天才たちの秘宝
この1週間、奇妙な箱は、剣聖クラブのちいさな話題の種でありつづけた。
志波姫は毎日のように解錠魔術を練習してきて、たびたび箱開けチャレンジをしていた。ことごとく失敗するうちに、すこしずつ不機嫌になっている気がして、俺は心穏やかではなかった。
俺は筋肉の力で箱をこじ開けようとした。
スキルでも開こうとした。
どちらもうまく行くことはなかった。
高度な保護系で守られているのは明白だった。
ヴィルトは箱の中身のことなど考えず、コインで箱を破壊しようと撃ったことがあった。
だが、奇妙な箱はコインの威力をそのまま跳ね返した。殺人コインは部室中を跳弾して、危うく林道に風穴があきかけたので、すぐにヴィルトの箱開けチャレンジには禁止令が発布されることになった。
「うぅう、恐かった……っ!」
「ごめんね、琴音」
それが俺たちの1週間の軌跡。
2学期も2週間目に入る。
剣聖クラブにやってくると、林道が杖で挑戦している姿があった。
「なにそれお前も買ったのか?」
「まあね」
「志波姫に開けられないものをお前が開けられるとは思えないが」
「いや、それはそうなんだけど、なまずん、決めつけよくないよっ!」
林道としては何やら自信があるようだ。
その顔から真剣さがにじみでている。
「へっへーん、今日はすごいものを見せてあげるからね!」
「期待しないで待ってることにするわ」
皆が揃ったあと、林道は満を持して箱を開けた。
志波姫もヴィルトも驚いた様子だ。
「第二解錠魔術だったんだよっ!」
「第二解錠魔術?」
「普通の解錠魔術は2年1学期に履修するやつで、第二解錠魔術は3年3学期で履修するやつっ! より高度な解錠魔術じゃなければ開かないようになっていたってこと! 仲の良い先輩が教えてくれたんだぁ~」
なるほど、志波姫にはできない情報収集だな。
「でも、林道さん、あなた第二解錠魔術を習得したということ?」
「ん、あー、うん! なんかできた!」
「そう。あなた才能あるのかもしれないわね」
「えへへ、そうかなー? 向いてるかな?」
「向いてるわけないと思うけどな。このなかで一番知力低そうなのに」
「あっ! 誹謗中傷! 赤谷だってたぶん馬鹿そうなのに!」
「愚か者め、俺は期末テスト学年順位19位だぞ。ん? この19位の赤谷に挑むというのか?」
「そうだった……っ、赤谷ってけっこう勉強できるんだった……うう、ごめんなさい、19位さま……!」
林道はがっくりと肩を落とす。
「これ見て」
志波姫は箱から便箋をとりだす。
一通の手紙がはいっていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『お見事
よくぞこの箱を開けた
試練を突破した者には
我らが合作に挑む権利を与える
魔導士クラブと剣聖クラブの傑作
怪物をある部屋に封印した
未来の剣聖クラブ部員よ
おおいなる力が欲しいかね
ならば見つけるといい
鍵はこちらの箱にいれた
もうひとつの箱には地図がある
健闘を祈る
スーパーダークエンペラー&
暗黒の魔導士&白亜の疾風より』
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
なんかすごく痛々しい連中からの手紙だった。
「なんだこれ?」
「かつての剣聖クラブ部員がのこしたものみたいね」
「でも、剣聖クラブって部員ゼロだったんだよね?」
「これ残したやつらはもう卒業したんじゃないか?」
俺は手紙をのぞきながら持論をのべる。
林道はポンッと手を打って「なるほど!」とつぶやいた。
「やっぱり、これは剣聖クラブに伝わる宝箱だったってことだ!! ほらどうやらもうひとつに箱には地図があるらしい、この鍵と地図があれば、宝にたどりつけるんだよ!」
林道は箱から鍵をとりだす。
幾何学的な凹凸がたくさんある棒状の鍵だ。
この特徴的なカギがささる扉は何個もないだろう。
「宝探しにいこっ!」
「怪物が待ってるとか書かれてるけどな」
なんだか危ない空気を感じる。
「ね、行こうよ、ひめりん、ヴィルトさん!」
