圧倒と葛藤
『花火草の会』は、コーディ・スミスと縛堂つぼみが放つ銃弾をかいくぐり、手にした剣で彼らを斬りかかった。
黄金の時計リボルバーはコーディが特に最近気に入ってつかっているものだ。
面白くない武器とはそれだけで良いものにはなりえない、と独創性への崇拝にも近しい思想をもつコーディ謹製銃はユニークな特性をもっている。
「さっさと6発撃ちきりやがった!」
コーディの銃がリロードに時間を要し、残弾数もわかりやすいリボルバーであることは、花火草の会の無法者たちに、攻撃のタイミングを正確に伝えていた。
「スミス、てめえはいつも一流、一流、言いやがってうぜえんだよ」
「ただの七光り御曹司のくせに」
「前から気に食わねえと思っていたんだ」
向かってくるのは3人の生徒。金持ち、高飛車、言動がいちいち見下してきてる気がする、さらにイケメンで高身長という、恵まれすぎているコーディ・スミスは鼻につく男だった。ゆえに恨みもそれなりに集めていた。
コーディは残弾ゼロのリボルバーの銃口を、ひとりへ向け引き金をひく。すると時計リボルバーから黄金の熱線が一筋を描きだし、生徒をひとりぶっとばした。
「なっ!?」
「ビーム!?」
「熱蓄積。6発撃つと1回ビーム撃てるんだ。君たちと僕の武器はちがうんだ」
想定外の熱線でひとりしばかれ、動揺する2名、うち1名をコーディは長い足で蹴り飛ばすと、腰裏のベルトに挟んで隠し持っていた小型の単発式ショットガンを抜いて、残りの1名へ至近距離で発砲、容赦なくふっとばした。
その横では縛堂が気持ちよくガトリングを撃ち続けている。
花火草の会は恐怖に駆られた。あれ、俺たち殺されるんのか? と。
「やりたい放題か、あいつら!?」
「風紀委員め、去年まで銃は使いませんみたいな顔をしてたくせに……!」
「暗黙の了解だっただろうが……!」
「ぼくたちみたいなのが出てきてる時点でわかるだろう。無法生徒が増えてきて、学園の秩序維持に問題がでてきている。パワーバランスはとらないとね」
縛堂は言いながら、内蔵式のガトリングがくるくる回転するばかりで、弾を吐き出さなくなったことに気づく。
「コーディ、これ壊れちゃったけど」
「どう考えても撃ちすぎだ。それ以上は銃身が熱で変形するから、安全装置が作動したんだ」
「なんだ、壊れたわけじゃないんだ」
「僕の作品は機械時計のよう繊細で精密なんだよ」
コーディと縛堂の意識が逸れた時だった。ふたりの視界を、紫色の炎がかすめた。コーディも縛堂もとっさに回避をしようとした。
だが、コーディは手を叩かれ時計リボルバーを取り落とし、縛堂はガトリングのついていた肘から先を嚙みちぎられてもっていかれてしまった。
「クソ、折られた」
「あらら」
コーディは歪に曲がった手首をもちあげ、縛堂は千切れた前腕をもちあげて、目を丸くし、腕をもっていった者を見やる。
もふもふの白い尻尾を2本に増やし、白いふわふわな耳に紫炎をともすその少女。先ほどとは目つきがかわり、大地を四足でとらえ、まさしく獣のような姿勢で、
「縛堂さんは本体じゃないし別に痛くもないんだから、とっちゃってもいいよね」
「コーディ、九狐は君が最初に気絶させてなかったかな?」
「そうしたつもりだった」
コーディは口をへの字に曲げ、シリンジを取り出して服用すると、折れた手首をハメ直した。
九狐は自慢げに尻尾をふりふりさせ「ふふーん」と笑みを浮かべた。
「スミスくんも、縛堂さんも、もう降参したほうがいいんじゃないかな? 私の強さは知ってるでしょ? 今日はすごく強い日なんだよ!」
「まぁたしかに、ちょっと強そうかもね」
「参ったな。僕の計算が狂ったか」
コーディと縛堂は顔を見合わせ、背後を見やる。
傍観していた赤谷誠は「え、俺」ときょろきょろ顔を動かした。
「あまりにもごく自然に行われる気持ちいい殺戮ショーは終わりですか」
「うん、どうやら風紀委員の秘密兵器の出番みたいだよ、赤谷少年」
「飛び込む隙なくて俺の出番ないかなって思ってましたけど」
「大丈夫だ、出番ならいまできた」
ふたりが託して出てきた男子生徒赤谷誠に、九狐レミは怪訝な顔をする。
(見たところ1年生かな。あのナマズみたいな目……うーん、どこかで見たような顔だ。縛堂さんとスミスくんが頼るってことは相当強いってことだよね? 1年生相手にするのは気が引けるけど、ヒバナのためにも、よし、全力で倒しちゃえ!)
「九狐だけに任せてられるか!」
「1年生だろ、全員でかかるぞ」
「悪く思うなよ」
「うおおお!」
迫りくる花火草の会。
赤谷は地面をチョンっとつま先でつつく。
直後、迫ってきていた上級生たちがつんのめった。
「なんだ!?」
「足元が!」
軟化術により生まれた一瞬の隙。
赤谷はひとり目へジャブを喰らわせる。
よくしなる素早い拳に打たれ、最初の犠牲者は白目をむいて膝から崩れ、そのまま柔らかい地面にゆっくり沈んでいく。
柔らかい地面に対応し、抜け出し斬りかかってくる。
回避してボディにカウンターフックをあわせる。
またひとり泡を吹いて崩れ、地面に呑まれていく。
ひとり、またひとり。
赤谷は格闘能力で無法生徒たちを圧倒し、ひとりずつ地面に沈めていった。
一連の殺戮ショーは、倒れたあと地面に呑みこまれていくのも相まって、敵対者らに非常な恐怖を与えていた。
ぶん! 鈍く低い音と、紫色の炎の残焼。
獣の機敏さで九狐は高速で移動、右へ左へ、しゅぱぱぱぱぱっ! とスキル『狐ステップ』を刻み、目にもとまらぬ速さで赤谷に襲いかかった!
(四足歩行? 人間じゃないみたいな動きだ。やたら速く感じる)
赤谷は冷静だった。その死んだ魚の目は、高速移動する狐娘をしかと捉えていた。
「きゅええ!」
狐の鳴き声。それが聞こえたあとにはガブつかれた被害者の姿があるというのは2年生の間では有名な話。
だが、今宵、赤谷は正義を手にしているのだ。隙はない。赤谷は瞬間的に加速し、ひょいっと嚙みつきを回避してしまった。直立から高速でかがんだだけだが、急接近していた九狐からすれば視界から一瞬で姿が消えたように見えていた。
「はえ?」
「捕まえましたよ」
赤谷は白い手首をつかみ、地面にべたーん! と力任せに叩きつけた。それだけで決着はついた。
「いっだぁああああい!?」
九狐は尻尾を一本消失させ、涙目で地面のうえで丸くなった。
赤谷は「ここで拘束するという名目ならまだチャンスが……」と、そっと左手を伸ばし触手をだそうとし……思いとどまる。
「……くっ、おさまれ、触手たちよ! 出てきたらダメなんだ……! うぅ、うぁ、はぁはぁはぁ!」
赤谷は解放されたがっている触手たちをどうにか意思の力で抑えこみ、肩で息をした。
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