4人前のペペロンチーノ
「その食材……けっこうな量あるみたいだけれど」
「今日はコース料理だからな」
「いやに気合がはいってるのね」
「先日は迷惑をかけたからな。俺なりの誠意ってやつだ。それに志波姫、森の里キャンプ場で、俺の料理が食べたいって言ってただろう」
「そう。思惑はわかったわ。ところで赤谷君にコース料理をつくれるの」
「俺の料理の腕は知ってるだろう。祝福されし料理人を信じろって」
「わかったわ。お手並み拝見といこうかしら」
ペペロンチーノを食べさせることが目的であるが、志波姫のことをまさかペペロンチーノだけで呼び出すわけにはいくまい。いいところのお嬢様なのだからきっと舌も肥えてるだろう。ペペロンチーノするだけで呼び出したら、不要な怒りをかうかもしれない。
だからこの赤谷誠は考えた。
お嬢様だったら、それに適した料理の提供というものがあるだろうと。
「俺が日々磨いている自炊スキルを見せてやる。そこでおとなしく待ってろよ」
「別に調理中に襲い掛かったりしないわよ。赤谷君が変なことしないかぎりは」
「それはよかった。ん、もうひとりのお客もきたな」
扉からお客が来店する。
「赤谷、今日も来たよ! ペペロンチーノするんだってねっ!」
林道がニコニコで入店。
だが、志波姫をみて動きを固める。
「ど、どうしてひめりんが……!」
「それはこっちのセリフよ、林道さん」
「あれはもうひとりの客だ」
志波姫は怪訝な眼差しを向けてくる。
「わたし一人ではないのね」
「まあな。いろいろ準備が必要だから今日はお客を複数いれての営業だ」
「勝手に家庭科室を占領して営業していいのか疑問は残るけれど」
「はわわわ、ついに志波姫さんにまでペペロンチーノする気なの……!?」
林道が信じられないものを見る目を向けてきた。
「なんだよ」
「いったいどれだけの女の子とペペロンチーノすれば気が済むの……っ!?」
訳の分からないことをほざく林道の背後、銀髪の少女がひょこっと現れる。林道は彼女の気配に気が付くと「びゃぁあ!」と悲鳴をあげて跳ねあがった。
「ヴィルトさんまで!?」
「琴音も赤谷食堂に呼ばれたんだ。いっしょに入ろう。ん、志波姫もいる」
「はわわわわ、赤谷、まさか3人同時にペペロンチーノするつもり!? ひめりんにヴィルトさん、可愛い女の子ばっかり連れ込んで、伝説の3ペペ、略して3P────」
「略しすぎだ。意味違ってきちゃうから二度と口にするんじゃねえ」
あと正確には4Pだと思う。いやどうでも口には出さんけど。
志波姫は半眼になってこちらを見てくる。
「たくさんお客さんいるのね」
なんだか不満そうな顔をしている。
「もしかして赤谷シェフの料理を独占したかったのか」
「別に。ただ複数の女の子に同時にペペロンチーノを仕掛けるような男なんだと感心しただけよ。それとあっちのふたりは初めてではないようだし、わたしの目の届かないところでいかがわしいペペロンチーノが度々行われていると考えて、あなたを軽蔑しているだけ」
困った、こいつがなにを言っているかわからなくなった。どうしてペペロンチーノが絡むと人間は様子がおかしくなってしまうのだろうか。
林道とヴィルトが席についたのを確認して、俺は冷蔵庫からドリンクをとりだし、3名の客のまえにならべた。
「んっん。3種のドリンクからお選びいただけます」
「なんで今日はこんなに厳かなの? いつもはもっと手軽にペペロンチーノしてるのに」
「進行をとめるな林道、ドリンクを選ぶんだ」
「怪物エナジー、特茶、水」
「この店は客にあたえる選択肢が少なすぎるような気がするわ。3か月もつかどうかといったところかしら」
「お客様お静かにお願いします。こちら本日のメニューになってます」
飲み物:怪物エナジー、特茶、水
前菜:聖なるペペロンチーノ
スープ:良質のオニオンスープ
魚料理:良質のムニエル
肉料理:最高級のハンバーガー
デザート:ハーゲンダッツ
差し出したメニューを3人は顔を突き合わせて眺める。
「すごい、なんだか本格的かも!」
「コース料理というのは全体の食べ合わせを考えて、組み立てられるものだけれど。それにフレンチ、イタリアン、和食で様式は異なってくるわ」
