達人系が似合わない男
連打の意味は理解できた。すなわちスキル連続使用だ。
まず『黒い靄』を発動し、手のなかに靄の塊を生成する。
スキルコントロールして、塊をなるべくちいさく収縮させる。
もう一度『黒い靄』を発動する。こうして靄の塊を固める。
そうすると圧力が高まる。
これを解放すると、一気に闇が広がるといった感じだ。
なるほど、理屈は理解できたが、これはかなり難しい技術だ。
「さすがに本職勢と同じことをするのは難しそうだな」
チェインとの戦いのときも感じたことだが、スキルをコピーしたとて、その瞬間から元々のスキルの持ち主と同等に力を扱えるわけではない。
そのスキルの所持者たちは、長い時間をかけてそのスキルに向き合い、活用法を考え、熟練度をあげているのだ。
「達人系スキル、と呼ぼうか」
俺は同じスキルをもっていても、同じ現象、同じ性能で運用できないことをそう呼ぶようにした。つまり多くの研鑽を必要とされるスキルのことだ。福島の『黒い靄』は達人系スキルといえるだろう。
こういった達人系スキルは、俺には向いてないと感じる。
もちろん、俺だってスキル熟練度を高めることはする。
『筋力で金属加工』は一番がんばっている科目だろう。
だからこそわかることもある。
熟練度をあげるのって大変なのだ。
1つのスキルの可能性を最大限に考え、模索し、そして運用する。
それを続けていくとある日「あれ、こういう使い方もあるか?」という閃きを得る。
達人系スキルはそういう道程を得てたどり着いた成果なんだ。
正直いうと、俺はひとつのスキルを極めることはしていない。
というか、わざとしてないと言ってもいい。理由は面倒だとわかってるから。
これはあらゆることに言えるだろう。
例えばゲーム。
レベル1からレベル30まであげるのは、わりかしはやい道のりだ。
だが、レベル30からレベル60はそれまでよりたくさん経験値を必要とされる。
例えば製造ライン。
製品をつくる過程で不良品を減らすために機械の精度をあげよう。精度90%までは楽にあげれた。だが、90%から95%にあげるのは難しい。95%まで頑張ってあげても、その先の5%を求めて、精度100%に近づけるのはもっと難しい。
ひとつのスキルを極めるというのはそういうことなんだ。
効率の悪いこともしなくてはいけなくなる。
俺はこれが苦手で避けてしまってる。
1つでだめなら、2つのスキル使えばいいじゃん、と考えてしまうし、実際そのほうが効率はいいと思う。
漠然とそんなことを思いながら俺は『黒い靄』+『圧縮』+『筋力でとどめる』を組み合わせて発動する。俺は可能な限りの連打で『黒い靄』を連続使用し、圧縮のなかへ注ぎこんでいく。
「──『
闇を解放すると、圧縮された霧はぶわっと拡散し訓練場を覆いつくした。
翌日、アルバイト終わりに福島に同じ技を見せてあげた。
「えええ!? 私の必殺技がぁあ!?」
半泣きでこちらを見てくる。
「やはり、天才だったの!?」
「スキルだけは恵まれていますね」
「うぅ、うれしい、よ、弟子が才能あふれる子で……私はうれしいなぁ……」
「師匠、泣いてます」
「うるさいよ、弟子、あっち向いてて」
「俺のはインチキみたいなので気にしなくていいですよ」
「気を使われるのが一番やだ!」
福島は『黒い靄』だけでこれができるんだ。
難しいことをやってる。普通は探索者は同じ系統のスキルホルダーばかりと時間をともにすることはないだろうし、だからこそ自分のスキル熟練度も実感しにくい。
でも、俺は同じスキルを使える。だから実感した。
福島は思ったより尊敬できるやつなのかもしれない、と。
あるいは福島だけじゃないのかもしれない。
もしかしたら強スキルだと思っていたものは、熟練度が普通のままでの運用だと、意外としょうもなくて、それが強く見えているのは、そのスキルの持ち主たちがそれぞれで十分に工夫し、鍛錬し、発展させたものなのかもしれない。
そう考えれば相手にリスペクトをもてるというものだ。
俺は以前よりもだいぶ物覚えがいい。
技量ステータス100,000と『学習能力アップ』あたりの祝福が機能してるんだと思う。
ただ、同時に実感もしてることがある。やっぱり俺って極めるの苦手なんだ。
早熟で効率良く強くなれるところまでは楽しいが、そこから苦難成分が入りはじめると、ひとつのスキルを繰り返し使って地味な鍛錬をつづけるのではなくて、ほかのスキルと掛け合わせたコンボばかり考えているのだ。
強くなるとか、研ぎ澄ますってことは、楽なことばかりじゃないのだろう。
どうしたって停滞が付きまとうものなんだと今では思える。
この考えにたどり着けた。俺もすこしは成長できているかな。
「俺もなにか極めたくなってきました、師匠」
「弟子? やめて、これ以上、私の黒魔導を極められたら私のアイデンティティが……!」
「黒魔導の道のりは険しいです。師匠はすごいですよ。頑張ってます。だから越えることはないですよ、たぶん」
「弟子ぃ……」
「師匠、なにか好きなもの言ってください」
「暗黒、闇、魔術!」
「じゃあ、ドクロとかでいいですか」
俺はポケットからちいさな鋼材を取りだし、素早く成形し、ドクロをつくる。どうせ師匠こういうの好きだろ。
「はいこれ。師匠にあげます」
「うおお! いいの!?」
案の定、好きだったようだ。わかりやすくて助かる。
というわけで、ひとまずは『筋力で金属加工』を極み科目に設定しようと思う。
修練方法はやはり、精巧なフィギュアをつくることが推奨されるか。
厳しく苦しい鍛錬だ。本当はやりたくないが、毎日ヴィルトフィギュア週間をはじめるしかない。
「見つけたぞ、大罪人よ」
「あいつが赤谷誠っすね!」
「周囲に邪悪な霧がたちこめている。この闇。やつの心のありようを示しているというのか」
変なひとたちがやってきた。
白装束に身をつつんだ男たちだ。
ん、待てよ、あの恰好……まさか会!?
「ぎ、銀の聖女を守る会のみなさん、どうしたんですか。なにか俺に用でも……?」
「赤谷誠、これより聖女十字軍の名のもとにお前を裁く!」
「罪状の最たるは聖女像密造罪だ」
「弁明くらいは聞いてやるっすよ!」
聖女像密造……? そんなもの心当たりが………………あった。
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