英雄高校花火大会


 花火大会当日。

 夕焼けに染まる英雄高校の校門前の通りには人混みができていた。

 通りいっぱいの屋台に、それを見物するものたち。


 英雄高校の一部区画は解放され、校門を通じて学校敷地内まで伸びる屋台の列には、近隣住民たちの姿もある。てかほとんどが近隣住民というか。いや、遠方から来てるのもいるかもしれないけどね。


 英雄高校花火大会。

 地元の祭りとしてはすでに定着している行事とみえる。

 広大な敷地と高い壁、真っ黒の背の高い建物がならぶ異常な学校は、こうして地域と連携をとることでその信頼を獲得しているのだろうか。まあ別にこの学校に限った話ではないのかもしれないけど。


 隔離され気味な英雄高校の陽キャたちは、見慣れない制服をきて祭りにやってきた他校の生徒に盛り上がっている。


 女子たちは綺麗な浴衣姿で着飾るものが多いだろうか。

 気合がはいってる男子のなかには、暗色の落ち着いた浴衣を着て、扇子を持参してるやつまでいる。

 まあ、そういうファッションモンスターはごく一部だ。


 きゃっきゃと騒ぎながら祭りを楽しむ。

 青春のひと幕。お手本のようだ。


「英雄高校の生徒だ、すげえ」

「いいよなぁ、俺にも特殊能力とかあったらなぁ」


 他方、通常の高校──祝福者の教育が行われていない高校──の生徒からみた英雄高校の生徒というのはリスペクトを向けられるものらしい。選ばれし者、特殊能力をもつものしか入学できない学校。外からすればきっと特別で才能あふれるカリスマたちがエキサイティングな学園生活をおくっている学校とでも思ってたりするのだろうか。


圭吾けいご君すごーい!」

「ねえねえ、圭吾君、わたしのかき氷も食べてみて!」

「圭吾君、あっちにベビーカステラあったからいこうよ!」

「英雄高校にはいってみたいけど、広すぎてわかんないよ、圭吾君、いっしょに歩いてくれる?」


「わかったわかった。とりあえずひとりずつ、な? そんなに引っ張らないでくれよ」


 鮮やかな緑髪を撫でつけ、面の良い顔を機嫌よさそうに歪めるその男、如月坂圭吾は他校のおなごたちを引き連れて祭りを散策しているらしい。目障り極まりないうえに不快極まりない。視界にいれたくないし音声も遮断したいところだが、やつは身長が180cm以上余裕であるので、嫌でも目についてしまう。腹立たしいことこのうえない。


「ん、赤谷じゃねえか、こんなところで何してんだよ」


 校門前、串焼きを食べ終わってのこった竹串を、惜しむように噛み噛みしていた俺にめざとく気づいたか。

 

「気安く話しかけるな」

「なんだよ、感じ悪いな、機嫌悪いのか」

「がるるるるっるるる!!!」

「……これはかなり機嫌悪そうだな」

「はぁ、別に。花火大会実行委員なんだ。時間までの猶予を満喫しながら、治安を守るために怪しい連中がいないか目を光らせてる」

「それはご苦労なこった。お前って意外と真面目だよな。体育祭に続いて花火大会まで」

「オズモンド先生に言われただけだ。強制徴兵だ」

「そうなのか? そいやお前ボランティアにも徴兵されたんだってな。頼りにされてるんだなぁ、羨ましいぜ」

「……あ?」


 如月坂は「やべ」みたいな顔をする。

 ペナルティ地獄は俺とこいつの対決からはじまったんだ。

 俺たちは同じペナルティを背負ってたはずなのに。同じに地獄にいたはずなのに。

 いつの間にか俺だけもはやペナルティにペナルティが絡みついて積もりつもって、窒息しそうになってる。


「……それじゃあな。怪しい奴がいたら俺も報告するぜ」


 俺は意識せずに睨んでいたのだろうか。如月坂はたじたじしながら他校の可愛い女子たちとともにお祭り散策にもどっていった。けしからん。本当にけしからん。けしからんの塊だ。


「あの、英高の生徒さんですか?」


 見やれば他校生っぽい女子ふたり組が背後にたっていた。まさか、俺にも春がきたというのか。俺は優しい笑顔に努め、誠実に応えた。


「そうですがなにか」

「あぁよかった、実は英高ダンス部の発表をみようと思ってて、舞台を探してるんですけど、迷っちゃって」

「っ! それならこの俺がぜひ案内をしましょう」

「本当ですか? やった!」


 いやぁあ、まあ、本当はまじで面倒だしよお~、だりいけど、頼まれたんじゃあ仕方がないよなぁ。


「おお、ここにいたのか赤谷、そろそろ自由時間はおしまいだ」

「あぁ、ちょ、ちょっと待ってください、せっかく俺のことを英雄高校の生徒ってだけでキラキラした目で見てくれる他校の女子に頼られて、なにかが始まるかもしれないのに、ちょ、マジで、やめてください、俺の祭りを邪魔しないでください、薬膳先輩……っ!」

「ええい、馬鹿者めが、そんなものは真実ではない。俺たち陰のものは女子と真の意味で仲良くできるわけがないのだ、赤谷。俺たちは運命共同体。俺たちは同志だ。いい加減に自分の分を弁えろ。あと抜け駆けは許さない。勝手にいい思いをするのも許さない」


 後半のほうに本音が漏れてませんか。


 醜い足の引っ張り合いの末、薬膳先輩に連行され、俺のお祭りは終わりを迎えた。


「あぁもう、なんでまた人間相手にしてるんだよ……モンスターより人間とばっか戦ってるよ……」


 連れられていった先は花火大会運営本部、その裏手である。

 生徒がそこそこ集まっている。中には“風紀委員会”の腕章をつけたものたちの姿がけっこうある。


「げっ、薬膳卓だ……」

「どうしてあんなやつと……」

「この世のものとは思えない気の狂い方をしているというのに……」


 薬膳先輩言われ放題です。特に女子生徒からの視線が厳しい。ごみを視る目をしてます。


「なんか嫌われてません、薬膳先輩」

「ハハハ! ────まだ気が付いていなかったのか……!(小声) こいつらは風紀委員だ。1年生のころからこの狂気の科学者マッドサイエンティスト薬膳卓のさまざまな有意義実験の邪魔をしてきた連中なのだ」


 どうりで嫌われてるわけだ。あんた絶対に取り締まる側の人間じゃねえもん。


「今回は正義の味方だ。風紀の維持とやらにあまり興味はないが、楽しい花火大会の邪魔をしようとしている悪党どもを締めるとしようじゃないか、なあ赤谷」










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