聖女十字軍、破壊
探索者パーティはそれぞれの力を最大限発揮することを目的に構成される。
各々役目をまっとうし、連携することで、個々では1の力をもつ3人組だが、その威力は10にでも、100にでもなるというものだ。
素の実力では敵わない敵だって、バフさえもらえば簡単に倒せたりすることもある。
遠距離からの援護があれば、相手は常に自分の手の届かないところからの脅威にさらされ、それを意識して立ち回らなくてはいけなくなり、相手の集中力を大幅に低下させることができるだろう。
これらは複数人いるからこそできる連携プレイだ。
対モンスターにせよ、対人間にせよ、通常このような陣形をひとりで突破するこはできない。そもそも1対3という人数差を覆すことは基本的には不可能だ。それが構成をもつパーティならなおのこと。
高山の放った魔力の鋭矢が赤谷へ肉薄する。
ゆったりたちこめる黒い靄に風穴をあけ、同様に赤谷の頭にも穴を穿たんとする。
赤谷が手のひらで受け止めると、蒼い花火のように激しく魔力が砕け散った。
川峯は一気に懐までくると、腰をいれた拳を打ちこんだ。
赤谷の腹筋を破壊し、内臓に甚大なダメージを与え、血反吐をはかせる。
そこまでのビジョンをもって打った川峯のボディーブローだった。
金属質に変貌した拳が赤谷の腹筋をとらえた直後、ガンッ! っと火花が散り、金属片が飛び散った。
スキル『硬化』で変質していた川峯の鉄拳が、鮮血とともに砕けたのだ。
火花とともに散った自身の拳片をみて、川峯は目を見開いていた。
彼は普段からあまり頭を使うことが得意じゃなかった。
戦闘スタイルも強化系スキルをつかってつっこんで殴り飛ばすシンプルなものだ。
持ち前の耐久度と攻撃力と素早さですばやいインファイトを仕掛ける。
その実力には十分な評価が与えられていた。本人も自信をもっていた。
しかし、赤谷を殴った瞬間、その自信は雲散霧消してどこかへいってしまった。
赤谷は直立姿勢のまま、一歩も動かず、5センチほど芝生のうえを滑って後退していた。
彼を襲ったのは上級生の速力から放たれた勢いのままの全霊の攻撃だったはずだ。
それを腹筋の力で受けきった。
それどころか、攻撃した川峯の拳が砕けてしまっている。
赤谷は硬かったのだ。川峯の硬化よりも硬かったのだ。
川峯は手応えからこの経験を思いだす。
これまでいままでいろんなものを殴ってきた。
人間、冷蔵庫、自動車、トラック、学校。
どれとも違う。これはなんだ。疑問をいだいたすこしあと答えを見つける。
山だ。夏休みに拳を鍛えにのぼった峰だ。
あの岩壁を殴ったときに似ていたのだ。
川峯の全身から冷汗が湧きだす。
ぼそっと「ごめんっす……」と謝った。
謝罪への返答は、鋭い蹴りだった。
赤谷のつまさきが川峯の鳩尾をとらえてふっとばし、校舎の4階の窓に見事にシュートしてみせる。サッカーボールを蹴りこむ勢いで、人間の身体がふっとんでいくのは現実離れした光景なものだから、崇高も高山も、口を半開きにしてそのさまに思わず目を奪われた。
前衛が一撃で処理され「あ、まずい状況なんだ」と気が付くのに数秒ほど要した。
崇高はハッとして正面を向くと、赤谷はすでに目の前に立っていた。
彼はスキルで召喚された光旗をつかみ、足で払って崇高を転ばせた。スキル『足払い』と『転倒』が発動したため、崇高はなすすべなく 体勢を崩し、芝生のうえに倒れてしまう。
魔力の矢が3本つづけざまに放たれた。
赤谷へ向けれられたそれらは、彼の緩急のある迅速なステップで狙いを外されてしまう。
赤谷は魔術を放った高山を見やり、手を差しだす。
王子が姫の手をやさしくとるかのようなゆったりとした所作だ。
さっきから魔術で攻撃をしかけていた高山は、赤谷の意識が自分に向いた途端、体の震えがとまらなくなっていることに気が付いた。それが恐れだと気づかないほど高山は愚鈍ではなかった。
(川峯をあんな風に蹴り飛ばして、崇高さんを無力化した……! 俺の魔力の矢も見てから避けられる……!)
高山は状況の不利を察して、剣を抜き放ち、その刃に魔術で青紫色の輝きをまとわせた。
エンチャント完了し、腹をくくって剣で戦いを挑もうと1歩踏み出した途端、彼の魔力の剣はへし折れていた。鋼片と火花が鮮やかに踊り、砕けた魔力の粒が飛散する。赤谷のやさしい手元から放たれた固められた空気弾は、放つだけで鋼を穿つ威力をもっていたのだ。
当然、高山は自分がなにに攻撃されたのかすら気が付いていない。
気が付いたらエンチャントした武器が破壊されていた。
そんな不可解な現象を経験した直後、彼の頭も見えざる弾でぱこーんっとはじかれた。
派手にすっころんで動かなくなる。気絶したらしい。
「弟子、ちょーつよいじゃん……」
福島は感心した声をもらす。
「高山……! 高山……! 返事をするんだ!」
崇高は信頼する右腕が倒されたことに、ひどく動揺していた。
「銀の聖女を守る会のみなさんとは平和に過ごしたかったのになぁ、残念ですねぇ」
「ひぃ、く、くるな……っ、来ないでくれぇ、え! くそ、どうして立ち上がれないんだ!」
芝生のうえでもがく崇高のもとで、赤谷は膝をおる。
ニチャついた笑みを浮かべながら、そっと手を崇高の顔にのばした。
「や、やめええ! やめてくれえ、俺たちが悪かったから許し────」
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