どうして種は撒かれたのか
『
ツリーキャットがチェインの商売記録を調査して発覚したというキモイクルミこと『
俺からしてはチェインに力を与えた存在なので、それなりに迷惑なやつだが、ツリーキャットからすればいつも探している『
「しかし、なんでそんなやつがこんな辺鄙なキャンプ場に来てるんだよ。まさか夏休みのバカンスに来てるわけじゃないよな?」
闇の世界の大物なら、南国の海でプライベートフェリーにでも揺られて、麻薬でも吸ってそうなものだが。森の里キャンプ場にはこないだろう。
「にゃーん(訳:厳密にいえば、『
「シードホルダー……ついに現れやがったか。てか、またキモイクルミばら撒かれてるのかよ。こっちとしては有難いんやら、迷惑なんやら」
「にゃにゃーん、にゃん(訳:やつの目的は不明だにゃ。『
「久しぶりのキモイクルミチャンスだが、なんだか素直に喜べないな」
『
キモイクルミへの関心よりも、『
「でも、せっかくカモがネギをしょって現れたんだ。回収するほかないか。ツリーキャットとの約束だもんな」
俺はスキルツリーによって、かつてでは考えられないほどの評価をまわりからもらえている。本来ならとっくに英雄高校をやめて、借金をかえすことすらできず、あの家で腐っていただろう俺の運命は、ツリーキャットが運んできたこの右腕に宿る樹に変えられたんだ。
「にゃーん(訳:赤谷君は義理堅いにゃん。そういうところが大好きにゃん)」
「そうか。ならモフらせてくれ」
「にゃ、にゃ~!」
ツリーキャットをもふもふして、十分に吸ったあと、俺は導きに従ってシードホルダーのもとへ向かうことにしようとし────トントン、扉がノックされた。
「にゃー!」
ツリーキャットは弾かれるように機敏な動きで窓から外へ飛びだした。
扉が開かれ、志波姫と林道がはいってくる。
「赤谷! やっぱりここにいたんだね。肝試しの準備するから手伝って!」
「いまにゃーって鳴き声が聞こえたような……」
志波姫は訝しむ表情で部屋をきょろきょろ見渡す。猫好きなんだもんな。
「あーえーっと、俺はその、ちょっと用事があるというかなんというか」
「カレーを作った仕事量を過大評価しすぎよ。御託は良いから手伝いなさい」
志波姫と林道に連行され、俺は肝試しの準備にとりかかった。
森の里キャンプ場より、怪しげな森のなかへ入り、折り返し地点の紙をとって戻ることで、目標は達成となる。スタンダードなレギュレーションの肝試しである。ただし、紙をとってこないともう一回行かされるらしい。小学生たちはこの脅し文句で、必死になって紙を手に入れもどろうとするだろう。
「まあ、こんなところだろ」
「これで問題はなさそうね」
「ねえねえ、1回ルートを往復してみない? 実際にもどってこれるのか試そうよ!」
なんやかんや準備をして、森の里キャンプ場に戻ってくる。
ツリーキャットはどういうわけか林道と志波姫から姿を隠している。
のでこのふたりを振り切らないと、あるいはほかの人間から離れないと姿を現してはくれない。
「ちょっとトイレいってくるわ」
志波姫たちと離れて、俺は森のなかへやってきた。
「にゃー(訳:ようやくひとりになってくれたにゃ)」
「どうして隠れてるんだよ」
「にゃーん(訳:私の思念がうっかりほかのひとに聞こえたら喋れるスーパーキャットであることがバレてしまうにゃん。私はスキルツリーの神秘的な猫だから、正体をバレたくないんだにゃーん)」
「これ思念で話してたのか。ハイテクだな」
「にゃあ(訳:それじゃあ、シードホルダーのところへ案内するにゃん。すこし移動しちゃっているから追い付くにゃん)」
夕暮れ時のキャンプ場は、背の高い山によって陽がさえぎられ、時間のわりに暗くなるのがはやかった。雲の影の向こう橙色の天によって、世界が燃えているような不吉な予感を感じる夕闇のなか獣道をゆき、ツリーキャットがたちどまり、俺も足を止めた。
草陰から少年と少女の姿がうかがえる。
これは肝試しのルート……? そうか、もう始まってるんだな。しかし、折り返し地点ならもう通りすぎたように思えたが。ここはルートからかなり外れている。
「なにしているんだ、少年」
闇ハヤテ君はビクッとしてこちらへふりかえる。
足元に倒れている少女はぐったりして動かない。気絶しているのか。
「なんで、ここに、ぉ兄さんが……」
分厚いメガネの奥にある瞳は動揺に揺れ、手先は震えていた。
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