暗黒の特異点
ボス部屋の前にいくと、白い霧に白い文字があった。
『フロアボス:ポメラニアンキリン』とのことだ。
ポメラニアンなのかキリンなのかはっきりしてほしい。
俺は周囲にアノマリースフィアと鋼材鉄球をはべらせながら、暗い円形闘技場に足を踏みいれた。
闘技場には自然が存在していた。木々が生い茂っているのだ。
文明が滅んだあとの終末世界で、建築物が風化し、森の一部に還ろうとしているみたいな、そんな退廃的な気配さえあるフィールドだ。
ボス部屋のなかには気配が複数あった。
木々の向こうへ視線を向けても飛び出してくる様子はない。
俺は気にせず、闘技場のまんなかで高木の草をはんでいる怪物へ近寄っていく。
むしゃむしゃむしゃむしゃ。そいつは背が高かった。
頭の高さは地面から15mほどの高度。顔は可愛いポメラニアン。
白くてふわふわでもふもふ。四つの足があって蹄で地を踏みしめる。
ここまでならばポメラニアンでキリンだろう。
立派な縦長の首には無数のポメラニアンの顔がある。これはポメでもキリンでもない。ただの気色の悪い化け物だ。
「どうしてそうなっちゃたんだ?」
「「「「「「ポメエ……」」」」」」
キリンの巨体に閉じ込められた頭のポメラニアンたちは、虚ろな表情のものたちが多かった。でも、中にはまるで「ここから解放してくれぇ……」とでも言わんばかりに、苦しみ悶えているような表情を浮かべている者たちもいる。
「……いや、本当にどうしてそうなっちゃったんだ?」
「「「「「「ポ、メェ……」」」」」」
体育祭でもいろんな進化系を見た。
ケルベロスだの、グリフォンだの。
ポメラニアンって不思議な進化形態をたくさん持っている。
生命の神秘ってやつかな。
「まぁでも、イーブイもいろいろ進化するもんな」
納得しているとポメラニアンキリンはべっ! とつばを吐いてきた。
オートガードが発動し、鋼材がそれを防いだ。
ジュウゥゥ。
嫌な音がする。
鋼材の位置を手動操作にきりかえて、つばを吐きかけられた面を見やる。
煙とともに鋼材が溶けていた。
「うわぁ……そういうこともあるかぁ」
思わぬ弱点だ。
酸属性ですか。
「ポメえ! びゅっ! びゅびゅ!」
まさかの酸属性ポメラニアンは、非常に高い位置からつばをはきまくる。
俺はオートガードを一時的に解除。足をつかって攻撃を避けた。
鋼材は溶けても、『筋力で金属加工』すれば形状が戻る。なので実質損失はほとんどない。でも、なんか嫌だった。
『スーパーステップ』の踊るように攻撃を避けていると、肉体にとらわれているポメラニアンたちが奇声をあげた。甲高い音だが、たぶんポメと鳴いているのだろう。
木々の間から飛び出してくるのはポメラニアンキリン。
別固体。さっきの気配の正体か。
縦長の首を想像以上に柔軟に動かし、地を這う蛇のようにかみついてきた。
せまる化け物の顔。
俺は地を蹴り、離れながら軽く握った拳を打った。
『スーパーステップ』+『フリッカージャブ』
近接戦闘能力として完成したひとつの型。
当てることを目的とした高速のジャブ。
避けるのが困難なこのジャブに付与されているデバフ効果は次の通りだ。
『筋力により形状に囚われない思想』 動きをかたくする
『浮遊』 身体が浮く 初見で制御はほぼ不可能。
ポメラニアンキリンがふわふわ浮き出した。はい、終わり。
「空中機動ができなきゃだいたいこれで詰みだが……何かあるか?」
「ポメエ……っ!」
俺にとって戦いとは学習の過程だ。
特に疑似ダンジョンなんかはそうだ。
自分の戦術を押し付ける。重要だと思う。
相手にやりたいことをさせない。とても重要だと思う。
実践ではそっちのほうが勝ちやすいだろうし。
でも、押し付けるばかりでは対応力は磨かれない。
だから、訓練では俺がくりだした手札に対応する札があるのか確認する。
もしあるのなら知識としてもっておく。こういう返され方もされるかもしれないと、後学のためにもっておく。
これが赤谷誠流の疑似ダンジョンの使い方だ。
ポメラニアンキリンとの戦闘開始から10分ほど。
ボス部屋のなかに潜んでいた合計、3匹のポメラニアンキリンの攻撃をくぐりぬけ、俺はこの怪物の手札がもうないと判断した。
「ありがとう、ポメ。それじゃあ死のうねぇ」
放たれるアノマリースフィアは二球。
胴体に風穴が空いて崩れ落ちるキリンは2体。
残る一体のもとへ、俺は己に付与した『浮遊』で身体を軽くし、一足飛びに接近、そして、その長い首に両手をやさしく添えた。
『膂力強化Ⅱ』+『筋力増強』+『筋力で圧縮する』
手を添えた地点、俺の両手の間に
力場の原点はポメラニアンキリンの首の中。直後、巨大な力が作用。
キリンの首、その中間に球体状の歪みが出現する。まるでそこだけテクスチャのバグを起こしたかのように、歪みは加速し、ボォン! と音をたてて消えた。
力場の原点には拳台ほどの肉塊があるばかりだ。
だるま落としで中間を先に叩いてしまったみたいに、首の中継地点が消失し、そこからうえがポトンと落ちた。
こいつが新しい必殺技。最近のお気に入り。
『浮遊』によって俺の体重が軽くなり、攻撃力がさがるデメリットを受けない近接技──『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます