出張先でも保健室
周囲ではダンジョン財団の人間たちが騒がしく動いていた。
黒い武装を積んだヘリに、黒い車、黒い服装の大人たち。小銃をさげてるものたちは森に入っていき、怪我人は治療を受け、事件関係者は事情徴収される。ひと夏の憩いと思い出をあたえてくれる森の里キャンプ場はいまやテロ発生現場となってしまった。
俺はというと、財団の救急隊が用意してくれたベッドに横たわり、うーうーっと痛みにうなり声をあげていた。
「ひどい怪我だ。これは回復薬では治らないね」
「お医者さん、そこをどうにか治せませんか?」
「不可能だ。欠損が激しい。これは薬の領分を越えているよ」
救急隊には些事を投げられてしまった。
「ふふん、その怪我人、私に任せてもらおうかね」
「あ、あんたはドクター・島江永!?」
甘栗色のゆるふわな髪型をした美人があらわれた。
目鼻の整った顔立ちをしており、片手をポケットにいれ、俺をビシッと指差した。
「また君だ、ダンジョンホール事件に、疑似ダンジョン侵攻事件、体育祭の乱……そして今回の! すごい、最近起こってる大事件すべてに関与してる!」
島江永ハル先生は目をキランっと輝かせた。
「なんか俺が首謀者側みたいなニュアンスになってません?」
「完全に黒幕は判明したようだね、死んだ目をした子」
「先生、ちがうんです、俺のいった先々で大事件が勝手に起こるだけなんです! 信じてください!」
「もしかしたら私が疫病神を癒すから事件が起きてるのかもしれない。君のことを、二度と太陽のしたを歩けない身体にすれば、事件が起こることもない……?」
「とんでもないこと考えないでください……!」
みんな俺のことを疫病神だとか死神だとか思いつつあるようだ。
いかん。これ以上、厄介ごとに関わってたらいよいよ何らかの異常性を保有していることを疑われて財団に捕まって研究されてしまう!
「まあ疫病神説はのちほどの課題とするとして、今回は治してあげよう。かわいそうだしねえ」
「英雄高校の保健室には神鳥の弟子がいるんだったな。我々の仕事はなさそうだ」
財団の救急隊は島江永先生が来るなり「あとはお任せします、島江永ハルさん」と、うやうやしく頭をさげ、さっさとほかへ行ってしまった。そういえば島江永先生って回復系スキルの天才一族だとか、いつか誰かが言っていた気がする。偉い人なのかな?
「島江永先生ってやっぱりすごい人なんですね」
「ええ? そうかな~? えへへ、でも、まあ世界有数の能力者であり、天才であり、美人で優しいと君が評価したいのなら、まあ、その賛辞を受け取らなくはないかなぁ、えへへ」
そこまで言ってないけど、ずいぶん嬉しそうなのでそういうことにしておこう。
「学校からわざわざ来てもらえるんですね」
「『白衣の天使』はどこへでもかけつけるのだよ、目が死んだ子。出張保健室は珍しいことじゃないんだ。まあ、生徒のために出向くのはあんまりないけどね~」
「手当中のところ失礼、処置が終わったらそちらの男子生徒に話を聞きたいのだが」
会話に割ってすっと現れたのは黒スーツにサングラスをした怪しげな男だった。
俺は彼を知っている。もう会わないと思っていたが。
「エージェントKさん」
「もう会わないと思っていたが、思ったよりはやい再会になってしまったな」
「本当ですね」
チェインが絡んだ一連の騒動では、事件が終結するたびにこのひとに事情徴収されていた。チェインが逮捕された体育祭代表者競技の一件を最後にもう会わないものだと思っていたのだが。
「もしかして、あなたがここにいるってことは……チェインの事件は終わっていないんですか?」
「それはあとで話そう。あの車が見えるかな。治療が終わったら来てくれ」
エージェントKはそういい、去っていった。
島江永先生に全身の治療をしてもらった。
「もう傷はないかなぁ?」
「大丈夫です。ありがとうございます。ところで先生、あの怪物のなかに男の子がいたと思うんですけど、見つかりましたか?」
ツリーガーディアンは完全に沈黙し、生み出された木人たちも殲滅された。
あとはハヤテ君の安否だけが気にかかるところだ。
「生きているよ。すごい状況だったけど」
俺が先んじて情報を伝えておいたので、財団はツリーガーディアンの内部にとらわれているだろうハヤテ君を掘り出してくれたのだという。幸い、命に別状はないらしい。
頑張った甲斐があるというものだ。
「お、ちょうど運ばれてきた」
担架に乗せられて運ばれるハヤテ君の姿を発見した。
その身体はかなり樹木化が進んでおり”無事”かどうかと聞かれると微妙だ。
「生きてるんです、よね?」
「生きてはいるよ。このあとは病院に搬送されて、いろいろと処置をしたり、切除したりするんじゃないかな。あとは身体の具合もいろいろ調べないといけない」
大変そうだが、まあ、生きてれば、ええか。
ハヤテのことはけっこう心配だが、俺が気にしてもしょうがない。
治療が終わったあと、島江永先生にお礼を言って、俺はエージェントKのもとへ。
気怠い身体で助手席の扉をノックし、黒塗りの高級車に乗りこんだ。
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