天才たちほど要領がよくない猫
門限ギリギリなので走りこんで男子寮の門に飛びこんだ。
ダビデ寮長は玄関で壁に片手で寄りかかって待ってくれていた。
「ありがとうございます、ダビデ寮長」
「赤谷ボーイ、今夜も頑張っているようだな」
「まぁほどほどです」
「ところで、猫の鳴き声が聞こえると密告があったのだが、まさか猫を飼っているわけじゃないだろうな」
「いや、気のせいじゃないですかね。猫なんか飼ってるわけないじゃないですか」
「ふむ。女子の声が聞こえたという密告もあるが」
「この俺が女の子を連れ込んでいるとでも?」
「あぁたしかに。それだけはないか」
「え?」
ダビデ寮長の疑いを爽やかに否定して、俺は部屋にもどった。
「まぁーお!」
部屋では茶トラの猫が玄関で丸くなって待っていた。
俺が扉を開けるなり、懐っこく足元にすり寄ってきくる。
「林道、お前はたしか意識があるとかいう話だったが……」
「まぁーお!」
「今夜猫になっちゃったのはお前なのか」
茶トラを前足の脇に手をいれてもちあげる。
猫林道を同じ目線の高さまでもちあげた。
ピンクの肉球をこちらに向けて、前足で俺の頬を押してくる。
「まぁーおまぁーお♪」
楽しそうに踏み踏みして、俺の顔を耕しはじめた。
「これも猫しぐさってやつか」
可愛い。あまりに可愛いので、こちらも吸わねば無作法というもの……と言いたいところだが、意識があると全力で猫吸いを遂行するわけにはいかない。
「いたずらしちゃダメだからな。わかったら、まぁーお一回」
「……」
「おい、わかってないな?」
「まぁおまぁーお」
「まったく仕方ないやつだ。目の届くところにいるんだぞ。わかったら、まぁーお二回」
「まぁーお、まぁーお!」
「よろしい」
猫林道を撫でこすり、猫チャージをしたあと、俺は課題にとりかかった。
勉強している最中は、猫しぐさが発動して、俺の太ももの上に乗っかってきたり、手元に移動してきて「撫でて撫でて! 赤谷!」という声が聞こえてきた。意識があろうとなかろうと、人は猫になるとみんな甘えん坊になってしまうらしい。
就寝時、猫林道は布団にもぐりこんできた。
足元から侵入し、もぐらみたいに掘りのぼってきて、俺の胸のうえで鎮座する。
「まぁーお♪」
「楽しそうで何よりだよ、林道。あんまり遊んでないではやめに帰るんだぞ」
部屋の明かりを消しても俺の胸骨を押しつける重さは消えなかった。
まぁそのうち帰るだろう。「ごろごろごろ~」と喉を鳴らしてご機嫌な猫林道を撫でながら俺は眠りについた。
翌朝、俺は寝苦しさで目を覚ました。
上から押さえつける圧力。それは猫一匹では効かない重みだ。
「むにゃむにゃ、赤谷の匂い……すんすん」
林道がいた。普通の林道だ。猫林道ではない。
彼女はかけ布団の内側で、気持ちよさそうに眠っていた。
その情報を理解した時、思わず「あぁああ!?」とデカい声がもれた。
「うわぁあ!? 何何、なにごと!?」
「何事じゃねえ! おまッ、林道、なにして!?」
目が一気に覚めた。体温がアツくなる。心拍数が急上昇する。
林道は何がなんだかわかっていない表情で、玉の素肌をさらしたままポケ―ッと寝ぼけた表情でみつめてきている。密着しているので柔らかいものの輪郭と体温がじかに伝わってきている。これはまずい!
「あっ……まぁーお! まぁお!」
言いながら林道は手を丸めて猫の前足みたいにしつつ顔の横にもってくる。そしておでこをすりすり。凄く良い匂いだ──じゃなくて!
「いや、お前……っ」
「まぁーお!」
「……。猫じゃないぞ、林道」
「まぁお?」
林道は疑問符を頭のうえに浮かべる。
自身が顔の横にもってきた拳に気づいた。愛らしい猫のものじゃない。
握ったり、開いたり、再び握ったり。それが自分の手だと確認できたみたいだ。
「あっ……うわぁぁぁあああ!?」
自称猫はカァーっと頬を赤くして、隠すべき場所を隠すため抱き着いてきた。
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