にゃんにゃんパニック6
激動の夜、俺の猫化は無事に解けた。
志波姫と林道とヴィルトは俺のシャツを羽織ったあられもない姿でいた。
とりあえず風呂場に放り込まれ、服を着たのち、最初に聞かれたのは記憶の有無だ。
「まったく記憶にないな。猫になっていたようなふわふわした認識はあるが……あの3匹の猫はどこにいったんだ?」
俺は可能な限り険しい表情をしてあたりを見渡した。みんなの服装がセンシティブすぎて、心が落ち着かない。
「赤谷君、本当に記憶がないの?」
「どうしてそんなことを疑うんだ?」
「ただの確認よ」
志波姫は肘をだき、肩にかかった黒髪をはらう。
このなかには記憶ありのやつもいる。もしかして俺が嘘をついてるとバレているのだろうか。
俺はドキドキしていたが、幸いにも探り合いには発展しなかった。
志波姫もヴィルトも記憶はない。それでいいんだ。猫志波姫をお風呂にいれて体を洗ったりお股にシャワーをあてたこととか、猫ヴィルトの毛並みを魂を吸い取るくらい吸引したことは誰の記憶にも残らない。それでよいのだ。
翌日。
にゃんにゃんパンデミックは、薬膳先輩を風紀委員長・灰星先輩につきだすことで一件落着した。
「お縄につくんだよ、マッドサイエンティスト」
「うわぁあ! いやだぁ! またぶち込まれるというのか!?」
罪人は抵抗を試みたが、正義のバットがそれを許さなかった。
異常性のあるアイテムの乱用および公務執行妨害により『反省部屋』での懲役10日は固いとのこと。
「馬鹿な! こんなのおかしいぞ! 同志赤谷、なんとか言ったらどうなんだ! お前、良い思いをいっぱいしただろう! 俺には恩があるはずだ! にゃんにゃんしたんだろう? その仕打ちがこれか!?」
なんか言っていたが、俺は記憶がないので答えようがない。そう、記憶がないのでな。
にゃんにゃん病については、治療薬をつかって即座に直すことは理論上可能ではあるはずだが、抵抗反応で猫化を誘発する可能性があるため、もはやしばらく待って自然治癒に努めるのが最善だと判断された。
念のため俺の飲んだものと同じで、猫吸いしても伝染しないように病の感染力をおさえる抑制剤だけ、俺以外の3名も服用することにはなった。
夜、訓練を終えて部屋にもどると、またにゃんにゃん病が発症したらしく、志波姫キャットが俺の部屋にもぐりこんでいた。
「志波姫、また来たのかよ」
「にゃっ!」
「そうだった。いまのお前は志波姫の意識がないただの猫ちゃんなんだったっけ。それじゃあたくさんもふもふしても、志波姫みたいに反撃はしてこないよな?」
「ニャア……」
意識がないであろう志波姫をぎゅーっと抱きしめもふもふ吸引しておく。
「ぷはぁ、たまらないな、志波姫もふもふするに限るぜ」
「ニャア~」
「それにしてもなんで俺のところに来るんだ? 意識がないのに俺を俺と認識できるのか?」
うっすら記憶があるって言ってたし、何らかの本能的な傾向で俺のもとにやってきてるとかなのかな。
それともこの部屋の窓だけ、ツリーキャット用に開け放たれてるから入りやすいとかか?
窓のほうを見つめていると、美しい銀猫も姿をあらわした。ヴィルトキャットだ。
「お前も来たのかよ。やっぱり、立地なのかな」
「にゃーご!」
ヴィルトキャットも意識ない系の猫なためか、俺を見るなりスタタターっと寄ってきてスリスリしてきた。
抱きかかえでノルウェージャンフォレストキャットみたいな凄まじい毛量をもふもふする。もふもふ過ぎて顔が離せない。なんというもふもふ力なんだ。
「にゃっ!」
「痛っ、わかったって。はいはい、志波姫はほかの猫に構われるのが嫌なんだなぁ。そっちももふもふすればいいんだろう」
「ニャア~♪」
この猫たちはもふもふされるのが好きらしいく、積極的に俺にくっついてきた。
コーヒーをいれたり料理をしているときも、足元でにゃーにゃーとじゃれついて「構ってくれー!」と主張してくるし、勉強してるときは当然手元にやってきて「撫でろ!」と命令してくる。ベッドに入れば、もちろん2匹ともやってきて「温めろ!」と布団にもぐりこんでくる。
「お前たちもしかして意識あったりするんじゃないか?」
「ニャア?」
「にゃーご?」
俺は2匹のキャットをじーっと見つめる。
どちらも可愛らしい顔を向けてきている。
小首をかしげてみせた。かあいい。あまりにもかあいい。
「でも、流石にないか」
「にゃっ!」
「にゃーご~」
「あれ、お前たちどこに?」
しばらくすると、2匹のキャットは帰っていった。
まるで「そろそろ人間に戻ったらまずいから、今のうちに帰っておこう」とでも言ってるみたいな。
でも、そんなわけないか。それは明確に意識がないと出来ないことだろうし。
ワンチャン、朝起きたら裸体の美少女に囲まれている展開があるかな、と思ったりもしたが……神様はそこまで甘くはしてくれないらしい。
翌朝。
「おはよう、赤谷君」
「……ぉ、おう」
教室棟まえで志波姫にばったり会う。
頭に猫耳と尻尾が生えている。周囲の生徒が色めきたち「志波姫さまにお耳が……!?」「尻尾も生えてる!?」「しかもゆらゆら動いてるぞ……!?」「尊すぎます。ありがとうございます」とざわざわとして注目している。
「志波姫、お前、耳が……」
「昨晩からずっとこうよ。休もうと思ったけれど、安定しているようだから、登校したわ」
「はぁ。そいや、お前昨夜も俺のところ来てたぞ」
「そうなの? まったく気づかなかったわ」
志波姫は肩にかかった黒髪をはらい、ツーンっと澄ました顔をする。得意げで自信に満ちた表情。
猫耳と尻尾のせいで可愛さが圧勝してることに気づいているのだろうか。赤谷は疑問です。
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