「まあ気になるには気になるし、わたしは構わないけれど」
「うん、行こう。わくわくしてきた」
志波姫もヴィルトも林道にやや甘いですね。
流れで俺もついていくことになったので、一応、荒事への備えをしておくことにした。
「この魔導士クラブって場所にいけば、なにか知ってるやついるんじゃねえか」
「赤谷君にしては冴えてると思うわ。目につく手がかりから追っていきましょう」
というわけで、同じ階にある魔導士クラブの部室前にやってきた。
ノックすると中から返事がかえってくる。どうやらご存命の部らしい。
「クックック、よく来たな! 『闇夜の騎士団』に入団希望かな!」
黒いローブをまとった福島が元気に飛び出してきた。
「おお、弟子! ようやく顔をみせる気になったか!」
「福島、お前ここでなにを」
「師匠、だよ」
「あい。師匠、それじゃあここでなにを」
「ふふん、わからないかね、弟子、ここは我ら『
そういや、この前会った時、拠点だとか本部だとかなんか言ってたような気がする。
「魔導士クラブってここじゃないのか」
「登録名は魔導士クラブだっ! しかし、それは古き魔導士たちの名。この部屋はすでに『
「となると、お前は知らなそうだな……」
「ん? 弟子よ、なにか困りごとかな?」
「福島さん、これ見て、私たちいま学校に隠された秘宝を追ってるんだけどさ!」
林道が福島に手紙のことを話す。学校に隠された秘宝。その言葉に福島が興奮しないはずもなく。
「す、すごい、学校に封印されし怪物……っ、先代がのこした
非常に喰いついてきた。
「実はもとからこの部屋に残されてたものがって、えーっと、ちょっと待って! 準備室にいろいろあったんだよね」
福島は素にもどりつつ、奥にひっこんでいき、俺たちもそのあとにつづく。
魔導士クラブの奥にはひとつ扉があり、そこから隣の準備室に繋がってるようだった。
「あった! これ!」
福島がようやく見つけだしたそれは、俺たちが剣聖クラブの床下で発見したものと同じ雰囲気の金属製の箱だった。
林道は出番がきたとばかりに「おっほん!」と咳ばらいをひとつして、第二解錠魔術で箱を開けた。
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『お見事
よくぞこの箱を開けた
試練を突破した者には
我らが合作に挑む権利を与える
魔導士クラブと剣聖クラブの傑作
怪物をある部屋に封印した
未来の魔導士クラブ部員よ
おおいなる力が欲しいかね
ならば見つけるといい
こちらの箱には地図をいれた
もうひとつの箱には鍵がある
大いなる試練に備えよ
スーパーダークエンペラー&
暗黒の魔導士&白亜の疾風より』
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同じ調子の手紙だ。
そして箱のなかに、たしかに紙の地図が入っている。
「第一訓練棟の地下訓練場……の099号室?」
「この建物ね」
地下訓練場にやってきた。
いつも使ってる105号室を抜けて奥へ進む。
どれだけ探しても099号室なんて部屋は存在しなかった。
「100からはじまって、奥に進むほど、順番に数字が増えていくのに……099号室なんてあるわけなくない? 地図っていってるのに謎解きだし」
林道はヒントに不満そうな声をだす。
まあたしかに。地図と言っておきながら、答えではなく、ヒントしか載っていないというのは嘘つきではある。
「奥にいくほど数字が増えるのなら、手前に行けばどんどん数字はちいさくなるんじゃないか」
「へ?」
俺は後ろをふりむく。みんなも同じように背後の壁をみた。
そこはなにもない黒い壁だ。
俺は手をついて撫でる。
壁がぐにゃんっと形状を変化させ、下方へ続く階段があらわれた。
スキルで道をこじあけてしまったが、これ正解なのかな。
「赤谷、すごっ!?」
「流石は弟子! 機転が利く!」
まあ開いたし、ええか。
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