再現性

「おさまれ!」


 スキルツリーには微妙に俺の神経が通っている。おかげで操作できる。元気にはしゃぐツリーを折りたたんで腕のなかに戻していく。もう明らかに俺の体内におさまりきる体積ではないが、戻せはするんだよな。不思議だ。


「はぁはぁ」


 ステータスを見やる。


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【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 151 / 100,000

 魔力 20,936 / 100,000

 防御 100,000

 筋力 100,000

 技量 100,000

 知力 100,000

 抵抗 100,000

 敏捷 100,000

 神秘 100,000

 精神 100,000

【Skill】

 『スキルトーカー』

 『スキルエナジー』

 『スキルオーバードライブ』

 『完成体力』

 『完成魔力』

 『完成防御』

 『完成筋力』  

 『完成技量』  

 『完成知力』

 『完成抵抗』

 『完成敏捷』

 『完成神秘』

 『完成精神』

 『形状に囚われない思想』

 『くっつく』

 『筋力の投射実験』

 『第六感』×3

 『瞬発力』×3

 『筋力増強』×3

 『圧縮』

 『ペペロンチーノ』×4

 『毒耐性』

 『シェフ』

 『ステップ』×2

 『浮遊』

 『触手』

 『たくさんの触手』

 『筋力で金属加工』

 『手料理』

 『放水』

 『学習能力アップ』

 『温める』×4

 『転倒』

 『足払い』

 『拳撃』

 『近接攻撃』

 『剣撃』

 『ハンバーグ』

 『聖属性付与』

 『闇属性付与』

 『黒い靄』

 『膂力強化』 

 『』  

 『』

 『』

【Equipment】

 『スキルツリー』

 『蒼い血』

 『重たい球』

━━━━━『スキルツリー』━━━━━━

【Skill Tree】

 ツリーレベル:6  NEW!

 スキルポイント:4

 ポイントミッション:完了

【Skill Menu】

『再現性』    NEW!

  取得可能回数:1

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 ツリーレベルが6になっている。

 そしてキモイクルミに収められていたスキルは……『再現性』?

 響きだけでは想像しにくい。詳細を開く。


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『再現性』

アクティブスキル

物の動きを再現する

【コスト】MP200

再現性とは繰りかえしの美学なのだ

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 つまりどういうことなんだってばよ。


「だめだ。いまの俺の頭じゃ、理解できそうにない」

「にゃーん(訳:今日は頑張ったからもう眠るといいにゃん)」


 翌朝。

 目覚めるとツリーキャットの姿はなかった。

 またひとりで旅立ってしまったのだろう。

 

 置手紙があった。

 『私は崩壊論者たちを追いかけます。邪悪な企みをもつ彼らから種をとりかえさなければ、きっと恐ろしいことが繰り返されます。赤谷君も学園生活がんばってください』

 最後に肉球で印が押してあったのでツリーキャットからのもので間違いないだろう。


 ツリーキャットのやつ、なんでもひとりでやりすぎな気はするけど……まあ仕方ない、俺にはあの子みたいにどこへでも潜入できる身体などないし、情報収集っていったってなにをすればいいかわからない。インテリジェンスキャットの役に立てることは少なかろう。

 

 寮で朝食をいただき、ダビデ寮長に昨晩の恐るべき事件について雑談をしつつ、アルバイトに出向き、重たい身体をひきずって第一訓練棟にやってきた。


「『再現性』ね」


 一応、何回か試用してその能力の全貌はうっすら確認した。

 この能力の本質は、一定の動きをくりかえすことにある。


 例えば、俺が鉄球を地面のうえに転がす。

 A地点からB地点に移動した鉄球。この一定の動きを『再現性』でいったん切り取る。

 鉄球を拾ってA地点に戻し、『再現性』を発動すると、鉄球は先ほど記録した動きにしたがってまったく同じ動きを再現する。


 なかなかユニークな能力だ。

 アルバイトの最中、福島が「昨晩の弟子はすごくかっこよかった!」とか「右手でキーボードを打ちながら、左手でスマホでなろう系小説を書くスキルホルダーを仲間に入れようと思ってる!」とか、目をキラキラさせて話しかけてくるのを話半分で聞きつつ、俺はこの難解なスキルの活用法を考えていた。


 すごく頭が痛くなった。

 とにかく痛かった。

 

「いいアイディアが浮かばない……」


 気が付いたら普段の鍛錬に逃げていた。

 『再現性』という新しいスキルを手に入れたというのに、その活用法を考えるのに飽きてしまっていたのだ。

 いろいろ思い付きはしたのだが、いかんせん複雑すぎる。いまの俺の思考にはいつだってリソース理論の響きがあって、あまり複雑なものはオーバーヒートを助長する要因になる、という危機感があるのだ。わざわざ現在の戦術に組みこむ必要はない。そういう惰性に逃げてしまうのも許されるのではないだろうか。


 そんなこんなで数日が経過した。

 森の里キャンプ場の大事件が校内で静かに噂されはじめ、俺が毎日のように向きあいつづけ、こいつひとつではどうしても活用が難しいと思い始めた。


 パズルのピースが足りない感じだ。

 これと相性のいいスキルがない。

 もしあんなスキルがあればなぁ……というないものねだりはあるのだが、ないのだから仕方がない。


 そんな風に思っていたある日、俺は右手でスマホをいじりながら、左手で備品チェックの項目に正確に数字とチェックを記入する少女をアルバイト現場で見つけた。


 そいつはまさに俺が求めていたピースだったのだ!


「ひえ……!」


 少女は震えるまなざしでこちらへふりむき、引きつった声をだした。逃げだした。

 俺は素早く触手を発動し! そいつを捕縛し! 騒ぐ口を塞いで! ちいさな倉庫に連れこんだ!

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