アルバイター林道琴音
スタンプラリーに出向いていたすべての班がもどってくる。
小学生たちの次なるスケジュールは川で水遊びすることらしい。
「まったく呑気なもんだ」
「わたしたちはしばらく自由行動になるらしいわね」
「スマホの充電も切れてるし、本もなにも持ってきてないし、こんな自然のなかでなにしろっていうんだよ……」
「修行でもすればいいんじゃないかしら。あなた好きでしょ」
「ここで……?」
流石の俺もそこまでストイックじゃない。
「うわあ! 赤谷も志波姫さんも、本当にいるじゃん!」
聞き覚えのある声に視線を向けると、黒髪をひとつ結びにしたザ・普通女子という感じの女が、薪を抱きかかえて俺たちをみて口を半開きにしていた。
「林道? なんてここにいるんだ?」
「いやいや、こっちのセリフだって!」
「騒がしい人に会ってしまったわね」
「ちょっと志波姫さん、ひどすぎだよ!?」
林道は涙目になってむーっと志波姫をねめつける。
「林道、お前、森に帰ったんじゃなかったのか」
「群馬のことバカにしないでよ、もう、せっかく久しぶりに会ったのにふたりともひどいよ!」
「赤谷君は人間と関わるのが下手だから、言い過ぎてしまったようね。林道さん、わたしから謝るから許してあげて」
「おい、志波姫、いい人のふりして、俺に責任をなすりつけるんじゃない」
林道に話を聞いたところ、彼女は英雄高校にすこしはやめに帰ってきて、再びアルバイト生活をはじめることになったのだという。福島と同じで職を求め、親の策略により英雄高校におくりかえされたらしい。
「それでオズモンド先生にこのキャンプ場におくりこまれたんだよ」
「俺たちとは別口なのか。いつからいるんだ」
「シーズンがはじまった時からだから、もう3週間くらいかな?」
「住み込みじゃねえか」
英雄高校って職業斡旋でもしてるんですかねえ。
「それで今日の分の薪割りを終えて、いま戻ってきたところなんだよ」
「すっかりキャンプ場のひとになってるな」
「えへへ、そうかなぁ。……えっと、その、それでさ、ふたりはどうしてここに?」
林道は俺と志波姫を交互にみやってたずねた。
「学校のボランティアだ。邪悪なるフラクター・オズモンドの策略によって強制連行・強制労働の刑だ。ちなみにしれっとしてるこっちの志波姫も前科者だからおなじく連行されてきてる」
「否定はしないけれど、赤谷君といっしょにされるのは誠に遺憾ね」
「なんだぁ、そうだったんだ……てっきりプライベートをふたりで来てるのかと思っちゃったよ……(小声)」
林道は「たはは」と疲れたような、安堵したような顔をする。
「お取込み中のところ悪いけど、ちょっといいかな? あれれ、林道後輩がいる」
「あ、ヒナ先輩もきてたんですか! 私は先遣隊アルバイターです!」
雛鳥先輩が桃色のサイドテールを揺らして、ひょこっとあらわれた。
「取りこんでいないので大丈夫ですよ。なんでしょうか、雛鳥先輩」
「小学生たちさ向こうで遊んでいるらしいから、わたしたちもなんか遊ぼうって思ってさ! 赤谷後輩、興味あるでしょ?」
雛鳥先輩は首をかしげ、肩をぶつけてくる。いい匂いがする。こんないい匂いのする美少女と自然のなかレクリエイションを楽しむというのか。うーん、非常に興味あります。
「時間があるなら川に行ってみたらどうですか? ここの川、けっこういいんですよ」
「いやぁ、そのつもりだったんだけどねえ、林道後輩。さすがに小学生たちがはしゃいでる横で、私たちがはしゃぐわけにもいかないじゃん?」
「あぁ、なるほど! それじゃあ、裏リバーを紹介しましょうか?」
林道はふふふっと不敵な笑みを浮かべる。
「裏リバー?」
「キャンプ場の一般客には解放されていない川です! この地で働くものしかしらない秘境ともいえるかもですね!」
「ほほうぉ! 流石は先遣隊アルバイター林道後輩だねぇ。それじゃあ、その川とやらに集合ね!」
話はトントンと進んでいき、アルバイター林道により開拓された秘境の川にいくことになった。一般人には隠匿された秘密の地、いったいどれだけシークレットレベルが高いのかワクワクしたが、場所を教えてもらうとなんということはなかった。小学生たちが遊んでる地点より200メートルほど上流にのぼっただけらしい。
俺は薬膳先輩と鳳凰院に声をかけるように雛鳥先輩よりおおせつかったので、不本意ながらあの変なひとたちを呼びにいくことになった。
薬膳先輩は、額に汗をにじませ、袖をまくしあげ、不愉快そうに顔をゆがめて、管理人のバーベキュー場の屋根の下でうなだれていた。
「白衣は失敗だったんじゃないですか」
「はははっ、TPOだよ、赤谷。それに物事の是非を決めるにはまだ早々というものだぞ。科学では失敗こそ、成功へいたる一歩と考えるものさ」
演技がかった声でごちゃごちゃ言っているけど、服装に関してはたいていのシーンでTPOを満たせていないと思う。
「雛鳥先輩がみんなを集めて秘境の川へいこうと言ってましたよ」
「仕方ない、もう動きたくなどないが、出向いてやるか。水場でぱしゃぱしゃしてる雛鳥ウチカをみれれば多少は元気もでるだろう。やつはビジュアルだけは優れているからな」
「鳳凰院がどこにいるか知ってますか」
「あの怪しげな男か」
「自然のなかで白衣をはためかせてる男も大概怪しいと思いますが」
「福島とかいうやつと一緒に川にいくとかなんとかって話をしていたが」
まあ、あのふたりは独自の世界観で生きてるから放っておいていいか。別に誘われなくても怒るような感じじゃないだろうし。
俺と薬膳先輩は件の秘境の川へと向かった。
そこで発見した。
清流のなか、水着姿でたわむれる女子たちを。
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