スキルオーバードライブ

 ヴィルトフィギュアを使った大いなるビジネスチャンスがやってきてしまいました。

 

「なんという完成度だ、本当に素晴らしい……」

 

 崇高先輩は大変にヴィルトフィギュアを気に入ったらしく、宝石を扱うような手つきでその造形に目を見張っていた。


「この陰影、質感……まさに匠の仕事だ……変態に技術をもたせるのがこんなに恐ろしいとは……」

「聞こえてますよ」

「これは尊敬ですとも、匠赤谷」


 なんか喋り方変わったな。


「資金をためて出直してきます。その時までこちらの聖女像は取り置きしておいてください、よろしくお願いします」

「わかりました。いつくらいに取りに来ます?」

「夏休み明けには資金を集められるかと」


 まあ、そうか。

 20万円、つまり英雄ポイントにして40万ポイント。

 それだけ稼ぐのは時間がかかるよな。


「わかりました。お待ちしてますよ、崇高先輩」


 崇高先輩は一礼して去っていった。

 

「買ってもらえれば、一撃で20万円の収入。デカいなぁ」


 翌日。

俺はうきうきでアルバイトに出かけ、帰ってくるなり、ポイントミッション『素振り漬けの日々』をこなした。


━━━━━『スキルツリー』━━━━━━

【Skill Tree】

ツリーレベル:5

スキルポイント:14

ポイントミッション:完了

【Skill Menu】

『スキルオーバードライブ』

 取得可能回数:1

 解放コスト:10

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ようやく手に入れることができる。

 解放コストだけで10ポイントもっているいかれる高級スキル『スキルオーバードライブ』。ツリーウィンドウを指でなぞって詳細を確認する。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『スキルオーバードライブ』

アクティブスキル

スキルを一時的に強化する

【コスト】スキルポイント2

一歩先のスキル体験へ

ライバルに差をつけろ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 【コスト】としてスキルポイントを消費するのはかなりキツイんだが。

 それだけの威力がこのスキルにあるのだろうか?


「お高くとまってるな」

 

 今日は解放コストの10を支払っても、まだ4スキルポイントが余る。

 2回分は『スキルオーバードライブ』を試すことができるだろう。


「スキルを一時的に強化、ですかい」


 何事も試してみることが一番手早く、効果的だ。

 スキル運用を日々考える俺がたどり着いた研究者的思考である。

 

 俺は『スキルオーバードライブ』を発動する。

 強化するスキルを選択する。『たくさんの触手』でも強化してみるか。

 

「異形系スキルの強化ってどうなるんだろ……ん?」


 ステータスウィンドウを見やると、『たくさんの触手』の欄がぴかーんっと光って主張を強めていた。強化されてますよってことかな。


 なんだか、腕に違和感が出てきた。

 皮膚の内側でうごめいて、巨大な力が暴れだそうとして……ま、まずい! 


「うぐぉおおお! なんだ、これはぁあ!?」


 うごめく触手はより太く、長く、凶暴さを増し、俺の肘当たりに生えていたフジツボみたいな穴を突き破って飛び出してきた。それどころか、フジツボ器官だけじゃなく皮膚を裂いて触腕が二の腕、肩あたりからも飛び出してくる! クソ痛ええが、スキルツリーを毎日生やしてるのでこれくらいはなんともない。


 まずいのは明らかに制御できないこと。まるで生き生きとしたタコををわしづかみにした時みたいに、触腕が暴れまわってあたりを床をべちべち叩き、俺の顔面すら叩こうとしてくるではないか。


「ぐうう! コントロールできないなんて話じゃねえぞ、この野郎、俺が主人だぞ、いうことを聞け!」


 『たくさんの触手』を押さえるために、もうひとつの触手スキル『触手』で制御しようと試みる。だが、『触手』よりずっとスキルパワーで優れる『たくさんの触手』を抑制することはむずかしかった。

 

 触手の暴走は加速し、なにかを察知したかのように訓練場の扉へ一気に向かいはじめた。

 長さも、量も、太さも、強さも、増し増しになった触手どもは、訓練場の扉をいともたやすく突き破ってしまう。なんというパワーだ。『筋力増強』とか使ってないのに、これだけの力が触手に宿るなんて。


「うわああ! なんかキモイ化け物でたぁあ!?」


 訓練場の廊下で聞き覚えのある叫び声をあげたのは福島凛だった。最近はよく顔をあわせてるアルバイト仲間であり、黒魔導の師である。って冷静に思ってる場合ではない。


「福島、逃げろッ!」

「うあああ!」


 触手は容赦なく福島に襲いかかった。

 強力な触手は福島の四肢を拘束し、その幼げな肢体の輪郭をたしかめるように、ヌメヌメと服のしたに潜りこみ、彼女のおへそ這って登っていく。短パンのなかにもスルリとはいり、太ももに巻き付くようにのぼっていった。触手は意志をもっているように、彼女の自慢の眼帯もぺろっと外して、その下が別に魔眼でもなんでもないことすらさらけ出してしまう。


「これエロ漫画のやつ!? うあわああ! 弟子に犯されるぅ!?」

「めったなことを言うんじゃないっ! いまどうにかするから耐えろ、うおおお!」

「私が頑張れることなんもないんだけど!? うああ、制御できないふりしてもっとえろいことされる────ッ!」

「してねえって!」


 十数秒の必死の攻防ののち、俺はこれまでに培ってきた膨大なスキルコントロール経験をつかって、どうにか『オーバードライブ』×『たくさんの触手』を制御し、福島から引きはがすことに成功した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る