聖女十字軍、準備万端
謎の白装束たちが校内で宗教活動をしているのは一部では知られている話だ。
俺はそれが銀の聖女を守る会の活動だとも知っている。
そして彼らに恨まれているとも自覚している。
ヴィルトフィギュアは彼らの言葉に置き換えれば、聖女像になる。
心のどこかでは危惧していた。会に見つかればこれは恨まれるだろうな、と。
でも、俺の言い分も聞いてほしい。
「赤谷誠、お前は重罪人だ」
「おとなしくするなら痛いことはしないっすよ」
「抵抗するのなら我ら聖女十字軍は容赦しないぞ」
「ちょっと待ってくれませんかね、フィギュアのことに関しては一応、ヴィルト本人から製造許を得ていましてね」
「ならば製造許可証をみせよ」
「許可証はないですかもしれないですけど」
どこで発行してもらえるんですかねえ。
「弟子、なにか悪いことしたのか?」
「あっ、いや、俺はべつになにもしてな、いが? 福島、あいつらの言葉に耳を貸すなよ」
「その男は、銀の聖女アイザイア・ヴィルト様のフィギュアをつくり、本人に贈った罪を背負っている」
「そいつは密かに同級生の女子のフィギュアをつくるような密造キモ野郎だ」
福島は目元に影を落としドン引きした顔をした。
終わった。俺の秘密の趣味がバレてしまった。
そうだよな。キモイよな。露見すればこうなるとわかってたよ。
「彼らの言ってることは本当なの、弟子?」
「うっ……それは……」
「……。本当なんだね」
「くっ、聖女十字軍、いったい何が目的なんだ、こんな他人の名誉を地に貶めるようなことをして!」
「シンプルキモ行為に走ったお前が悪いんだろう!」
それはそうなんだけど!。
「私たち聖女十字軍がお前への罰を執行する。甘んじて受け入れよ」
白装束の者たちの背後、見覚えのある先輩がそっと出てくる。
決闘部の先輩だ。林道と虎使いが戦ったときもこの人が決闘を預かっていた。
白装束の者は段取りをつけてきたらしい。
「我々の要求はお前の密造した聖女像の押収だ。抵抗しなければ痛い目はみないぞ」
「あの、決闘部のかた、この決闘って敗北者が要求を吞まないといけないルールがあるんですか」
「ない。こっちの信者たちが勝手に言ってるだけだ」
決闘部の先輩にたずねると、彼は淡々と答えた。
「決闘部は見届けるだけだ。喧嘩したいのなら私たちの目の前ですれば、まあ、たいがいはお咎めなしになる。それだけだ」
決闘部は一歩下がり、俺と銀の聖女を守る会のちょうど中間あたりで腰の裏に手をまわし、傍観者に徹する姿勢をみせる。
どうしたものか。
すでに俺の名誉は傷つけられ、福島師匠はドン引きしてしまった。
聖女十字軍が引くことはないだろう。やると言ったらやる連中だ。
「ところでメンバー少なくないですか、普段詰められるときはもっと圧迫されるんですけど」
「手心を加えてやってるのだ。わかれ」
「それはどうも。会の皆さん、俺があなたたちを打倒した時のご褒美を思いつきました」
「なんだと、ご褒美だと?」
「重罪人のくせにご褒美をねだるつもりっすか?」
「もちろん。なにかを要求するのなら、なにかを要求されても仕方ないっていうものでしょう。別に俺はこの決闘につきあわなくてもいいんですよ。逃げればいいんですから」
「そうなれば私たちはお前を影で抹殺するのみ」
こわっ。
「まあ、ご褒美はたいしたものじゃないですよ、俺が勝ったらスキルをいただきます」
「スキルを?」
俺は『スキルトーカー』について教えてあげた。
「そんな陰湿なスキルをもっているとはな。お前の性根があらわれているってわけか」
「いくらでも悪事に使えそうなスキルもちやがって」
「こいつ絶対将来崩壊論者になるっすよ」
悪よりのスキルなのは自覚してます。
「まあ、よかろう。それで聖女像が手に入るのなら条件をのもう。決闘部が立ち合い人にいるんだ。そちらも約束はたがえるな」
聖女十字軍のリーダーっぽい男はそういい、癪にさわる所作で、メガネをくいっと押しあげた。
「ちょっと待った!」
福島は俺のまえに出るなり、手を横にひろげ、聖女十字軍のまえに立ちふさがった。
「お前、どうして」
「変な性癖をもっていても、私は見捨てないよ。だって友達だからね」
「福島……」
「同級生の女子のフィギュア作ってるのは流石にきびしいけど……そっちの上級生たち、この変態に手をだすというのなら私の闇が、あなたたちを呑みこむ覚悟をするがいい……っ!」
すこし震えながら福島は警告をはなつ。
どうどうとしてる。俺を守るために。
なんて良い奴なんだ。
こいつただの痛いガキじゃなかったのか。
まったく、格好つけやがって。
「福島、十分だ。これは俺の招いたこと。俺の戦いだ。福島はさがっててくれ」
「くっくっく……それじゃあ、あとは頑張って!」
「ぁ、すこしは粘れよ」
すげえすんなり下がりましたが。
本当は上級生に挑むの恐かったんだろうなぁ。
──
光を飲み込まんとする暗黒の靄が中庭にたちこめている。
これが平時なら大騒ぎだ。先生や風紀委員がとんできて犯人探しがはじまる。
だが、いまは夏休み。この中庭で憩うものもいない。トラブルにもならない。
(ゆえに伸び伸び暴れられる)
「大罪人め、沈めてやる」
崇高はメガネをクイッと押しあげて、手を掲げる。彼の右手の甲には輝く印がある。
スキル『勇気の印』が発動した。仲間に攻撃力上昇バフをかける効果をもつ。
今度は左手をまえへ突き出して空を握った。手のなかに光の旗が出現する。
スキル『旗手』により召喚された魔法の光旗を突き立てている間、スキル使用者は移動能力が著しく低下し、攻撃もできなくなる。代わりに味方に攻撃力上昇と移動能力上昇のバフを授けるができる。
「祝福は放たれた。ゆけ、
アホ面の川峯と、澄ました高山にバフがはいる。
川峯はスキル『膂力強化』『硬化』を発動して戦闘準備を整えるなり駆けた。
高山は魔術『魔力の矢』を発動した。
青紫色の光が矢となって飛翔し、赤谷に襲い掛かる。
(探索者パーティの理想的な布陣だ。近距離で暴れる川峯と、遠隔からの脅威となる高山。そして、ふたりにバフを飛ばす俺。ヒールも飛ばすことができる俺がいるかぎり、川峯が倒れることはない。川峯が倒されない限り、高山の魔術がとまることはない。高山の魔術が飛ぶかぎり、俺のもとまで赤谷の攻撃が届くことはない)
赤谷のことは嫌いだが、侮ってはいない。
だから、崇高は準備を整えてきていた。
絶対に赤谷を討てる布陣を用意してきたのだ。
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