治安悪化警告
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【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『4人前のペペロンチーノ』
ペペロンチーノでうならせる 0/4
【継続日数】114日目
【コツコツランク】プラチナ
【ポイント倍率】4.0倍
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今日のポイントミッションは4人前か。
なるほど、ならばちょうどいいな。
難しいミッションでも毎日かかざすこなす。それが一流のコツコツリスト。
8月27日。
夏休みも終わりに近づいた朝。
俺は日々、アルバイトに鍛錬に忙しくしていた。
志波姫やヴィルトという存在が身近にもどってきたことが、あるいは俺に刺激を与えたのかもしれない。王者より挑戦者のほうが熱量高くものごとに取り組めるという。俺は壁を感じていたほうがいいトレーニングができるタイプなのだと思う。
ひとたび忙しい日常に集中すれば時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。
堕落した最高の夏休みは文字通り最高なのだが、こういう忙しいのも悪くはない。
ただあくまで悪くはない、というだけだ。人間とは楽を追求する生き物だと思う。
人類史を紐解いても、人間は楽をするためにあらゆる技術を磨くし、発明するものだ。
ゆえに充実した日々最高! などと自分をだまし、憎きフラクター・オズモンドによって強制されている労働に感謝することはない。絶対にそれだけはあってはならない。それを受け入れることはいわば従属である。懐柔である。肉体を労働に縛ることはできても、この赤谷誠の心までは屈服させることはできない。俺の権威への叛逆心は赤々と燃え滾っている。折ることはない。決して屈しない。
「赤谷、どうだ、アルバイトのおかげでけっこう充実した日々を送れているんじゃないのか」
「オズモンド先生、この赤谷誠をだれとお思いか」
「ほう」
「──最高です、オズモンド先生のお心遣いのおかげで充実感にあふれた夏休みを終えられそうです。いやぁ、流石ですね、やはり一流の教師というのは学生自らに行動させ、学ばせ、成長させることができるんですね。感銘を受けました。本当にありがとうございました」
「ハハハハハ、グレート。まだ夏休みは終わっていないが、まあ、満喫しているようでよかったよ、赤谷。訓練棟の利用時間が減っていたから、夏休みを堕落で終えそうと危惧したかいがあったというものだ」
「して、この赤谷誠、夏休みの間、ずいぶん真面目に労働に従事したことと思います。心も入れ替えました。もう校舎を破壊するようなことはないでしょう。どうでしょう、ここでひとつペナルティの帳消しというのは」
「それはつまり、第一訓練棟の外壁および訓練場を度を越して破壊しつくし、その修繕費をなくしてくれということかね」
「言い方を変えればそうなります」
「ハハハハハ」
「あははは」
「面白い、赤谷、君は勘違いしてる。修繕費は別にペナルティじゃない。修繕費は修繕費だ。ペナルティはペナルティだ。これらは独立している。修繕費の項目を0にするには返済し終える以外の方法はない」
昼下がりの職員室で突き放され、無事に俺のアルバイトは継続することになった。終わりだ。もう救いはない。
「あぁ、そうだ、赤谷、君に新しい依頼だ。報酬はそれなりだろう」
「俺のことを便利屋かなにかだと勘違いしてませんか」
「いいから確認したまへ」
オズモンド先生からのメッセージを確認すると、花火大会運営について、と書かれていた。
「花火大会?」
「今日は27日。明日から31日にかけて、英雄高校に生徒たちは一気に帰ってくる。イベントをするタイミングとしては最適だ。今年もひと夏の思い出づくりに、花火大会が開催されるんだ。その実行委員を数日前から募集しているが人数が足りない」
「いつも人数足りてないっすね」
「赤谷、見事に花火大会を成功させてくれ。そうすれば、本来の実行委員に支払われる報酬の倍が君のものとなるだろう」
「倍もですか」
見たところ仕事内容は難しいことではない。
実行委員会に参加して、4日後に所定の位置、所定の時間に花火を打ち上げるだけだ。
「割のいい仕事ですね。やりましょう」
「そういってくれると思っていた。君が参加してくれるなら花火大会を守り切れるだろう」
「なにから守るというんです」
「夏休みを経験し、学園の外に帰った生徒たちはちからに自信をつけて帰ってくる。1年生も能力に慣れてくる。英雄高校は自主性を重んじることで、生徒たちに能力との向き合いかたを学ばせている」
「……」
「チェインの一見で校内にダンジョン財団の武装した大人たちが多かった。期せずして1学期はずいぶん治安がよかった。赤谷、君はまず大丈夫だと思うが、いろいろ気を付けたほうがいいだろう」
オズモンド先生はそう言ってニコッと良い笑顔をうかべた。
要約すると、治安悪化するってことだろう。たぶん。
「大丈夫です、俺の振るう暴力はすべてが正当防衛ですから」
「そうだと良いんだがね。まあうまくやりたまへ」
その晩、俺は家庭科室で食材を揃えて待機していた。
先日購入したマイ包丁を研ぎ、鍋とフライパンを温めながら待つ。
やがて氷のような波動を扉越しに感じた。
やつだ。やつが来た。志波姫がのそっと扉をスライドさせて入ってくる。
きょろきょろと部屋のなかを見渡し、俺へ視線をもどす。
「夕餉をご馳走するなんて、いったいどういう風の吹き回しかしら」
「理由が必要なのか」
「当然でしょう。毒が盛られている可能性のほうが高そうだもの」
「お前に食べてほしい、それじゃあダメか」
「……」
志波姫は半眼でこちらを怪しみながらも、そっと席に腰をおろした。
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