制裁が必要な猫

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【本日のポイントミッション】

  毎日コツコツ頑張ろう!

 『キャットボーイは抱かれたい』


 抱っこしてもらう 1/10


【継続日数】172日目

【コツコツランク】プラチナ

【ポイント倍率】4.0倍

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 ポイントミッションはしっかり進んでいる。

 サイレントレギュレーションも読みやすい。おおよそ10人の異なる女子に抱っこされなければいけないというところだろう。

 不本意ながらこの調子で頑張っていこう。


 第一訓練棟で愚かにも俺を抱っこしてポイントミッションの礎となった志波姫を見送り、午前6時30分、俺は女子寮へ向かった。


 女子寮のまえでエレガントなマダムを発見。白人のおばあちゃんだ。箒を片手に落ち葉の山をつくっている。この人はダビデ寮長と双璧をなす女子寮寮長エリアル寮長だ。厳しい人ということで有名だ。


「あら、こんなところに猫ちゃんが?」

「みゃお(訳:やべ、見つかった)」


 植え込みの影から見ていたのに視線を気取られた。


「いけませんよ。入っちゃいけません」

「みゃーお(訳:そんなつもりはないみゃ)」

「しっし、あっちいきなさい」


 追い払われてしまった。

 猫相手にこれほどの姿勢。

 なかなか、やりよる。


 エレガントなマダムの仕事を眺めつつ、女子寮前で待機する。

 するとチラホラと寮から出てくる女性との姿があった。


「きゃぁー! 可愛い~!」

「見て見て、猫ちゃんいるよ!」


 朝練のある部活動・サークルに所属する生徒たちは、眠たそうな顔で寮から出てくるが、ひとたび視界にはいってしまえば、こちらのターンだった。


「ほら~! おいで~!」

「うっはー、可愛いねえ、もふもふだね!」

「みゃーお♪」


 女子生徒たちは近寄ってくるなり、もふもふでコロコロな俺を撫でてくれた。

 しゃがみ込むのでいろいろ見えつつ、膝に前脚を乗せて抱っこを要求する。


「みゃーお(訳:持っていいぞ、人間!)」

「見て見て、この子、抱っこしてほしそー!」

「ふわふわで、コロコロで、最高だね」


 俺の前足をもってニギニギして遊んだり、肉球を揉みこんで遊んだり、おもちゃにされることを許容しながら、抱っこを獲得、女子の腕のなかでお腹を吸われたり、頭を撫でられたり、ご褒美をたくさんもらう。


 そんなことを女子寮前でしていると、さらに女子が寄ってきて「うわぁあ! 可愛い~!」「この子すごい大人しいよ、撫でさせてくれる!」「お利口さんだねえ」とどんどん俺に構ってくれる人数が増えていく。


「この子、オス?」

「ちんちんついてるからオスじゃない?」

「みゃ、みゃーお(訳:そこはダメみゃ……)」


 俺は尻尾を足の間にはさんで隠す。猫にも尊厳がある。

 だというのに女子たちは「見て見て、隠してる!」「恥ずかしがり屋さんだ!」「ちんちん確認しよ!」と、逆に盛り上がりはじめてしまった。ひどいです。やはり人間は傲慢な存在です。

 

 猫なので抵抗することもできず、いろいろ確認されながら、抱っこされまくった。

 

 これでずいぶんポイントミッションも進んだことだろう。

 そろそろ進捗を確認したいので、女子寮前を離れようとするが、次から次へとみんなよってくる。無限湧きである。やれやれ人気者は辛いぜ。


「見て、ウチカ! この子、すごいよ、たくさんもふもふ!」


 あっ、雛鳥先輩もきた。

 あっ、俺の前足の根元に手を差し込んで持ち上げてくる。

 

「あら~可愛いねえ~、女の子に大人気でうれしいねえ~」

「みゃお(訳:いえ、あくまでミッションですので。私情ははさみませんので)」


 雛鳥先輩は俺を抱っこするなり、鼻をお腹にこすりつけてきた。素晴らしい双メロンを押し付けられる。圧。圧である。なんだこの柔らかさは。そのうえ桃色の髪に埋もれる。すごい良い匂いがします。これは前脚で踏み踏みするしかありません。


「みゃーお! みゃーお!(訳:うおおおお! 楽しいみゃあ~!)」

「見て、この子、すっごいうれしそう!」

「ウチカの胸めっちゃ踏み踏みしてる~! この子、ちょーえっちじゃん!」

「先輩方、失礼します」


 いつの間にか志波姫がいた。ど、どうして貴様がここに。

 彼女は冷ややかな目をしながら雛鳥先輩に抱っこされる俺を奪いとる。


「あ~! 志波姫後輩、私の猫ちゃん!」

「この猫には少々仕置きが必要みたいですのでわたしが預かります」

「みゃ、みゃーお!?(訳:ま、まずい! やめて、誰かたすけてー!)」

「待って、この子、猫耳生えてない!?」

「それだけじゃない、尻尾も生えてるよ!!」

「っ、待ってください、勝手に触るのは……」


 志波姫に解体処理されそうになったが、皆の意識が志波姫の可愛さに向いた。

 俺は「びゃぁああお!」と暴れて志波姫から逃れた。

 命の危機を感じながら人混みから脱する。後ろを振り返ると、雛鳥先輩をはじめ、上級生たちが目を輝かせて志波姫の猫耳と尻尾を触っていた。


「ここにも可愛い猫ちゃんいたね〜!」

「志波姫先輩の妹さんだ! いつからニャン子になっちゃったの!?」

「なにこれ凄いカワイイー! もふもふー!」


 志波姫は非常にやりにくそうだ。先輩相手なので俺のようにキツく当たらないのだろう。ゆえ困った顔をしながら触らせてしまっていた。

 おお。これはこれでアリだ。いいですぞ、先輩方、もっとやってください。

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