波賀みくりは所望する
なんでも天才らしい。なんの分野でかはよく聞いてなかったので忘れたが。
森の里キャンプ場の事件の翌々日、福島はこの女を意気揚々と俺に紹介してきた。
「ふっふっふ、この子こそ、私ら陰に生きる秘密結社の新しい仲間! 『
「ひええ……拉致されていきなり連れてこられたぁ、ぁ!」
その時は特になにも思わなかった。
常になにかにおびえているような目をしていて、背中が曲がっていて、血色が多少悪い。あと髪もちょっとぼさついてるかな。ちゃんとすれば普通に整った容姿をもっていそうではあった。
「『
「やっぱり、俺もすでにそのヘンテコな団にいれられてるのな」
「当たり前でしょ、弟子なんだから。弟子は師匠のいうことをきかないといけないんだよ!」
「ひええ、赤谷誠だぁ、ぁ……! あなたって福島さんと仲良いの?」
「え?」
本人の前でそんなこと聞かれてもな。
「……まあ、ぼちぼちじゃないか?」
「私と弟子は仲良いよ!」
仲良いらしい。福島からそう言うなら、まあ、大丈夫か。俺から「俺は福島と仲良いけどな」って言ったら、「え、私は別に仲良いと思ってないんだけど……」みたいなリアクションされて空気が致死量の気まずさに満たされることを危惧したがそうならなくて本当に良かったと思います。はい。
「弟子はね、すごいんだよ! 他人のスキルをコピーしたり、腕からにゅるにゅるした触手をだして相手を動けなくすることができるんだよ、ふっふっふ、つまりこの私と同じで闇のちからに精通してるってこと!」
「ひえ、ぇぇ、触手……!? そのにゅるにゅるの触手で、女の子を襲ったりするんだ!」
「いや、しないけどな」
「するよ! 弟子は容赦ないからね、ふふん、かくいう私も弟子の触手にからめとられたことがあって、つい2週間前の話なんだけど──」
「福島、いや、師匠、すこし口を閉じてくださいやがれ」
福島はその後もいろいろ余計なことをペラペラと話すものだから、『
「赤谷誠……きっと、裏では女子たちに触手でセクハラまがいのことをしまくっては、暴力で脅して口封じをしてるんだ……! 最低なオス!」
そんな風に誤解まで招いてしまった。
しっかりと「それは勘違いだ」と否定しておいたが、おそらくその誤解は解けていないのだろう。
だから、あの俺と目をあわせた瞬間、波賀みくりは逃走をはかったのだ。
「数日ぶりか、波賀みくり。なんで逃げるんだ」
「うむう、うぐぅぅう!」
口のなかに太くて立派な触手をいれているのでうめき声しか漏れてこない。
「お前が逃げるから俺も実力行使で捕まえないといけなくなっちゃっただろう」
数日前の邂逅では、彼女が頭脳明晰らしいとか、手先が器用だとか、同みんなの仲間にいれてもらえないようなちょっとキモイ属性をもつ女子であることを察しただけだ。
現在、俺は彼女をちょうど探していたのである。
ゆえにこうしてアルバイト中に偶然見つけたからには、逃走を図ろうとした彼女をひっとらえ、温泉棟の清掃倉庫に監禁することにしたのだ。
「まあ、楽にしろよ」
彼女の身体に絡みついていた立派な触手たちをひっこませ解放した。
体操着でアルバイトに臨んでいた彼女は、ネバネバの粘液にまみれ、身体の輪郭が浮きでるスケベな姿になってしまっていた。
目のやり場にこまりつつ、俺はあくまで毅然とした態度を保つことにした。
「ひええ……ついに本性をあらわした! これから赤谷誠に穴という穴を犯されて、い、いっぱい出されて種付けされるんだ……エロ同人みたいに!」
「おい、待て、すこしは表現を慎ましくしろ!」
「うああぁあ、触手男にオスを教えられて、自分がメスであることを再認識させられて、屈服させちゃうんでしょ……! 福島ちゃんの言う通りだ、1対1の時は警戒をしないといけないって……!」
あまりにもうるさいので俺は波賀の口をに触手の先端をつっこんだ。コンプライアンスを余裕で越えてきそうな怖さがあった。
「あばば、あぐ、う」
「静かにしろよ、オタク女。じゃないと本当にこの触手がお前をひどいめに逢わしかねない。いいな?」
触手の先端を彼女の目の前にもっていき、器用にしゅっしゅっと空を突きさしてみせた。
波賀は涙目で首をたてにコクコクとふる。
解放してやると、ぷるぷると震え、襟元をたぐりよせてこちらをにらみつけてくる。
「えろいことをしないなら、な、なにが、目的なの赤谷誠……」
「お前、『もうひとつの思考』っていうスキルをもっているだろ」
「っ、どうしてそれを」
「福島が言ってたとおりだ。俺は他人のスキルをコピーできる。その過程で相手のもってるスキルの情報を閲覧できるんだ」
スキル『もうひとつの思考』。波賀は左右の目で違う作業をしたり、左右の手で異なる動作を高精度で行うことができる。まるでひとつの身体にふたりの人間がいるみたいに。
「お前の能力はこのスキルによるものだと福島が俺に自慢げに言ってきたんだが」
「そ、そうだけど……」
「俺はお前のスキルがほしんだ。コピーしてもいいか」
「もしかして、触手に自我を与えて女の子を襲わせて、性犯罪の責任の所在を触手になすりつけることで、法の穴をかいくぐってえろいことしまくるつもり?」
「俺はお前の想像力が恐ろしいよ」
こいつを物事をセンシティブにとらえて勝手にいかがわしい話にしがちだ。2回しか会っていないが、なんでこいつに友達がいなくて、なんで福島という変なやつがこいつに目をつけて腫れ物集団『
俺は波賀に『スキルトーカー』の能力を仔細に説明し、誠意をもってお願いした。
「ふふ、うへへ、そ、それじゃあ、私も見返りを求めさせてもらおうかな……」
波賀は陰湿な目元をにやけさせ舌なめずりする。俺よりよっぽど変態っぽい。
「わ、私が求めるフィギュアを用意できたら、す、スキルをコピーさせてあげるよ」
「なんで俺がフィギュアをつくれることを」
「ふ、福島ちゃん言ってたよ、『弟子は同級生女子のフィギュアをつくるのが趣味なんだ! この前、銀の聖女を守る会のひとたちと密造だなんだって揉めてた!』って」
「ええい、あいつ余計なことを……!」
「ヴぃ、ヴぃ、ヴィルトさまのフィギュアを私にもちょうだい……っ」
「……ふむ、仕方ない、まあいいだろう」
ヴィルトフィギュアならそれなりに数がある。
俺のコレクションを切り崩す形になるので、ただであげるのは抵抗があるが、スキルをいただくのだ。多少は俺も身を切らないと、道理が通らない
「それと、し、志波姫さまの、フィギュアも所望するよ……! ちゃんとおパンツを込みで! もちろん、ぺろぺろしたくなるような、すごくえっちな感じの汁──」
波賀の頭をひっぱたいて再び停止させる。センシティブの怪物か。
俺は深くため息をついた。とんでもないやつに関わってしまったのかもしれない。
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