疑似ダンジョン30階
安い『膂力強化』と高級『膂力強化』を組み合わせるとスキルが変化した。
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『膂力強化Ⅱ』
アクティブスキル
全身の筋力を強化する
【コスト】MP200
ええ 特別な仕掛けは必要ありませんよ
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エクセレント。これでいい。
【コスト】もあがった。すなわちスキルパワーの上昇が期待できる。
望んでいた結果が得られてとても満足した。
「いつものメニューいっておくかぁ」
時計を見やれば、一日の終わりまで時間がありそうだった。
俺は支度をしてから第一訓練棟へと足を運んだ。
新しい力を馴染ませる。地味だが大切なことだ。
訓練場で1時間ほど『膂力強化Ⅱ』の様子をたしかめた。
「だいたいこんなもんか」
俺はボロボロになった訓練場をでて、その足で疑似ダンジョンへ向かう。
ゲートの手前で設定をおこなう。推定30階相当である。
そこはダンジョンの深層領域とされている。
赤谷誠の学生証を機械にかざす。
画面には最高到達階層『29階』と表示される。
資格がなければゲートは挑戦者の生徒に扉を開けることはない。
疑似ダンジョンがヴヴゥゥ……と唸りだした。俺の入場を許可してくれたようだ。
その間に己に『自己復元』を使用する。
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『自己復元』
アクティブスキル
自分の体力を完全回復する
【コスト】なし
【リミット】1日1回
まだまだ頑張れるだろう?
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ステータスで志波姫の尻尾で削られたHPが回復していることをチェック。
ゲートが開いた。天然洞窟のような様相が視界にひろがった。
「ポメえ」
入り口から進んで100mくらいの地点。
すでに見える場所に巨大なポメラニアンが鎮座していた。
俺は歩きながら近づく。指でスケールをはかる。デカい。つまり強い。
近づくとそのデカさが見間違いじゃないとわかる。
そのポメは俺の身長を優に越す上背をもっていた。もふもふの毛並みからは、なんだか禍々しい赤いオーラがでている。それに熱い。もう秋だというのに、猛暑日みたいな暑苦しさを感じる。お目目はポメらしく黒くつぶらで、大福のうえに乗っかっている黒い豆みたいだ。こういうところは可愛らしい。
腐ってもポメラニアンの誇りは捨てていないということだろうか。
「ほ~ら、こっちにおいで、良い子、良い子、良い子だよ~」
「ポメえ~!」
「よーしよしよし、もっと近くにおいで、この手で捻り潰せるほど近くまで」
「ポメめー!!」
赤オーラポメラニアンがたちあがり、牙を剥いて駆けだした。こやつ人の言葉がわかるのか!? 戦闘態勢へ移行しようとする。どう戦おうか、牙か? それとも爪か? あるいは尻尾? なにでくる? なんでも対応してやる。
そう息巻いていたら、ポメは急停止した。
口から火の弾を吐きだした。まさかの第四の選択肢。
恐いやつだ。眺めていると、『もうひとつの思考』くんがスイッチを押した。
カチッ。オートガードが作用して『重たい球』が2コがビュンっと動いて、金属の盾が展開され、火の弾を塞いだ。
視界が金属の膜によりふさがる。
オートガードの持続時間が終わった。
盾解除。視界が再び、ひらけた。
赤オーラポメラニアンはそこにいなかった。
カチッ。今度は背後へ異常金属の盾が展開。
火の弾が弾けて消えた。頬を焼く熱量。赤赤と燃ゆる火花。
「はやいね~、偉いね~、すごいね~」
「ポメえ~!!(威嚇)」
「思うに火属性のポメだな? 志波姫が言ってた属性ポメってお前のことか」
学校には疑似ダンジョンについていろいろな噂がある。
疑似ダンジョンは本物のダンジョンで死ねば終わりだとか、疑似ダンジョンにはゴールが確かに存在するとか、属性をまとったポメラニアンを見た、だとか。
「深い設定でだけ出現するレアポメってわけか」
火ポメの続く3手目。火の弾。
俺の3手目。オートガード。
「このやりとり、意味ないぞ。俺のリソース消耗は微々たるもんだ。これじゃあ頭もオーバーヒートしないしな」
嘘だ。実際、『筋力で金属加工』とか『筋力でとどめる』とか『再現性』とか、常時展開の『もうひとつの思考』とかで高くついてる。相当な浪費だ。
「ぽめえ~、ぽーめーっ!」
火ポメはふわふわの毛並みを逆立てる。
巨大なエネルギーを集約しているようだ。
最大の攻撃がくる。
俺は片手を向ける。
火ポメの口から恒星と見間違うほどの輝きがあふれでる。
来る──そう思った時には、ダンジョン内の気温が一気に上昇していた。かすめるだけで洞窟内の壁と床が溶解する熱線が伸びてくる。
当たれば最後、骨すら残るまい。
これが本当に生徒の安全の保障されている疑似ダンジョンなのでしょうか。
しゃーない。ポメラニアンは素手で千切るのがこの赤谷誠の教義だが。
ひとまずこれで──様子見かな。どうするかね、30階のポメラニアン。
『筋力の投射実験』+『筋力により形状に囚われない思想』+『瞬発力』+『膂力強化Ⅱ』
俺は空気を押しだした。
耳を破くようなつんざく悲鳴が響きわたった。
空気の壁が千切れた。衝撃波がダンジョン内をかけめぐる。
足元に亀裂がひろがり、壁が割れて、天井が崩落。
俺の正面、疑似ダンジョンの岩壁には抉れた痕跡と血のシミがあった。
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