猫は見た
ミイラ取り獲りがミイラになった光景を遠くから見届けた。俺に意識がないことを知っているはずだが、まさか制裁を加えてこようとするとは思わない。あやつめ、もしや俺を疑っているのか? 俺に実は意識があることを察しているのか?
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【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『キャットボーイは抱かれたい』
抱っこしてもらう 10/10
【報酬】
4スキルポイント獲得!
【継続日数】173日目
【コツコツランク】プラチナ
【ポイント倍率】4.0倍
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危険は冒したが、本日も無事にポイントミッションはクリアできた。
これで今日も繋いだ。明日へと。俺はまだ強くなれる。
「みゃおみゃーお(訳:絶やすわけにいかないみゃ)」
ポイントミッションは達成されたが、お散歩を切り上げるわけではない。
まだたくさんモフモフされたい。もっとたくさん抱っこされてもいいはずだ。
そんなこんな猫谷誠を楽しんだ翌日。
「みゃ、みゃーお(訳:いや、今日も猫のままみゃ!)」
まさかの2日連続で昼間に猫になってしまった。なんということだ。
「みゃお(訳:いや、でもこれでよかったのかもな。昨日の志波姫との感じを見るに出会ったら、理不尽な暴力と罵詈雑言をあびせられそうだし)」
本日のポイントミッションを確認しておこう。
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【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『真の猫を決める戦い』
真の猫を決める 0/1
【継続日数】173日目
【コツコツランク】プラチナ
【ポイント倍率】4.0倍
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お前は何を言っているんだ?
これほどまでに意味が伝わらない文もなかろうて。
「みゃーお(訳:真の猫を決める戦い、か……)」
まったくピンとこないまま、俺は男子寮をでた。
真の猫というからには、真の猫じゃないもう一匹の猫──あるいは猫みたいな存在がいるという考えかたもできるが……もしかしたら志波姫、林道、ヴィルトの誰かが猫になっていて、そいつらと猫しぐさバトルをしろということなのかもしれない。
あるいは又猫ヒバナ先輩か。彼女は真の猫か、それとも偽りの猫か、学界でも意見が分かれるところだろうし、『真の猫を決める戦い』の参加者としてふさわしい。
俺はこれまでの経験値から考察を重ねた。
だが、お昼頃になっても厳密になにをすればいいのかはわからなかった。
少なくとも志波姫、林道、ヴィルトが猫化していないのは授業中の教室を外からのぞき見することで確認した。猫耳は依然としてあったが。
「みゃお(訳:一旦チルか)」
考えてばかりでは課題も進まない。
時にはリラックスも大事だ。
志波姫にあわないように教室棟や授業で使いそうな建物に近づかないようにしつつ、日向ぼっこに適した土地を探していると、真ん中の立派な建物が目についた。
中庭にある血の樹、それを正面から見据えれば、神殿のような様相をもつその建物が堂々と背景を飾っていることがわかるだろう。
「みゃお(訳:ここは中央棟みゃ)」
職員室とか図書館などがある建物だ。
この建物のうえでお昼寝することが猫的にはもっとも贅沢だろう。
そう考えた俺は、『浮遊』を発動させて、プカプカ浮き始めた。
あっという間に4階の高さを通り過ぎていざ屋上へいたろうとする。
「──聖地への巡礼を成せるのはやつしかいないです」
「だからといって生徒の身を危険にさらすことはできない」
かすかだが、声が聞こえた。それも怒気をはらんだ声が。
いましがた通り過ぎた高度までおりてくる。
中庭とその周辺の校舎群を一望できる位置にあるそのガラス張りの部屋。学長室だ。以前、長谷川学長には代表者競技選抜にイレギュラーで選ばれてしまった件で呼ばれたことがある。なのであの部屋からの眺めが良いのは俺も知っている。
『浮遊』状態をうまいことコントロールして、上下逆さまになり、屋上方面からチラッと顔をのぞかせて、学長室のなかを見やる。
学長と誰かがいる。
ん? あの人。サングラスの男だ。
以前、学長室に呼ばれた時にいたっけ。近くに銀色のジュラルミンケース。また何か怪しげな取引をしているのだろうか。てか、そうとしか見えない。
「なるほど。教師の鑑ですね」
「当然だ。私は英雄高校学長なのだから。規範であらねば」
「では、僕は規範に反するとしましょう。優等生ではなかったので」
「どうしてだ。あれを危険にさらすことはお前も望んでいないはずだ」
「仕方がないことです。誰かがやらないといけない。それに選ばれた以上、試練はつきものですよ。何も初めてじゃあない。彼はすでにいくつも乗り越えている」
なにか難しそうな話をしているな。
これは聞かないほうが良い会話ってやつなのだろうな。
でも、気になる。なぜなら猫だから。そう猫だから。
お? なんかふたりともジャケットを脱ぎ始めたな。
シャツ姿になって互いに袖をまくり始めた? なんだなんだ。
「意見がまとまらぬのならコレで決めるほかない」
「ええ、そのようですね」
長谷川学長は駆けだすなり、助走をつけてサングラスの男に殴りかかった。
衝撃の光景を俺はいま見ている。学長はかつて最高位探索者だったと聞く。
祝福者のなかでもとりわけステータスが高いのは自明。そんな人があんな殴り方したら──俺は猫ながらに「みゃーお!?」と思わず声をあげてしまった。
助走かつ大振りの一撃。サングラスの男の顔面は強烈に打たれた。
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