赤谷誠 VS 雨男 2
赤谷は右手で『
雨男の放った水は、宙を自在に泳ぐ魚のように木々の間をぬけ、瞬く間に男の手元にもどっていく。引力でつかんで雨男のコントロールから脱出させようとしたが、赤谷をしてその軌道をとらえることはできなかった。
(水という限定触媒を使う以上、あの武器を失わせればほとんど勝ったようなもんだが)
赤谷は引力でひきよせるのはやめて、次の攻撃を待つことにした。
雨男は案の定というか、容赦ないというか、水を手元に戻した次の瞬間には三度、水を放っており、赤谷を容赦なく撃ち殺そうとしていた。
赤谷は待っていた攻撃をとらえ、引き付けてから空気を押すことにした。
『筋力の投射実験』+『形状に囚われない思想』
(『
赤谷の手前にあった空気が一気に移動する。
空気の塊が地面を削り、砂利と木の葉を舞い上げ、木々に亀裂を走らせた。
荒ぶる硬質の風は雨男が放った水の塊を、削りっていき、最後には水の一滴してしまい霧散させる。
それだけにとどまらない。
『形状に囚われない思想』が有する物質に固さや柔らかさを与える効果により、赤谷は空気にさせ固さを付与することができる。その効果範囲は従来のものとは異なり、スキルパワーの上昇でより広範囲に及んでいた。またこれまで牽制として使っていた押しだす風は、『筋力の投射実験』によって押しだせる空気の体積がおおきく増加したことにより、威力をおおきく上昇させていた。
直線状にした雨男まで届き、その身体を押した。
腰を落とし吹き飛ばそうとする暴風に耐え、腕を盾にして風を受け、雨男は薄目をあける。
彼の瞳は蒼い輝きをとらえた。遠隔攻撃を察知するやいなや、雨男はすぐさまその場を飛びのいて攻撃を回避しようとする。
だが、足元の様子がおかしかった。確かな地面のうえにたっていたはずなのに、気が付いたら巨大なとりもちの表面にたっていたかのような、不快感と不安定な感覚を覚えたのだ。
赤谷の『
「くっついちまったなぁあ!?」
それまでしゃらくさい水であしらわれてストレスの溜まっていたせいか、見事に策が決まり、赤谷はテンションがあがっていた。
融合スキルの採用により効果範囲をおおきく拡大させている。その射程は赤谷の周囲20mだ。この恐るべきヌタヌタ地面化現象を知らずに避けるのは難しい。赤谷自身そう自負している。
(地面の性質が変わっている。柔らかさと、くっつく性質? これは避けられないね。先ほどから右手に溜めをつくっていた攻撃か。威力が高そうだが)
雨男は回避をあきらめ、飛んできた『
1発が雨男の横をぬけ外れたが、1発が太ももに命中し、1発が肩に命中した。
(けっこう痛いねえ。でも、鋭利な痛みじゃあない。これもネバネバしているね。奇妙な性質を付与されているのか。ダメージを稼ぐ攻撃ではない。動きを阻害するのが目的かな)
雨男は赤谷が本命の攻撃までの手順を丁寧に組み立てていることを悟った。
赤谷は地面を蹴って、『ステップ』×2+『瞬発力』──『
(推定、近接攻撃は有効。雨男にどれだけの体術があるかは不明だ。対応されてカウンターをもらうかもしれないが……でも、恐がってちゃはじまらない。なにより殴ってみればわかることだ)
とっさの回避行動を潰され、動きのとまっている雨男へ赤谷は全力で殴りかかった。
今度は『筋力増強』をひとつ足した『
赤谷は片目を閉じ、痛快に炸裂した攻撃の快感を感じている一方で、まだコントロールしきれない『筋力増強』×2と『膂力強化』の組み合わせの反動を受けていた。拳を握りしめ痛みをこらえ、吹き飛んだ雨男にさらなる追撃をくりだす。
(『浮遊』と『
殴られ宙に浮いた雨男は、浮遊の力により空を地味にのぼりはじめていた。
加えて殴られた箇所には時間経過とともに火傷を刻む悪質な技が付与されている。これも雨男の思考力を奪い、状況の混乱を加速させる。
雨男は自身の動きがまたしても阻害されていることを悟った。だが、『浮遊』をかけられたことを理解したとしても、適切に行動し、『浮遊』がもたらす体重が極めて軽くなるという恩恵を利用できるものはいない。
無抵抗に浮いているところへ赤谷が追い付いた。『浮遊』を使いこなす赤谷に2発目の『
だが、なお攻撃は終わらない。
赤谷は雨男が『浮遊』がもたらす世界観にまだ適応できないのをわかっている。
攻撃を叩きこむならいまが絶好のチャンスだと無慈悲にも理解している。
だから雨男が2発目を打ち込まれ吹っ飛んでいくところへ手を伸ばし、強大な引力で掌握し、引き寄せて、再び拳が届く近距離へ強制連行し、三度目の『
地面に叩き落とされた雨男は、破壊された木々とえぐれた地面の途切れたところで膝をおっていた。崩れた前髪の隙間から、空からゆっくり降りてくる赤谷を見あげた。
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