「これはどこの流派なの? お箸の構え方とか私わからないや……」
「そんな剣術的なものではないけれど。赤谷君のコースはそうね、我流かしら」
「赤谷流ってことだ!」
以前からさまざまな料理を実践してきた。
そのレパートリーと練度は日々向上している。
今回はシェフの嗅覚を信じて、レパートリーのなかから食べ合わせがよさそうなもので挑む。
「まずは聖なるペペロンチーノ」
あっさり目の味付けとフォークで4口分程度のちいさな盛りつけで食欲を促進させる。
「これは……っ」
志波姫は目を丸くして、片目をつむると、頬を薄く染めた。なんだか情欲的だ。
「くっ、こんなに美味しいなんて思わなかった……っ」
「聖なるペペロンチーノの旨味は素早く遺伝子に刻まれ、末代までその食の記憶は残り続けるとされてる」
「こんなシンプルな料理で、どうしてこれほどの深みがでるの……っ、悔しいけれど、記憶に残るおいしさね。赤谷君のくせに生意気だわ」
志波姫は襟元を抱いて恨めしそうな視線をむけてきた。
「う、ぅぅ、美味しい……まさか、あれ以上のペペロンチーノをされちゃうなんて……」
ヴィルトもまた致命傷を受けたみたいに心臓をおさえ、高揚としていた。頬は朱色に染まっているのは、聖なるペペロンチーノの効果ゆえか。
がたっ。椅子から崩れ落ちるのは林道。
汗をかき、胸元をはだけ、なんだから艶めかしい吐息をもらしながら気絶している。
服が乱れているのはなにゆえか。わからないが、この前も気絶してた気がするのでまあ放っておくとしよう。
その後も俺は我が全霊を注いだコース料理を喰らわせた。
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『聖なるペペロンチーノ』
選ばれし料理人による一皿
豊穣なる祝福効果を持つ
【付与効果】
『攻撃力上昇 Ⅴ』
【上昇値】
体力 0 魔力 0
防御 0 筋力 0
技量 0 知力 0
抵抗 0 敏捷 0
神秘 0 精神 0
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『良質のオニオンスープ』
良い料理人による逸品
高い祝福効果を持つ
【付与効果】
『抵抗力上昇 Ⅱ』
【上昇値】
体力 0 魔力 0
防御 0 筋力 0
技量 0 知力 0
抵抗 0 敏捷 0
神秘 0 精神 0
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━━━━━━━━━━━━━━━━
『良質のムニエル』
良い料理人による逸品
高い祝福効果を持つ
【付与効果】
『思考力上昇 Ⅱ』
【上昇値】
体力 0 魔力 0
防御 0 筋力 0
技量 0 知力 0
抵抗 0 敏捷 0
神秘 0 精神 0
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━━━━━━━━━━━━━━━━
『最高級のハンバーガー』
最高の料理人による一皿
とてもおおきな祝福効果を持つ
【付与効果】
『筋力上昇 Ⅳ』
【上昇値】
体力 0 魔力 0
防御 0 筋力 0
技量 0 知力 0
抵抗 0 敏捷 0
神秘 0 精神 0
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人間の身体はおいしいものを食べすぎると、細胞が活性化し、生物としての根源的目的たる生殖本能が刺激されてしまうとされている。
『人類は美味しすぎる料理を口にしたとき、
ギルド『クレイジーキッチン』のギルド長であり著名な料理人ドス・ケーヴェ伯により提唱された戯言だ。美食反応というらしい。
最後のハンバーガーを食べ終わる頃には、志波姫は頬をうっすら染め襟元をたぐりよせ、ヴィルトは普段は見せない明るい笑顔でもぐもぐし、林道は発汗し呼吸を荒くし服が着崩れて床に倒れていた。美食反応。あるのかもしれない。そう思った。
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