にゃんにゃんパニック2

 もふもふの銀色猫は俺のもとまでのそのそ歩いてくると、じーっと見上げてきた。

 大変美しい猫で、今腕のなかにいる茶トラちゃんと比べると聖なるオーラみたいなものがある。

 なんだろう、神殿とかから使わされた神のにゃあだったりするのだろうか。


「まぁーお!」

「なぁご~」


 茶トラは俺の腕のなかから、銀色の猫に話しかける。

 銀の猫はふっくらした尻尾をゆらゆらさせながら返事をしている。


 やがて、銀の猫はしゃがんで、身体のバネをためはじめる。

 猫がジャンプしそうな時って雰囲気でわかるが、それである。


 ぴょーんっと跳躍すると、俺の腕のなかに飛び込んできた。

 俺はちゃんと受け止めてあげた。


 両手に猫。なんて幸せなんだろう。

 ふたりとも腕のなかで暴れることなく、俺の顎におでこをこすりつけてくる。

 なんかわかんないけど可愛いしぐさだ。

 

「まぁ~お~!」

「なあご!」


 ごろごろ喉を鳴らす猫どもを吸引し、そのまま魂を吸いだすほどに猫吸いし、もふもふしまくる。

 茶トラをもふれば、銀猫がにくきゅうでてしてし叩いてきて「こっちも構って!」みたいに主張をしてきて、銀猫に構えば今度は茶トラが甘えてくる。


 なんでしょうこの天国は。

 俺は可愛い猫たちを拾うことにした。

 もちろん、ポイントミッションのためである。


 朝のトレーニングを終えて、日々の今週やった授業の範囲をかるくおさらいする。

 こうしておくことで記憶の定着率が変わる。授業を真面目に聞く。その日のうちの、ノートを見返す。ほんの2分程度時間をとるだけでいい。そしてこうして週末にもう一回、数分時間を割いて、内容を刷りこみなおし、リマインドをする。


 眺めるだけで十分な効果がある。労力と結果のコスパが良い勉強とは、日々の習慣によって会得できるものなのだ。勉強が下手なやつはここがわかっていない。


「まあーお!」

「なぁご!」


 勉強していると猫たちが割り込んできた。

 タブレットのメモを見返していると、タブレットのうえに座ろうとしてくるのだ。尻尾がピンッと経っているので、顔面に棒があたってるみたいでわずらわしい感じがする。


「まあ~お」


 構ってくれーって言われてる感じだ。無視しようと思ったが、3秒で折れた。

 漬け汁で野菜を揉みこんで、漬物をつくるみたいに茶トラの柔らかい身体を揉みまくる。この子はすごいかまちょだな。少し目を離されると我慢できないらしい。

 

「なぁお~!」

「今度はお前か」


 銀猫は両足でスッとたって、俺に寄りかかるようにたつと、顔の高さをあわせてきて、俺の鼻先をぺろぺろ舐めはじめた。なんでこんな懐かれてるんだ。好かれた理由に身に覚えがないが、とんでもない甘えん坊さんだ。


「よちよちよちよち~」

「まぁお!」

「なあ~ご!」

「にゃっ!」

「痛ッ!?」


 足元に鋭い痛みが走った。

 見やれば美猫が俺の足に爪をたてていた。

 

「いったいいつの間に帰ってきて……いててて!」

「ニャア」

「なんだよ、なんでそんなご機嫌斜めになってるんだよ……!」


 もしかしてほかの猫を甘やかしているせいか?

 そういえばこの子はツンデレさんだったが……。


 3匹の猫はみんな俺の勉強机にあがってきて、それぞれ顔を見合わせる。


「にゃっ、ニャア~!」

「まぁーお!」

「なぁおなぁ~ご!」


 可愛い。あまりにも可愛い。

 まるでお喋りしてるみたいだ。


「うんうん、仲良しだな、可愛いなぁ」


 ──猫林道の視点


「まぁーお!(訳:うわあ!? なんで私、猫になってるのー!?)」


 朝起きて、林道は鏡のまえで己のほっぺを肉球でもちもちさせ、あまりにもプリティになった自分に驚愕していた。


「まぁおまぁーお(訳:すごい、完全に猫ちゃんになってる……どうしてこんなことに? なんの病気だろう?)」


 林道は悩んだが、ポジティブな彼女は「猫になっちゃうなんて貴重な体験かも!」と状況を肯定的にとらえた。

 優れた適応力でにゃんにゃんライフを謳歌することにした彼女は外にでて、そして、赤谷誠を見つけた。


「まぁお!(訳:赤谷だ! 私のことわかるかな?)」


 赤谷は林道が猫になっていることに気づく気配すらみせなかった。


「まぁーおまぁーお(訳:えへへ、すごい可愛がってくれる。猫だとこんな優しくしてもらえるんだ! 案外、猫として生きるのも悪くないかも!)」


 猫として赤谷をひとり占めできることに気づいたあとは、林道はとてもご機嫌だった。しかし、すぐにライバルがあらわれる。銀色の神々しい雌猫だ。


「なぁーご(訳:なぁご、なぁーご)」

「まぁお(訳:猫同士って別に言葉がわかるわけじゃないんだ! なんだかこの子、赤谷にすっごく興味があるみたい)」


 銀色の猫はあきらかに赤谷に懐いており、においをつけてマーキングしたりと、林道としては看過できないことをしはじめる。


 かくして赤谷こすりこすり大会は火ぶたを切った。

 

「まぁーお! まぁお~!(訳:可愛い猫ちゃんだけど、私負けないよ! 猫になった時くらい赤谷にいっぱい可愛がってもらうんだ!)」


 林道の懸命のこすりこすりだったが、銀色の猫も負けていない。

 もふもふさと魅惑のにゃんにゃんボディで赤谷を惑わす。


 赤谷が勉強をはじめようと、所有権争いは加速していき、ついにはどこからともなく第三のにゃんまで現れた。


「にゃっ!」

「なぁ~ご!」

「まぁおまぁーお!(訳:ちょっと! なんなのこの子たち!? 赤谷は私のなんだからそんなにくっつかないでってば! もう!)」


 熾烈なにゃんにゃんバトルは加速していく。




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