にゃんにゃんパニック4
例えばだ、例えば、この目のまえにいる可愛い猫たちがあの3人だとしたらどうなる。
もし仮に俺が猫化したときよ同じように、意識があるのだとしたら。
俺が林道のパンツ見て喜んでたり、ヴィルトの胸を肉球でふみふみして喜んでたり、志波姫にたくさん可愛がられてご機嫌になってたように、彼女たちも自由意志のもと、俺にたくさん甘えてきていることになるのか?
いや、それはないか。
あぁ、ありえないことだ。
だってそうだろう。
にゃんにゃんパンデミックに感染して猫になったところまではまあ、良いとする。
でも、そのあとのデレデレにゃんにゃんモードの説明がつかない。
林道もヴィルトも志波姫も、こんな俺ににゃんにゃんする理由がない。
そうだ、ありえないことだ。
論理的に考えて、ありえないことなんだ。
でも、もし、もしだ。
もし仮にこの猫たちがあの3人だとしたらどうなるかも、一応、考えておこう。
えーと、まず俺がみんなの太もものうえでにゃんにゃんしたり、抱っこされて喜んでおとがバレる。死刑。志波姫にいたっては「にゃーにゃー」って話かけられていたことが、完全にバレる。終わり。そして、たしか俺は美猫には「志波姫みたいで可愛い」とか言って、たくさんなでなでしてた気がする。もう詰みだ。いろいろバレた。最悪すぎる。
考えれば考えるほど、すべての状況がかつてないほどの最低値を記録することがわかってしまった。震える。悪夢のようだ。俺がなにをしたっていうんだ。そんなに悪いのか。猫になって女の子たちに甘えただけじゃないか!
落ち着け。
冷静になるんだ。
まだ終わっていない。
これは仮定の話だ。
そして、もし仮定が仮定じゃなかったとしても、俺には生き残る手段がのこされている。
真実に気づかないふりをするのだ。
そもそも、志波姫たちがにゃんにゃんパンデミックに感染した経路の猫が、俺だったとは限らないじゃないか。そう、言い訳の論理を構築しろ。まだどうとでもなるはずだ。
「はぁー、しかし、大変だな、俺含めたにゃんにゃん感染者はたくさんいたけど、あれが広がってるとなると、あー大変なことになってるんだろうなぁー」
論理その1。俺以外にも猫化していた者がいることのアピール。感染源が俺ひとりに限定されなければ、俺と猫谷誠の関係性を誤魔化すことができる。
「猫になってずっと部屋に籠ってたけど、ほかのやつらは出歩いてたのかなぁー」
論理その2。猫化してた時は、外を出歩いてませんアピール。これにより俺と外を自由に出歩いていた猫谷誠が別人だと印象付ける。
「まぁーお!」
茶トラが疑いの眼差しをやめて、俺にこすりついてきた。
見たまえこの甘えっぷり。俺の論理法が功を奏したのかはわからないが、もし仮にあの3人だとしたら、薬膳先輩が語った事実を知ったうえで、こんな甘えてこないだろう。
「よーちよちよち、可愛いみゃあ~」
ん? みゃあ~?
「なんで語尾がみゃあにみゃあ、みゃ、みゃみゃぁ~!?」
茶トラをもふもふしてると、どんどんと身体が変化していくことに気づいた。
視界が急速にさがっていき、視野角が変化し、身体が液体のように柔らかくなり、四足で大地をつかむあの感覚がもどってくる。
「みゃあ!(訳:また猫になった!? ええい、猫耳と尻尾が生えたのは再び、猫症状が発症する前兆だったのか!)」
「まぁーお」
「みゃ……」
モフモフしていた茶トラが俺のことをスンっとした顔でみてくる。
俺が築いた論理その1と論理その2が瓦解する音が聞こえてきた。論理破綻。
そのまなざしですべてを悟った。「あの時の猫やっぱり赤谷なんじゃん」って言っていることを。
冷汗がとまらなかった。猫は肉球しか汗をかかなくて助かった。きっとびしょびしょになっていただろうから。
俺は高度な計算で、自分の生き残る可能性を調べ、結果、走りだした。
とにかく人間になって冷静に話あう! そういう風に声高らかに「みゃみゃーお、みゃあ!」と叫びながら、開かれた窓を目指す。
まわりこまれた美猫は俺のまえにたちふさがり「にゃっ!」と猫パンチで牽制し、俺の顔をボクサーの左ジャブみたいに叩いて足をとめさせた。
後ろから銀猫と茶トラが追いかけてきて、俺の身体に組み付いてくる。
逃がさないにゃ! そう言っている気がした。明確な理性を感じる。
これはもう疑いの余地がない。完全に人間の思考力を有したにゃんこたちだ。
「みゃ、みゃあ! みゃあ~!(訳:は、話せばわかる! 落ち着けみゃ、落ち着くんだみゃあ!)」
「にゃっ!(訳:赤谷君、あなたには聞くことがたくさんありそうね)」
「まぁーお、まぁお!(訳:さっきやたら説明口調でわざとらしく喋ってたのって誤魔化そうとしてたんだ! 私騙されてまた甘えちゃったじゃん! 赤谷、それは小賢しすぎだよっ!)」
「なぁーご(訳:エロ猫。本当にいけない男の子なんだ、赤谷は。たくさんお仕置きが必要だね)」
3匹のメス猫はそれぞれで何かを訴えてきてそうだったが、俺にはなにを言ってるのかはわからなかった。わかるのは俺はもう逃げられないということだけだ。
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