破壊報酬

 聖女十字軍の3名が気を失っている隣でしばらく待ってると、ひとりがハッとして目を覚ました。メガネをかけたリーダー格の男だ。


「ここはだれ、私はどこ……?」

「おはようございます」

「ひえぁああ!?」


 男はひどく怯えた様子で這いずって逃げようとする。

 だが、身体が地面に半分埋まっており身動きがとれていない。

 寝ているうちに『形状に囚われない思想』で埋めて固めておいたのだ。


「うま゛っでる!?」

「あなたは埋まっています。どうしたってそこからは出られないと思います。抵抗は無駄です。俺だけがそこからあなたを出すことができます」

「尋問スタイルというわけか。なんてやつだ」

「ちなみにあなたのスマホと学生証も地面に埋めてあります。俺だけがとりだせます」

「本当になんてやつなんだ!?」 

「3年3組、崇高久雄さん、悪い人ですねえ」

「ど、どうしてその情報を」

「さっき学生証を見させていただきましたよお。じーっくりとねえ」

「うっ、反社に個人情報を握られたような気分だ……っ」

「決闘前の約束、覚えてますよね? フィギュア製造に関しては目をつむっていただきます。そして、スキルもひとついただきます。さて、だれにしようかなっと」


 崇高先輩にご協力いただき、俺は3名のなかから興味のあるスキルを選んだ。

 『』が複数あれば一個ずつくらいもらおうとも思ったが、現在『』はひとつしかないので、一個だけ選ぶ形となった。


 この崇高先輩はバフスキルをいくつか持っているらしく、ほかにもちょっとした魔法系攻撃スキルも持っているようだった。

 いくらか悩んだのち、俺に腹パンしてきたあの武闘派っぽい川峯先輩のスキル『膂力強化』をいただくことにした。


 崇高先輩のもっているバフスキルも面白そうではある。

 でもね、俺たぶんそれを使ってあげられる人がいないんだ。

 もしかしなくても、たぶん俺はソロ探索者になると思う。

 これまでがそうだったように、これからもそうなんだ。


 そういうわけで使いやすそうで、負荷も軽そうで、これまでの俺のスキルコンボに組み込みやすそうな『膂力強化』をコピーした。強化系スキルなんてなんぼあってもいいのでね。


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『膂力強化』

アクティブスキル

全身の筋力を強化する

【コスト】MP50

特別な仕掛けはありませんよ

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 いいスキルですねえ。俺の主義にあっている。

 

「もういいだろう、解放してくれないか……」

「む、それもそうですね」


 聖女十字軍の捕虜たちを地面から出してあげた。


「まさか、こんな強いだなんて……」

「代表者競技優勝はまぐれじゃなかったのか」

「俺のスキルもってかれたっす……」


 お通夜みたいな感じでひきあげていく聖女十字軍を見送ってると、なんか俺が悪いことしたみたいな気分になってしまった。


「さてと、『膂力強化』の具合を訓練場でみてみようかな」


 第一訓練場にいこうとすると、遠目にこっちを見ている大人の姿がみえた。

 あれはオズモンド先生……あれれ、おかしいな、なんか建物を指差してますね。


「4階の窓が派手に割れてるようだ」

「どうして、ですかねえ。まったく心当たりがないです」

「さっき福島が近くを通りかかってな。事情をきいたらいろいろ話してくれたよ。決闘したとかなんとか」

「あっ……」


 翌日。

 スマホに窓ガラスの交換費用10万円の請求がきていた。

 

「もうお金なくなっちゃうよー」


 金が必要だ。本当にこの国はどうして生きているだけなのにこんな金がかかるんだ。信じられないよ。


 日々のアルバイトで1万英雄ポイントは稼げてるけど、ポイントと円のレートが2:1くらいなので多くは稼げていない。訓練棟に通ってる分があるので、実際は倍くらい英雄ポイントを稼いでいるが、それでも返済のことを考えれば、高校の間稼いだ分はほとんど返済にあてることになりそうだ。


「どうにか収入源を確保できないものか」


 収入を増やす方法、なにがあるだろう。

 副業か? それとも汚い仕事でも見つけるか?


 いろいろ考えながらアルバイトに出かける。

 福島といっしょにワックスがけをしている間、よいバイトがないかを聞いてみたがそれらしい情報はなかった。


「くっくっく、私はそれなりにアルバイトに励んでいるけれど、専門家の私からしても、1000万返済するためには3年くらいかかると思うかな!」

「やっぱりそうなのか」

「楽なしのぎはないのだよ、弟子」


 アルバイト終わり、男子寮にもどり、シャワーを浴びると人がたずねてきた。

 生真面目そうなメガネの男だ。神妙な面持ちでたっていた。

 今日は白装束ではなく、灰色のスウェットという退廃的な雰囲気である。


「崇高先輩、なんのようですか」

「赤谷、昨日は本当にすまなかった」

「なんです、いきなり。もう終わったので気にしてないですよ?」

「そうか。それはありがたい」


 崇高先輩はこほんこほんっと咳払いして、言葉を選ぶようにしてきりだした。


「厚顔無恥なことを承知で、お願いしたい……聖女像の件なんだが、実物を見せてほしいんだ」

「ふーん」

「……そうだよな、やっぱり、無理なお願いだったな。いや、すまない。本当に。忘れてくれ、あまりに虫のいい話だったな」

「いいですよ。別に」


 見たいと言われたら見せたくなる。

 作品は他人に見られて初めて完成する。


 ヴィルトフィギュアもとい聖女像は存在自体がシークレットなため、他人に見せるという発想もなかったし、機会もなかった。ただ、不可抗力でバレてしまった以上、存在を知ったものには作品を閲覧させてもいい気がする。というかしたい。感想をもらいたい。


「ただし、約束を守ってもらいますよ。俺が聖女像を作ったことは誰にも言わないでください。情報が洩れたのが分かり次第あなたを埋めます」

「……っ、もちろんだ。だれにも言わない」


 約束してくれたので、俺は崇高先輩を部屋にいれてあげた。

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