闇バイトおじさん
サングラスをかけた怪しげな男は俺を学校の外に連れ出した。
それが危険なことだとはわかっていた。
俺は崩壊論者『
エージェントKがツリーガーディアンとの一件の与えてくれた情報だ。
学校の外に迂闊にでないように名指しで言われている。
なので、これはとてもじゃないが賢い選択とはいえない。
一方で、対面している問題として、俺は眼前の不審者の機嫌を損ねたくなかった。
夜間にサングラスをかけているというだけでなく、この男は「にゃごにゃご」言いながら平然と校内を歩いた前科をもつ異常者だ。常軌を逸した変態だ。
同時に巨大な……そう、抗いがたいものを感じる。
火は太陽の光を浴びたからと言って、競ってソレよりも熱く燃え上がろうとするだろうか。そういう感じだ。不審者は絶対に俺に言うことを聞かせるという凄みをもっていた。ゆえに俺は抵抗の意思が湧かなかった。
また彼が俺の知っている情報だけに限るなら、そこまで警戒するべきでない人間ように感じたのもノコノコとついていってしまった原因なのかもしれない。
彼は長谷川学長と知己の仲だ。
俺は長谷川学長に尊敬を抱いている。
彼はおおらかで、賢明で、こちらに寄り添ってくれる。頼りになる。パワー系だし、マッチョな思想は俺にあわないが、それは好みの問題、総じていい先生だ。
彼の知り合いなら、まぁ、そんな変な人間じゃあないだろう。
そういう根拠不足の信頼を俺は不審者にもっていたのだ。
学校近くのムーンバックコーヒーへ入店する。
おしゃれで上流階級な英高生たちだけが利用できる店だ。
ここで呪文詠唱をして訳のわからないコーヒーを買って校内で消費するだけで、一気にステータスがあがるのだ。祝福的な意味ではなく、社会的なほうだ。
「ダークネス・ディザスター・テラバイト・暗黒フラペチーノ」
不審者の注文と同じものを頼んで、俺らはカップを手に奥まった席にいく。店内には意外にも客が少なかった。だから、席は選び放題だった。
スマホを見やる。
時刻は8時をまわっている。
いまから帰っても男子寮で夕食を食べれない。
「じゅるるる」
不審者は暗黒フラペチーノをすする。長い吸引だ。サングラス越しにこちらを見ているのだろうが、視線がわからない。ゆえに不気味だった。
「あの、長谷川学長の知り合いのかたなんですよね?」
「そうだよ、少年」
「学校関係者っていってましたけど、どういう立ち位置のかたなんですか?」
「それはトップシークレットだよ、少年」
「……」
「不安そうだ。なにか心配事があるのかい」
「心配事の原因はいま目の前にいるんですけど……」
「知らない大人がそんなに恐いか? 君は勇敢に崩壊論者を退けてきたというのに」
「そういうとこです。あなたが僕の名前を知っていたり、学校内でおこった事件について知っていることが僕の不安をかきたてる」
「ふむ。じゅるるるるる────」
「なにが目的なんですか」
「そう身構えなくていい。ただのアルバイトのスカウトだ」
「闇バイト、ですか」
「そんな邪悪なものじゃあないよ。世のため人のためになるイイ仕事だよ」
「あの、落胆させたら申し訳ないので、先に言っておきますけど、僕はたぶんやらないですよ。頭がいいんです。先日の定期考査では学年12位でした。犯罪の実行犯にされるような愚かな役回りを期待しているのなら諦めたほうがいいですよ」
「インテリだったのか。人は見た目によらないものだな」
不審者は暗黒フラペチーノを飲み終わった。
空のプラスティック容器が水滴を滴らせてコトンッと机上に置かれる。
「ある場所へいきたい。でも、そこに辿りつくためには、羅針盤が必要なんだ」
「コンパスならスマホのアプリがありますよ」
「それじゃあダメだ。もっと特別な導きを与えてくれるものじゃないとね」
不審者は指をたてて、そっと俺の右腕を示した。
体温があがる。不審者が致命的なことを言いだす確信があった。
「血に濡れた樹」
彼は言った。
「君が持ってるんじゃないかい?」
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