

 俺に動物愛護は通用しない。あのムカつくアホ面の淡水魚をぶっ飛ばす。

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