風紀の乱れている男たち

 圧倒的なアウェー感であるが、集合しているものたちのなかには見知ったものの姿もあった。イケメン三銃士の面々や、銀の聖女を守る会幹部の崇高むねたか先輩、縛堂ばくどう先輩にコーディー先輩と、ちょこちょこ知ってる人がいる。


 まあでも、もちろん大半は知らない生徒だ。

 風紀委員の腕章をつけてない生徒が20名ほど集まっている。風紀委員より数はずっと多い。

 

「あ、赤谷後輩だ! またオズモンド先生に使われちゃってるんだね~!」


 桃色のサイドテールを揺らし、豊かな巨星をたゆませるのは雛鳥ウチカ先輩だ。ライフルを背負っている。


「俺のこと便利屋かなにかだと思ってるみたいです」

「あはは、赤谷後輩は先生と仲良いもんねえ~」

「どうなんすかね。仲良いわけじゃないような」

「雛鳥、どうしてここにいる」

「それはこっちのセリフなんだけどね、薬膳。私はね、悪党を懲らしめるために、これより戦いにはせ参じるのだよ~」


 雛鳥先輩はキリッとした顔をし、腰に手をあて自慢げに言った。


「雛鳥先輩って風紀委員なんですか」

「ちがう、こいつは部外者だ」

「友達がいるから遊びにきてるだけだよ~」

「この通り適当な人間だ。関係者以外は立ち退いたらどうなんだ」

「どの口がそんなこと言ってるの~? 薬膳がいることのほうがおかしいのに!」

「俺と赤谷はパートナーとなり、護衛係に名乗りをあげた。私服風紀委員になるための肩慣らしのようなものだ」

「薬膳が私服風紀委員……? どう考えても風紀を乱す側の人間だと思うんだけどなぁ」

「毒をもって毒を制するという考え方があるぞ」


 薬膳先輩には自分が毒だという認識はあるらしい。すこし安心した。


「風紀の乱れを感じる」


 静粛な声が聞こえた。

 その場の皆が声のほうを見やる。

 

 先日の実行委員会で委員長をしていた灰色髪の先輩だ。

 制服に黒コートを着込み、風紀委員の腕章をつけている。


「その変態ガス男は猟犬としては使えるはずだよ、ウチカ」

「この薬膳卓のことを猟犬といったか、灰星牡丹はいぼし ぼたん!」


 薬膳先輩は「がるるる!」と威嚇する。イヌ科ではあるらしい。

 

「この男は目を離せばすぐに崩壊論者に落ちるから。首輪をつけて狩りをさせたほうがいい」

「なるほど! 狂気の科学者の正しい使い道をついに見出したんだね~。流石は牡丹先輩だね~! よかったね、薬膳、就職先がみつかって」

「おのれ、世紀の天才科学者のことをなんだと思って……」


 灰星先輩はこの場にいるみんなをまとめあげブリーフィングをはじめる。


「今回の危なそうな連中はだいぶ絞り込めてる。『花火草の会』の連中が筆頭だよ。『花火草の会』は上級生なら知ってると思うけど、花火草っていう異常物質アノマリーを育ててる会で、花火を食べさせることで成長をさせたいらしいんだ」

「そのために花火大会の花火を奪おうとしてるって話なんだよね~」


 花火を喰らう草? それを育てるサークル? またトンチキな活動があったものだな。


「『花火草の会』の思想に同調した勢力もある。『ミシシッピアカミミガメ愛好部』『裏カジノ』『武装抵抗サークル』からは何人か出てきそう。風紀委員と護衛係にはリストをおくったから顔を見たら、状況を見て先制攻撃をして制圧しちゃっていいよ。不安なら報告してマークしておいて。周りに気をつけて。向こうも無茶なことはしてこないだろうけど、常人に被害がでたらまずいから」


 俺はスマホを眺め、要注意人物たちを頭にいれた。


 ブリーフィングののち花火大会の守護者たちは、各地へ散らばることになった。


「さて、俺たちの素晴らしい連携プレイで悪党どもをしばきまわすぞ。リストのなかには女子も含まれてた。悪いことをするやつには肉体的におしおきが必要だろう。同志よ、わかってるな、積極的に右腕に秘められしニュルニュルを解放していけ。俺は特製の媚薬『あったかみるく』でトドメを刺す」

「まあ、ある程度正当性はありますかね。触手には相手を委縮させるという隠されし効果がありますから。いいでしょう、悪党系女子がいたら遠慮なくいきます」


 薬膳先輩の犯罪に手を貸す気はないが、今夜、あくまで正義は俺たちにある。

 うむ、道理は通っている! 相手は無法者だ! 構うことはない!

 

「くっくっく、正義を手に入れた変態の恐ろしいことよのう」

「なにを言っているんですか。花火大会を守るためじゃないですか(暗黒微笑)」


 こそこそ会話していると、突然、薬膳先輩の背後から雛鳥先輩が抱きついた。ちかくにいた俺までむわっといい匂いに包まれる。


「うわあ!? なな、なにをするんだ、雛鳥ウチカ!?」

「薬膳もらっていくね~、狙撃ポイントで背中守ってくれる相棒いたほうが安心できるからさ~」

「ええい、は、離せ、離せ……っ」


 薬膳先輩は抵抗するが、非常にか弱い。本当にふりほどく気あるのか。もっと本気になれるよなぁ!? なんで本気でふりほどかないんですか!? 


「灰星牡丹がいるだろうが、あの脳筋馬鹿女に守ってもらえ」

「牡丹先輩は風紀委員のリーダーだし、現場感つよいからだめ! 暇そうであんまり働かなそうで、働いてもいかがわしいガスや薬を使いそうな薬膳こそ、ふさわしいの!」


 流石は雛鳥先輩、この崩壊論者見習いのことよくわかってらっしゃる。


「フインに、ヒバナに、レミに、マオ、みんなを薬膳の悪手から守るんだ!」


 皆、本日のリストに載ってた無法者たちだ。


「なんで悪党どもを守る感じになってるんだ、ええい、離せ、離せ……っ、くっ、おのれ、雛鳥ウチカめ、なぜか体に力がはいらん……! てか、赤谷だって触手でいかがわしいことするつもりだぞ!」

「赤谷後輩はそんなことしないよ。しそうな雰囲気だけあるけど、実際はすごく誠実だと思うんだ。薬膳とちがって。福島ちゃんの件は事故だもんね。ね?」

「ま、まぁそうですね、ええ、はい」

「動揺を隠せていないぞ、同志赤谷」

「すぅ……えーっと、雛鳥先輩、でも、ソレ連れていかれると俺ひとりになっちゃうんですけど」

「大丈夫大丈夫、赤谷後輩はちょー強いんだから、花火大会を邪魔するような子悪党どもには負けないって! 私が保証するよ! 危なくなったら援護してあげるから!」


 雛鳥先輩は言って、ライフルを担ぎ直した。今日のはスコープがついてるみたいだ。遠距離から監視の目を光らせるってことだろうか。

 その後も抵抗する気のない薬膳先輩のせいで、結局、もっていかれてしまった。


「こっちだ、赤谷誠」

「ぼくたちといっしょに行こう」

「コーディ先輩、縛堂先輩、拾ってくれるんですか?」

「捨てる神あれば拾う神ありというやつだ。僕は一流の協働者しか必要としない」


 無事に拾われ俺は縛堂先輩とコーディ先輩のチームに加わり悪党退治に乗りだした。

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