出オチテロリストたち

 華やかな花火大会を影から守る。

 けっこうかっこいいだろう。

 これは意義のある仕事だ。


 俺はこういう役回りがあってる。

 昔からそうだった。小学生の時の係決めでは、学級で飼っている生き物の世話をする生物係が不人気だった。毎日欠かさず水槽の水を取り替えないといけない。めんどうだしなんか汚いからみんなやりたがらない。


 そういう時、俺の出番だ。

 俺は学級における面倒ごと係だった。

 

 最初は俺も嫌だったが、だんだんと自分の悲劇をすこしかっこよく感じるようになれていった。虐げらている俺、陰ながら支えている俺、悪くないって。

 

 その意味ではみんながお祭りを楽しんでいる時に、物騒なやつに目を光らせる仕事はあっているのかもしれない。


 探索者見習いとして鍛えた腕っぷしも役にたつしな。まあ人間をぶっ倒すために磨いてるわけじゃないんだけどさ。トラブル続きで対人することがなぜか多いけど。


「うわぁ、あの人可愛い……!」

「人っていうか人形……? すげえ、英雄高校って人形が平気で歩いてるのか…?…」

「ちょっと待ってあの人やばくない、ちょうかっこいい……!」

「ひぃ、お顔が良すぎる、モデル? 俳優? ハリウッドスター? 同じ高校生じゃないって……!」


 クソ目立ちまくってます。

 縛堂先輩は美少女というだけでなく、本日は肩が出てる涼しげなふりふりワンピースに、ふりふりスカートでお膝が出てて、ってそんな具合なので、球体関節が露出しており、ひと目で生身ではないとわかってしまう。

 

 コーディ先輩のほうは如月坂におなじくまずクソ背が高い。そのうえ外国人、堀の深い整った顔立ち、洒落くさいポンパドールに、これまたおしゃれIQの高い厚めの黒縁メガネ。制服をピチッと着こなしてるせいで、同じ服装なのに、ずっと大人びて見える。特に黒縁メガネはチー牛と力量の差が顕著にでるポイントだ。不思議とつらい。


「真ん中にいる人の目もすごいね……」

「なんだか死んだ魚みたい……」

「ナマズっぽいよね。ぬめーって感じ」


 なんだよ、俺がお前らになにかしたっていうのかよ。悲しいわ。


「ん、あいつら……」


 遠目に3人の女子生徒が並んで歩いているのを目撃する。志波姫とヴィルト、そしてふたりの間に林道がいて楽しそうに屋台を眺めてる。英雄高校が誇る美少女たちに、他校の生徒たちは視線が釘付けだ。


「赤谷少年がつくってるフィギュアのモデルちゃんたちだね」


 縛堂先輩のぼそっとしたつぶやき。

 コーディ先輩は怪訝な顔をし、スタイリッシュにメガネをクイッと押しあげた。


「赤谷誠、つぼみちゃんに変な影響を受けてるみたいだな。一流の実力者は一流の品格を身につけるべきだ。趣味は選んだほうがいい」

「そんなマジな声で注意されると恥ずかしいんですけど……」


 マジでやばいやつって思われてね?


「大丈夫です、もうやめましたから」

「え、そうなのかい? もったいない。ぼくはいいと思うけどな。自分の魂に正直で」

「魂に正直に生きるだけが素晴らしいわけじゃない。理性と自律によって育まれる品格こそ━━━━」

「ん、あの人たちリストにいませんでしたっけ」


 俺は指でさす。

 紙袋を抱えて立ち入り規制エリアを歩いて、人混みから遠ざかっていく2名組。チラチラと背後を気にしながら歩いているので顔が見える。


 というか特徴的すぎる特徴がひとつ。

 白いふわふわの耳と、もふもふの尻尾。

 片方が抱えるその個性はあまりにも個人を特定しやすすぎた。


 縛堂先輩とコーディ先輩はひと目みて速攻で「あいつだ」と言った。


 彼女たちの背後を追いかけて、俺たちは祭りの中心を離れ、何棟かもわからない黒い建物━━英雄高校には生徒が入れないよくわからない建物が多すぎる━━の影へ、白い尻尾を追跡した。


 なにやら怪しい集団がいた。「ビンゴだね。一網打尽にしよう」縛堂先輩は言った。

 

「えい、そこの君たちちょっといいかな」

「ふえ?」


 縛堂先輩の声に、間の抜けた返事がかえってくる。


 白い尻尾の女子生徒はこちらへ振りかえり、一気に青ざめた表情になった。彼女とともにたむろしていた生徒たちの表情にも焦りがみえる。


「『花火草の会』だね」

「ち、ちがいます!」

「嘘をついても無駄だよ。白い狐娘がなによりの証拠。九狐きゅうこんレミ、犯行声明出したよね。今夜は大人しくしててもらうよ」

「うわぁあ、なんでバレてるのおー!?」


 無法者リスト上位、九狐レミ先輩は、白いふわふわ耳を両手でおさえ、手に持っていた紙袋を取り落とし、涙目になった。

 地面のうえでくしゃっとなった紙袋から、コロコロとしたベビーカステラが転がり出てくる。

 それを見た仲間たちは呆れた顔になる。


「レミちゃん、ベビーカステラ食べたかったんだね……」

「なんでちゃっかり祭りを楽しもうとしてやがる!」

「目立つんだから大人しくしてろよ」

「俺たちは花火大会と戦ってるんだぞ、花火大会に屈してるんじゃねえ……っ」

「うぁぁあ、ごめん、みんなごめん……!」

 

 なんだか拍子抜けの展開だ。

 こいつらが本当に花火大会を潰そうとした無法者たちなのだろうか。

 「こうなれば実力行使で黙らせるしかない」花火草の会からひとりの男子生徒が歩みでて剣をぬきはなった。ぞろぞろと武器を構えはじめ一瞬で物騒な空気になった。

 

「やれやれ、無法者どもが」

 

 コーディ先輩はパッと手をだし、ゴールドでゴージャスな腕時計をこれみよがしに誇示しながら時間を確認する。

 ひゅ~ズドン! 花火があがりはじめたようだ。


「だが、僕は嫌いではないよ。なぜなら君たちになら発砲しても許される」

「ええぇ……」


 コーディ先輩は腕時計を指でピンッと弾いた。時計は瞬時に変形し、黄金の粒子を漂わせるリボルバー拳銃を形成すると、コーディー先輩の手におさまり、引き金がひかれ、撃鉄とともに銃弾をはじきだした。花火草の会のメンバーがズバッといっせいに回避するなか、白い尻尾の九狐先輩の脳天に弾丸は直撃、「ぐへえ!」とふっとばす。


「人を撃てる機会は英雄高校とえどもオフィシャルな場ではめったにないことだ。ぼくも加勢しよう」


 縛堂先輩も肘関節からさきを、変形させるとガトリング砲を無法者どもへ撃ちはじめた。


 それを皮切りに無法者と無法者で実験したい破綻者の壮絶な戦いが、花火の音でにぎわう校舎の陰ではじまった。こんなだけ混沌としてれば触手も許されるのでは。高まってまいりました。赤谷、動きます。

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