花火大会実行委員会
夏休みの終わりとは生徒たちの帰還を意味している。
学園で見かける生徒の数が増えてきた。
そんなある日、花火大会がせまってきた。
本日は近く開催される花火大会の実行委員会が開かれる。
オズモンド先生の依頼で参加をうながされているので俺も出なければならない。
多目的室にいくと机が口の字型に並べられていた。
部屋いっぱいをつかってつくられた会議の場にはすでに生徒たちが集まっている。
そのなかに白衣を着込んだ不審者がいる。だれからも相手にされずひとりスマホを見つめている。あっ、俺に気づいた。
「赤谷、お前なら必ず花火大会実行委員に名乗りをあげると思っていたぞ」
「だれですか。あなたみたいな狂気の科学者は知りません」
「この学校に狂気の科学者はふたりといない。残念だが、お前が記憶喪失しようと俺たちは何度だって巡り合う運命にある」
「そんな運命は俺がぶち壊します」
俺が席に着くと、薬膳先輩は当たり前のように隣に腰をおろしてきた。
「薬膳先輩みたいな無法者が花火大会実行委員会に参加するなんて。なにを企んでいるんですか」
「疑いばかりだ。いっしょに巨樹の怪物を倒した仲だというのにな」
「わかりましたよ、今回は普段の素行不良によって目をつけられすぎたから、そろそろポイント稼ぎのために社会貢献しようとしていると思うことにします」
「よくわかったな。その通り。この活動は風紀委員会の監督を受けている。花火大会を守り、ポイントを稼ぎ、近日完成する新薬の人体実験がばれた際のリスクマネジメントをしようと思っているのだ」
もうだめだ。本当に終わりだ。誰かがこの崩壊論者見習いを止めないと!
「む、やつがきたか」
薬膳先輩の視線の先、多目的室の入り口から灰色のふわっとした髪型の女子生徒がはいってくる。たぶん先輩だろう。1年生の教室棟では見かけない顔だ。制服のうえから黒いコートを着込み、腕には「風紀委員会」の腕章と、青色の蛍光帯を余らせて巻いている。
彼女がはいってくると多目的室に緊張感が走った。
「あのひとは」
「風紀委員長だ。今回は花火大会実行委員長を兼任するようだな。同級生女子のフィギュア作りをする変態であるお前がもっとも恐れるべき相手だ」
「あぁそれならもう大丈夫です。すでにバレて粛清を受けたので」
「なんだ、やはり度を過ぎた変態は裁かれる運命なのか」
「薬膳先輩に言われたくないです。服だけ溶かすスライムを作ろうとしているくせに」
「これより花火大会実行委員会をはじめます。特級無法生徒・薬膳卓、お喋りをやめて口を閉じなさい」
静粛な声が多目的室を貫き、そのまま俺と薬膳先輩の顔のあいだを遮断した。
灰色髪の風紀委員長がこちらを見ていた。いや、薬膳先輩を見ていたというべきか。
薬膳先輩は苦い顔をすると、口を閉じて黙りこくった。どうやらあの風紀委員長は薬膳先輩に特攻をもっているようだ。
「静かになったようですね。では、はじめます。まずは犯行声明への対応から考えるとします。配布した資料を確認してください」
犯行声明?
俺は薬膳先輩の顔を見やる。
「なんです犯行声明って」
「花火大会を台無しにしようとするいつもの勢力だ」
「要注意サークル『
物騒な話になってやがるな。
謎のサークルに、武装勢力?
花火大会ってそんな危ないものだったっけ?
「本日の議題は実行委員会メンバーのうち、護衛係を選出します。風紀委員会が配備されますが、花火大会実行員会からも人数を割きます」
委員会のそこかしこから「うええ……」と不満の声があがる。
「花火の運営が仕事内容だったんだ。いきなり危ない話をもちだされて乗り気なやつはいまい」
薬膳先輩はふんぞりかえって腕を組みながらつぶやく。
間違ったこと言ってないか。誰も荒事に率先して首をつっこみたくはない。
「護衛係に立候補するかたはいませんか」
誰も手をあげない。
俺もあげない。あげるわけがない。
とりあえず面倒そうなところはやめて、楽そうで面白そうな火付け係にでも立候補するとしよう。
「誰も立候補がいないようですので、先生からの推薦生徒から護衛係を選出します」
ん?
「赤谷誠、それと薬膳卓。あなたたち2名は推薦されてます」
「えぇ……待ってください、委員長、僕は荒事に巻き込まれたくありません」
「『1年4組赤谷誠は、代表者競技の優勝者であり、荒事のプロフェッショナル。トラブルあるところに彼あり。この生徒こそトラブルの根源と言えるかもしれない。勝手に荒事に巻き込まれていくので、その解決能力に長けている。花火大会実行委員会に参加するので、ぜひ護衛係に選出されたし』と。フラクター・オズモンド先生の熱い信頼を受けてるようですね」
「うぐぐ……」
「私もそう思います。あなたほどの適任もいないでしょう。ちょうど薬膳卓とも知り合いみたいですし」
その後、ぼそぼそと抵抗をしたが、委員長の心はすでは決まっていたらしく、ほかに立候補者もいないということで俺は護衛係に選出されてしまった。薬膳先輩とともに。
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